10年前の2004年6月7日、北欧ブラック・メタルの源流にしてヴァイキング・メタルの開祖、QUORTHONが心臓発作で亡くなりました。そうですか。もう10年も経ちましたか…。38歳での夭逝は非常に残念な出来事でありましたねぇ。

VENOMを雛型とするエクストリームなメタルは米国西海岸でスラッシュ・メタルとして花開いた一方、ヨーロッパにおいてはアンダーグラウンドなマイノリティの世界に埋没しつつ、より尖鋭的なサウンドに特化していきました。特に北欧ではキリスト教以前の土着宗教と結び付いた思想的反逆が教会への放火など実際の犯罪へと転化され、一時は大きな社会問題として扱われるような事態となってしまいました。

そんな北欧型ブラック・メタルの分水嶺となったのが1984年にデビューしたバンド・BATHORYであり、そのBATHORYを主宰したのが他ならぬQUORTHONでありました。しかし、後に社会問題化したブラック・メタルとは違って、QUORTHONがアウトプットしたのは純粋に音楽としての過激さであり、思想信条とは遠く距離を置くものであったと思います。ヴァイキング・メタルという呼称で更に細分化されていったBATHORY後期の一連のアルバムについても同様で、この人の場合は題材として母国(スウェーデン)の歴史を用いただけ、というのが正直なところでしょう。

実際QUORTHONの音楽的嗜好の幅は非常に広範で、それはソロ名義で発表された楽曲において明確に証左されるものです。

最も極端な例ではありますが、このカバーは幾つかの編集盤にしか収録されておらずご存知ない方もいらっしゃるか思われましたので老婆心ながら。実に存外のハマり具合で、僕はこれを最初に聴いた時は余りにびっくりしてひっくり返ってしまったものです。

一方オリジナルに目(耳)を向けても、

これも意図してメタルから遠い曲をチョイスしていますが、モコモコと籠ったサウンドで断末魔の呻き声をあげているのと同一人物の曲だとは、ちょっと思えませんよねぇ。こ曲を聴いていると、僕はJAMESなんてぇバンドをふと思い出してしまいます。ブラック・メタルを原理主義的に追い求める聴き手にとって、こうしたQUORTHONの音楽的多様性はなかなか受け入れ難い面もあるようですが、自らの表現欲求に忠実なミュージシャンとしての姿勢は実に正しいと思うのです。

どんな思想信条よりも、まず最初に音楽ありき…と、そんなことを考えながら、故人の冥福を祈って合掌。

 

追記(補遺):
主にノルウェーにおいて音楽と乖離していったブラック・メタルの反社会化については半ばゴシップのように語られることが多く、その実像はなかなかつかみ辛いものでありました。

1998年に上梓された「Lords Of Chaos」(2003年の増補改訂版が「ブラック・メタルの血塗られた歴史」というタイトルで翻訳されています)という書籍が初めてその実態を詳らかにしましたが、事実関係はともかく周辺の論評めいたものが社会正義の側に大きくバイアスの掛かったもので、この本だけではやはり一元的な見方に寄ってしまう気がします。そこで併せて観ておきたいのが2008年に公開された「Until The Light Takes Us」というドキュメンタリー映画です。この、狂気を淡々と語る当事者達の映像は余りに静謐で、常軌を逸してしまった者達の本質ってのは案外こんなものなのかも知れないな…なんて感慨とともに「Lords of Chaos」のバイアスを補正してくれます。

なにしろ相当胸糞悪い(汚い言葉を使ってしまって申し訳ありません)話ばかりなので万人にお薦めは致しませんが。