仄暗い空気で統一された音像と、悪意をエンターテインした詞世界――2003年に活動休止する前のバンドを彷彿とさせるいかがわしい攻撃性と音楽的なブラック・ユーモアが表出したcali≠gariのニュー・アルバム『13』。メジャー・デビュー15周年というタイミングに〈忌み数〉を冠したアルバムを発表する彼らは、〈ダーク〉というテーマの多角的な解釈によって、自身のベーシックな個性を改めてあぶり出してみせたとも言えるだろう。そんな本作について、メンバー3人に話を訊いた。
サウンド面でダークになれば理想的だったんでしょうね
――今回の『13』はジャケットのイラストを魔夜峰央さんが担当されていて。しかもアスタロト(同名のコミックに登場する魔界の大公爵)が登場となると、作品全体の方向性もある程度は決まってくるような気がします。もしかして、本作の制作はジャケが先でした?
桜井青(ギター)「ジャケが先っていうのはありましたよね。それはもう、遡ること2010年のことなので。(村井)研次郎君の繋がりで、魔夜先生がcali≠gariの武道館(2010年2月11日に開催された日本武道館公演)にいらっしゃったときにご挨拶させていただいたんです。それで、ひょっとしたらジャケを描いてもらえるかもっていう話になったんですけど、タイミングって難しいじゃないですか。当時だと、次の作品は『≠』(2010年)とか『11』(2012年)ですよね。ただ、『11』でやるにしても、関連性が何もないんですよ。パタリロを代表に、魔夜先生が描かれている有名なキャラクターはいっぱいいますけど、そのなかでお願いするとしたら……って考えたとき、今後cali≠gariが解散しないで『13』を出すことがあるんだったら、そこでアスタロトをお願いしようって。だから研次郎君に、〈ごめんなさい、ここはちょっと寝かせといてください〉って言って、今に至るという感じですね」
――研次郎さんの謎の人脈には、魔夜先生もいらっしゃったんですね。
村井研次郎(ベース)「10年以上前かな? cali≠gariとはまったく関係のないライヴ現場で、魔夜先生の娘さんと偶然知り合って。あとで〈私のお父さん、『パタリロ!』描いてるんです〉って聞いて、〈そうなんだ!?〉って」
――そういう経緯でジャケが決まっていたなか、作品の音楽的なテーマはありました? 紙資料には〈cali≠gari史上、もっともダークな作品〉とありますが……。
桜井「『12』を出した時点でなんとなく、次に『13』を出すんだったら暗い感じのものがいいなとは思っていて。で、去年ミニ・アルバムの『憧憬、睡蓮と向日葵』を出したでしょ? そのとき、石井さんにテーマは〈夏〉だとか〈憧憬〉だとか話したじゃないですか。そしたら〈俺はそういうのは無理だから。曲調がどうのこうのだったらできるけど〉って言われたから、じゃあ『13』は歌詞とか世界観うんぬんは置いといて、サウンドだけでもダークだったらいいんじゃね?って。そこからはいつも通りに各自の作業だったんですけれど、結果的にはダークなアルバムにならなかったっていうオチですよ。たぶん、サウンド面でダークになれば理想的だったんでしょうね、ヴィジュアル系っぽく。でも、うちは〈ヴォオオオオ!(デス・ヴォイス)〉とかそういう感じでもないので、そうすると〈このへんが落としどころかな〉っていうのが出てくるじゃないですか」
“0’ 13” I” “0’ 13” II” “0’ 13” III”
――では、ここからその落としどころの数々についてお訊きしましょうか。まず今回、13秒のSEが3曲入ってますが……。
桜井「それは、わかりますよね?」
――あ、曲が足りなかったですか?
桜井「違いますよ! 研次郎君も僕も持ち曲はあったし、石井さんもたぶん、出せたと思うんですよ。ただ、時間がないですよね。石井さんは3月にGOATBEDのあれこれを入れちゃってたし。そうではなくて、まあ、SEを3曲入れて〈『13』だから13曲〉っていうのはありがちだけど、今回はその〈ありがち〉に乗ってみましょうよ、と。それプラス、ジョン・ケージの“4’ 33””をやりたかったんですよ(笑)。ちょっとテーマのわかりづらい曲の前にそういったものを入れておくと、なんとなくどういう曲かわかるかもしれないし、あと、ガラッと流れを変えることもできるかなと思って。今回、トータル時間が短いのってお気付きになりました?」
――はい。40分弱ですね。
桜井「僕の中ではLPのA面/B面ですよ。しかも、(カセットテープに落とすと)40分テープに収まってる。こんな素敵なのないじゃないですか。B面に移ったときに〈ガチャン!〉というSEっていうか“0’ 13” II”がきて、最後の“深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた”の前にもう一回“0’ 13” III”があって。それによって、一度リセットできるじゃないですか」
――アルバムの最後にはサウンドの方向的にかなり極端な切り返しがありますからね。その間のワンクッションとして。
桜井「そういう意味でもSEは大事かなと思ったんですよ。それぞれ3分あってもおもしろいなと思ったんですけど、流石に怠いだろうなと。それなら、トータルで40分以内に収められるなってところで、各13秒に」
“ゼロサムゲーム”
――各SEには住所が付いていて。1曲目が永田町で、続く2曲目が“ゼロサムゲーム”。これがポリティカルな曲だということもわかりやすく。
桜井「まあ、わかるっちゃわかるけど、言葉遊びで収めとこうかなって」
――はい。ただ、ご自身としてはそういうテーマでした?
桜井「今回自分が書いたものって、基本はTwitterなんですよ。皆さん、匿名アカウントで好きなことをつぶやいてるじゃないですか。そこで、よくつぶやかれがちなことを書いてるんですよ。もちろん、自分が同調できるものをちゃんと選びましたよ? 特に、この“ゼロサムゲーム”なんかはまさにそうですよね。〈皆さん、国益を守るために政治をしてるんじゃないんですか? いまはそういう時期じゃないのに、なぜ、どうでもいいようなことで国会を開いてるの?〉って」
――サウンドは相当アヴァンギャルドですよね。ジャンル的に表現しにくい。
石井秀仁(ヴォーカル)「なんか、フィータスの初期にすごい似てますよ。全部自分で演奏してる頃の、最初の2枚(81年作『Deaf』と82年作『Ache』)とかなり近いかも。これ、聴く人がどんな音楽が好きかによって捉え方が全然違うと思うんですよ。ジャンクな感じですよね」
桜井「参考資料でいろいろ聴こうと思ったんですよ。ノイズっぽい、いま石井さんがいったようにジャンクな、ノイズっぽいものとか。(アインシュテュルツェンデ・)ノイバウテンとかSPKとか、音を崩していったバンドっていっぱいいるじゃないですか。ただ、聴いちゃうとそっちに寄ってしまう気がして、結局、参考資料は聴かないで作ったんですよ。もうGarageBand(音楽制作ソフト)でバスドラだけ入れていって、マイクで〈あ~あ~あ~♪〉って歌いつつ(笑)、使えそうなところを切り張りしていって。そこに拍子を加えていった感じですね。各パートがそれぞれの解釈で、(リズムを)4拍子で取る人と3拍子で取る人がいないと成立しない曲って、あんまりcali≠gariでやってないんですけど、久々にこういうのもいいかなって」
――この曲にはサックスのyukarieさんとピアノの林正樹さん、パーカッションの大家一将さんが参加されていて。yukarieさんは最近の作品やライヴでもお馴染みですけど、林さんと大家さんの参加はどういう経緯で?
桜井「大家君のティンパニを入れたいっていうのがまずあって。ピアノは、研次郎君の“三文情死エキストラ”で林さんに参加してもらうことが決まってたから、この曲でも弾いてもらっちゃおうかな?って。デモの段階では、僕が調子っぱずれのピアノを弾いてたんですよ。それを林さんにやってもらったら、案の定、そっちのほうがカッコ良かった(笑)。林さんみたいにわかってて破綻できる人だと、〈調子っぱずれ〉といってもだいぶ意味合いが違ってくるんですよ」
――大家さんはいかがでしょう?
桜井「大家君は、普段はアニメの『ユーリ!!! on ICE』のサントラとか、いろんなCMソングとか、最近だと渡辺宙明さんのバックで演奏したりしてるんで、わりとカッチリした譜面のなかでやってる人なんです。そこを今回は〈自由に、ティンパニじゃないティンパニやってみてよ〉って発注してみたら、あんなのが出来上がって。〈何が行われてるんだ? これ〉って(笑)。レコーディングは見てておもしろかったです」
“トカゲのロミオ”
――そして次は、石井さんの曲で“トカゲのロミオ”。ちょっとポスト・パンク調というか、抑制された導入から、サビでグッと開ける。
石井「サビでZIGGYみたいになるっていうね。これ、局地的に有名な2曲をくっ付けたんです。コード進行もキーも同じで。〈13〉で〈暗い曲〉といえばゴシックじゃないですか、やっぱり」
桜井「ははははは(笑)」
石井「それで、ゴシック好きなら誰でも知ってるバウハウスの“Lagartija Nick”とクリスチャン・デスの“Romeo’s Distress”をくっ付けたんです。〈Lagartija〉って〈トカゲ〉って意味なんですけど、だからタイトルも“トカゲのロミオ”。そこもパロったんです。でもこの曲、明るいでしょ? クリスチャン・デスのいちばん有名な曲って、すごい明るいんですよ。それも皮肉っていうかね、みんな暗い曲が好きだって言ってるけど、なんだかんだでこういうのが好きなんじゃん、って(笑)。そういうふうに作った曲なんですけど、一切、誰にも説明してない。俺、青さんは普通に知ってると思ってたんですよ。で、研次郎君は一切そういうのに興味ないじゃないですか(笑)」
村井「(小声で)バウハウス好きですよ……」
石井「(聞いてない)一切興味がないから、まったく違うものになってくるのがおもしろいって」
村井「確かにいつも説明受けないですね。この曲はアイアン・メイデンみたいな感じかなあと思って弾いてたんですけど。一応、イギリス繋がりか」
石井「そういうのがなんか、cali≠gariのおもしろいところじゃないですか? この曲は結構最初のほうに作ってたんですよ。その頃に聴いてた曲も、アルバムの最後に入ってる青さんの曲だったんで、トータルで暗いアルバムなのかなって思ってて。だから、この“トカゲのロミオ”が一曲だけめちゃくちゃ明るい曲になるんじゃないかっていう予想で作ったんですけど、まあ、そうならなかったっていう、ネタみたいなものですね」
――歌詞は、久々に言葉遊びの要素が強いもので。
石井「最初のほうはそうですね。もう何言ってるかわからないような、〈英語か?〉みたいに聴こえるっていう。全部、歌詞の通りの日本語で歌ってるんですけど、俺が聴いても〈因果応報〉しか聴き取れないですからね。サビはまあ、別に普通の歌詞ですよね」
――はい、「ロミオとジュリエット」の……。
石井「普通に『ロミオとジュリエット』の話を説明しただけ(笑)。こういう開けた感じのコード進行のサビは、日本の昔のビート・ロックによくありますけど、ビート・ロックって〈ジュリエット〉とかよく出てくるじゃないですか。BOOWYの影響もあると思うんですけど」
――それもあってのジュリエットということで。
石井「そうですね」
“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”
――次は青さんの曲で“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”。これはラテン・ジャズですかね。
桜井「先に配信で出すものとアレンジが違うという。あの~、小幡洋子さんが歌った『魔法のスターマジカルエミ』の主題歌で“不思議色ハピネス”っていう曲があるんですけど、これがめちゃめちゃカッコイイんですね。80年代の真ん中ぐらいのアニソンだから歌謡曲じゃないけどロックでもない、すごくいい時代のポップスで、サビ始まりの構成も素晴らしいんですけど、それが小幡さんのソロ・アルバム(85年作『PEARL ISLAND』)ではジャズ・アレンジになっていて、もう大人の曲になっちゃってるんですよ。ああ、こういうのいいよねって。あとはちあきなおみの“夜へ急ぐ人”もそのパターンですよね。それで、うちも最初にあった配信用のアレンジに対してアルバムのほうはジャズにしてみよう!と思ったら、大家君が参加してくれたのが大きいと思うんですけど、ジャズというかラテンになったっていう(笑)」
――歌詞はわかりやすいですよね。春を売る方々が主役と言いますか。
桜井「単純に、男でも女でもあの手この手で身を切り売りして生きている人たちって、凄くがんばってるなっていう。大した理由とか意味はないんですけれど、僕、そういう人たち好きなので。この曲、ラテンな感じっていうのもcali≠gariでは珍しいんですけど、歌詞も自分らしくないことを書いてるんですよ。〈燃え上がれ!〉とかね。まあ、15周年じゃないですか。それでちょっと初心に戻って。みんな〈密室系〉とか言ってくれるけど、その正体ってよくわからない。何が密室系なんだかっていう。それで、昔の自分が書いてた曲とかを〈こんな感じだっけ?〉って思い出してみたり。歌い出しが〈ゲロにまみれた横町〉とか、うち以外はやらないんじゃないかって、そういうことを考えて作りました。あと、いろいろ小ネタは入れてありますよ。〈不幸せという名の猫がいる〉とか最高じゃないですか。ずっと使いたかったんですけど、もう〈ここしかない!〉と思って。浅川マキですよ」
“トイレでGO!”
――そんな“汚れた夜 ―暗夜行路篇―”と続く“トイレでGO!”がアルバムのリリース前に先行で公開される2曲です。
桜井「メジャーで15周年を迎えるにあたって、みたいな曲は誰もやらないだろうから、僕がやっといたほうがいいだろうっていう」
――高速スカ・ビートの、ずいぶんコミカルな猟奇ソングといいますか。
桜井「“君が咲く山”(2000年)とか“マグロ”(2002年)って今も人気じゃないですか。でも、ぶっちゃけ僕、ライヴではあんまりやりたくないんですよ(苦笑)。だけど、その流れの“トイレでGO!”はOKなんです。今の、復活したcali≠gariで作ったからいいのかもしれないですね」
――この路線の楽曲は久々ですけど、“トイレでGO!”を聴いたとき、他のお2人はどうでした?
石井「青さんの歌、超おもしろくないですか? 〈店員さん!〉のところとか。パイプの詰まり凄い効く〈やつ〉と物がよく切れる〈やつ〉って歌詞も最高すぎて。ここはちょっと歌いたかったなって思いましたもん」
――楽しそうに歌われてますよね。
桜井「あくまでもポップに。ホントは石井さんに全部歌ってもらおうと思ってたんですけど、無理だなと思って。だったら掛け合いっぽくのほうがおもしろいかな?って。あと、お客が楽しんでくれそうなレクリエーション要素も入れてるっていう。“アブラハムの子”とかは幼稚園の子たちが遊ぶときの曲だし、“あぶくたった”もそうだし。レクリエーションと言いつつ、“あぶくたった”はそのものが十分すぎるほど猟奇な歌なんですけど。食べちゃいますからね、人を」
――童謡は結構怖い曲も多いですもんね。
桜井「多いですよ。“はないちもんめ”もそうだし。まあ、そんな横道は置いといて、この曲はわかりやすいテーマですよね。リアルにあった話だし。ネタ的に、いろいろな事件を混ぜてるんで」
――はい、モチーフはさまざま浮かびますね。
桜井「〈なんて今日はいい日なんだろう!〉っていうところが、喜怒哀楽のどれで言ってるんだっていう解釈で意味合いが変わってくるっていう。歌詞はこんな感じだけど、当事者たちがどんな関係だったかで読み方が変わってくるので。今回、PVなんかはDVを受けていた主人公が耐えられなくて相手を殺してしまって処理する、っていう哀しいお話に出来てるんですけど、そういう設定じゃなければまた違う話になるかもしれないし」
――ああ~、そうですね。
桜井「あと、テーマは全然違うんですけれど、“トイレでGO!”を作るときにこの映画がすごい役に立ったんですよ。観て、〈ああ、これだ〉って思っちゃったの。『無垢の祈り』(平山夢明原作、亀井徹監督による2016年公開作品)。絶対映像化できないだろって言われてた映画なんですけれど。ヤバイですよ」
――公開時、絶賛の感想をあちこちで見かけた記憶があります。観るには勇気が要りそうで、私は未見なんですが……。
桜井「そんなにエロくはないです。普通のスプラッター程度です(映画の詳細な説明は途轍もなくR18のため割愛)。……で、〈これはキてる!〉と思って(笑)。cali≠gariだったらこういうシチュエーションもいいかもね、って。結果的に、そのあと八王子ホスト殺人とかが出てきたから全然“トイレでGO!”との関連性はないんだけれど、作るきっかけになったっていう」
“色悪”
――そして次は石井さんの“色悪”です。
桜井「いい歌詞ですよね。〈この惑星の闇に隠れた嘘のような悪夢/君だけの輝く宇宙に蠢いた色悪〉。すごいじゃないですか」
――大絶賛されてます。
石井「じゃあこの曲、青さんにあげます(笑)」
桜井「銀色夏生でもこれは書けないんじゃないかって」
――これは、石井さんのいつものテーマ、〈生きて死ぬ〉みたいな内容かなと。
石井「あ、そうです。いつでもそうです。こないだ青さんにも言われましたけど、〈また全部同じこと言ってるね〉って。そうなんですよ(笑)」
――そこは一貫してますよね。メランコリックなギターと秦野猛行さんの冷たいシンセが全編を引っ張っている曲ですが、音的な狙いどころはありました?
石井「アルバムの中心になるような強烈な曲は青さんが作っていたから、俺はアルバムの真ん中らへんに入るような普通の曲を一曲作ろうかなって感じですかね」
――今回のアルバムの石井さん曲は速めのものが多いなか、テンポもミディアムですし、この曲だけタイプが違うといいますか。
石井「そう、最初はもっと遅くて、ポーティスヘッドみたいな感じの曲にしようと思ってたんですよ。それが作ってくうちにだんだん変わってって」
――深めの音作りにその片鱗が残ってるかもしれないですね。
石井「あと、この曲は青さんが半分ぐらい歌ってますよ。Bメロとか、サビも」
――ファルセットの部分ですね。
桜井「はい。レコーディングのとき、その場で決められました。〈マジですか?〉って言いながら歌ってみたら難しかった(笑)」
――ギターも、歌いながら弾く部分が難しいってニコ生でおっしゃってましたよね。
桜井「それは文明の利器がなんとかするから大丈夫です」
“三文情死エキストラ”
――(笑)では、ライヴのときのお楽しみということで。で、次は“三文情死エキストラ”。これは詞が青さん、曲が研次郎さんと青さんの共作、編曲が研次郎さんということですが。
村井「そうですね。これはcali≠gari用に作ったもので。もう10年ぐらい、こういうのやってないじゃないですか。やらないまま歳取っちゃうのかなって。今のうちにもう一回やっといたらいいかなって」
――歌謡曲とビッグバンド・ジャズが混じったような曲ですね。
村井「ちょっとシャッフルでね。再結成してからはこういう曲、一曲もないと思うんですけど。90年代とかはいっぱいあったじゃないですか。スウィングしてる感じとか」
――この曲は林さんのピアノがとても効いてます。
村井「林さん、この春から渡辺貞夫グループの一員ですよ」
――あ、そうですよね。
村井「彼は10代からプロでやってて、cali≠gariでも“東京ロゼヲモンド倶楽部”(2002年作『第7実験室』に収録)とかで弾いてもらってるんですけど、ついに世界のナベサダのメンバーに抜擢って、俺、そんな人にこんな曲頼んでいいのかなって。“ゼロサムゲーム”とか、営業妨害にならないのかなって(笑)」
――(笑)。そして、作曲は青さんとの共作で。
桜井「まあ、いつもは研次郎君が持ってきたものを好きなように作り変えたりしてるじゃないですか。今回はほぼそのままなんですよ。ただ、研次郎君がいちばん最初に入れてきた仮メロが“ギャランドゥ”(西城秀樹の83年のシングル)で、あれ、ものすごくよく出来たメロディーだから、メロ作りは頭の中から“ギャランドゥ”を追い出すところから始めなくてはならなくて。だから、これはちょっとおもしろい作り方をしたんですよ。メロに合わせて、歌詞を同時に書いていくっていう。歌詞を一行書くごとにメロディーが決まってくんですよ」
――それって時間がかかりそうですね。
桜井「それが、そうでもなかったんですよ。書こうしてることは決まってたから、じゃあこのやり方でいいかなって。みんながライトに〈死にたい、死にたい〉って言ってるようなことを、書いてみましょうみたいな」
――モチーフは〈不倫と心中〉で。
桜井「単純に僕、某小説が嫌いなだけですよ(笑)。ハーレクインロマンスを難しく書いてるだけかなって。僕、太宰治って、作品は結構好きなんですけど、生き方にはまったく同調できないんです。まあ、自由だなとは思いますけど。いちばん笑える死に方したのって太宰治だと思ってるんで、その某小説のことは、太宰と同じようなことをまさかここでやるなんて、って。もう大爆笑じゃないですか」
――このあとの“一切を乱暴に”もそうですけど、cali≠gariの皆さんは〈死にたい、死にたい〉って言う人に物申したい感じなんですかね。
桜井「あとは〈忙しい、忙しい〉ね」
石井「なんか、そういうことばかり言ってる人って、精神的にすごい健やかで、楽しいんだろうなって思うんですよ。ホントに死んでしまうような人だったら、そんなこと言わないですよ」
――ああ、確かに本当に追い込まれたらむしろ言わない……言えないか。
石井「うん。自分がホントにしんどい場面になったときに、〈死にたい〉って言うかなっていったら、そういうことは絶対に言わないからね」
“一切を乱暴に”
――そして次は、作曲が研次郎さんと石井さん、作詞と編曲が石井さんという布陣の“一切を乱暴に”です。
桜井「研次郎君が最初に曲を出してきたときは、スラッシュ・メタルみたいな感じだったんですよね」
――スラッシュ感は残ってますね。
桜井「元曲はツーバスだったんですけど、それを違う感じに持ってって。これ、石井さんが詞とかメロとか作ってるじゃないですか。編曲もね。なのに、石井さんはドラム録りに来なかったんですよ」
石井「正直、ドラムはもう刻んで使おうと思ってたんで、何でもいいやと思ってたんですよ(笑)」
――ああ~、録ってもらったものを素材として使おうと。
石井「そうそうそう。だったんですけど、青さんから〈何々っぽい感じにする?〉って言われたんで、〈ああ、それがいいですね〉って。それで、最初に自分が考えてたものとは別のほうへ一気に向かって言ったんですよ」
村井「いっつもそうですよ。僕はこういうつもりで作ってるけど、あとの解釈任せますねって感じ。この曲も最初は〈GASTUNKっぽいよ〉って言って、渡して」
石井「とはいえ、その曲自体も解釈次第でどっちにも転ぶような感じだったんですよ。GASTUNKというか、メタルって言われりゃそういうふうにも聴こえるし、パンクと言われりゃそういうふうにも聴こえるみたいなね、そこの解釈が青さんに言われて変わったっていう」
桜井「そういうふうに最初の段階で言っておかないと、誰がギター弾くんだって話なんですよ。ドラムが〈ドコドコドコドコ!〉ってやってるところはギターも刻まなきゃいけないじゃないですか。そんなの私はできませんよ、って(笑)。自分のできる範疇に落とし込めるように、最初の段階で舵取りをしておこうみたいな感じですよね。それにしても高速すぎたんですけど(笑)。手がおかしくなりました」
――スラッシーなファストコアといいますか。
石井「速い曲ってだけでカッコイイですよね。〈cali≠gari、速い曲やってんだぜ!〉って(笑)」
――(笑)突然何を言い出すんですか。
石井「いや、歳取ってくると、どんどんBPMが下がってくんですよ。そこにきて、こんな速い曲やってるんですよ? 四十何歳とかで。カッコ良くないですか?」
――カッコイイです(笑)。あと、歌詞についてですけど……。
村井「これね、知人に聴かせたら凄い心配しちゃって。〈なんでこんなに怒ってるの?〉って」
石井「いや、そういうことではないですよ。なんか、〈死ぬ死ぬ〉って言いたい人に対して〈死ね死ね〉って言いたいみたいな。そういうのって健全じゃないですか」
――うん?
石井「えっとね、〈本当に死ぬまで何回でも死ね〉ってことを言ってるんですよ。さっきの青さんの話じゃないけど、〈もう死にそう〉とかみんな言うでしょ? それに対して、ホントに死ぬまで何回でも言ってろ、ずーっと言ってろってことですよ」
――ああ、つまりは逆に……。
石井「ずーっと元気で生きてねってことを言ってるんですよ、意味としては。〈暗い〉とか〈死〉とか〈13〉っていうのをパロったつもりのものですね」
――なるほど!
“ファニソン”
――ここからは石井さんの曲が続きますが、まずは唯一の打ち込み曲の“ファニソン”。
桜井「名曲ですね」
――私もそう思います。石井さんのヴォーカルが入っていなかったとしても、石井さんの曲だとわかるであろう切ないエレポップで。
石井「これはアルバムの中でいちばん、TDで印象が変わった曲ですね。この曲、全編にストリングスがかなり入ってるんですよ。だからギターはあんまりコードを弾いたりしないって感じだったんですけど、どっちの音が前に出るかのバランスがね」
――現場の解釈でだいぶ変わったということですね。あと、歌詞は同調圧力的なものに対してのものでしょうか。
石井「まあ、他の曲と言ってることはほとんど一緒なんですけど。例えばね、個人の生き死にとか、特定の人にとっては大きい出来事ですけど、それを世界的な目線で大きく捉えたら、何言ってもどうにもなんないよね、みたいな話ですよね」
――広い目で見たらどうにもならないから、なるようになれ、と。
石井「うん、そうですね」
“落花枝に帰らず破鏡再び照らさず”
――続いては“落花枝に帰らず破鏡再び照らさず”ですが……。
石井「これもさっきの『ロミオとジュリエット』のパターンですよ。〈落花~〉を解説してるだけですよ(笑)」
――失ったものはもう戻らないと。
石井「まあ、そういうことですよね。歌詞は別にどうでもいいんですけど(笑)、この曲はサウンドが素晴らしいなと。皆さんのプレイが。曲調は元のものから変わってないですけど、研次郎君のベースも思った以上にすごく良かったし、ピアノもね、林さんがレコーディングに来るっていうんで入れてもらったんですよね。急遽データを作って、全編にピアノを入れてほしいっていうオファーだけ」
――ということは、全編アドリブ?
村井「僕、現場にいましたけど全然アドリブですよ。全曲、2回ぐらいしか弾いてないですもん。初見で(笑)」
――やっぱりジャズ畑の方なんですね。
石井「ピアノも凄いですけど、楽器それぞれの解釈、絡みが凄いですよね。中西(祐二)君のドラムもベースもギターも。よくこんな、奇跡的なバランスで絡んだなってところがかなりありますね。俺、あまり自分の曲とかでいいなって思わないけど、これは凄く良いと思いました」
“深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた”
――そして、川崎で録音されたSE“0’ 13” III”を挿んで、最後に青さんの曲。“深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた”はスロウコア、サッドコア的なムードで。
桜井「テーマ的には、〈盛者必衰〉とか〈焦燥感〉とか、まあ、cali≠gariを歌ってるような感じですよ」
石井「今のカリガリを歌ってんの? これ(笑)」
桜井「このバンド、破滅に向かってるかなって(笑)」
――なぜ(笑)。
桜井「まあ、13曲目なんでね。(絞首刑の際の)13階段とかあるじゃないですか。その13階段を登る間に過去を振り返って、それで飛び込むわけでしょ? その13段目で考えることってどんなことだろうなって思うんですけど、この曲はそんなところから作ったものですね。まあ、その13段目みたいな状況がどういうものかわからないけれど、その先がある人もいるじゃないですか。成功する人なんてそれまでに何度も失敗してると思うし、落ちても再生する、みたいな。この曲の前のSEに川崎の住所が付いてますけれど、場所は13階段と関係ないですよ? 単純にここで書いてる風景は僕の好きな場所で、夜景が綺麗だからよく行ってるってだけで、むしろそこにいるときはテンションが高いんですけど(笑)、そこを無理矢理、哀愁が漂うように一生懸命書き直したんです。曲順で最後になっちゃったもんで(笑)。まあでも、深夜に工場地帯とか巡ってると、〈こいつ死ぬんじゃないか?〉って人もやっぱいるんですよ(苦笑)。でっかい倉庫のシャッターの前で、スーツ着た男の人が体育座りしてたりね。そういうのを見ると、しんみりしたくなっちゃうじゃないですか」
石井「この、〈夢を信じていなければ―――――。〉ってどっちの意味?」
桜井「どっちの意味にも取れるじゃないですか」
石井「どっちでもいいの? 俺が訊いても教えてくれないやつなの?」
桜井「どっちの意味でも取れるから、〈夢を信じていなければ―――――。〉にしてる。夢を信じていなければよかったのか、夢を信じておけば何々になったのかっていう、どっちの捉え方もできるようにしてるんです」
――石井さんもまた、今それを訊くんですか(笑)。
石井「ほとんど訊くことはないんですけどね。これはどっちなんだろうな?って思ってたんです。この曲もカッコイイですよね。ギター・ソロの音もめちゃくちゃイイ」
桜井「あれ、ビット・クラッシャーっていうのを使ってるんです」
石井「超ラインの音じゃないですか」
村井「音でかいよね」
石井「でかいけど、すっごくカッコイイね」
桜井「あそこ、ほぼリテイクなしの一発録りなんですよね。もともとは初期のミニストリーみたいなパートがあったんですけど、エンジニアの白石(元久)さんや健さん(上田健一郎)の意見でそっちはやめて、ソロを弾こうかってことになって(苦笑)。でも、結果的には凄く気に入ったソロになったし、ギターの音もなんか、さっきラインみたいなって話がありましたけど、工業製品っぽい感じで。あの音がホントにね、ライヴで出せたら素敵ですよね。だからあの部分を、もうギターは弾かないで……」
――まさかの打ち込み。斬新すぎる(笑)。
桜井「そこでポージングしてるってどうですか? なのにギター・ソロがキュイーン!って鳴ってるっていう(笑)。それはともかく、この曲は作るのに凄く時間がかかったし、めっちゃ気に入ってますよ、長いタイトルから情景を連想させる歌詞って、僕、よくやるじゃないですか。でも、歌詞の言葉数は少なくて、だけど何を言いたいかはわかりやすい。そこが凄く難しかったです」
青さんが死にそうになってるのがいちばんいいんです
――ということで全曲振り返りましたが、アルバム全体に対してはいかがですか?
桜井「“マグロ”みたいな『第7実験室』(2002年)の頃を彷彿とさせるような面もありつつ、あそこまでねっとりしてない。それと、その次の『8』(2003年)のバラバラさ加減――バラバラだけど結果的に良いものが出来たあの感じの両方があると思うんです。だから、僕の中での『13』は〈破綻してない『8』〉なんですよね」
――はい、活動休止前の〈実験室〉時代のテイストは感じます。
桜井「ただ、初心に返ってるようなところはあるけど、すべて上位互換されてる。復活後のcali≠gariは、“―踏―”みたいに打ち込み感があって、っていうイメージも強いみたいなんですけど、別にそれだけでもないんですよっていう。〈2002年のcali≠gariへのオマージュ〉って感じの15周年記念アルバムになったかなって思いますね」
――はい。
桜井「あと、『13』を作ったことで、次はこういうふうにいきたいなっていうものが今回は明確に浮かんだから良かったです」
――次の構想がもうあるんですか?
桜井「ある。内緒だけど」
石井「そういうことを青さんがいつでも考えてるのがcali≠gariにとってはいちばんいいってことですよね。いつも大変で、なんか死にそうになってるのがいちばんいいんですよ」
――ヒドイ(笑)。青さん、こんなこと言われてますが……。
桜井「それで僕、Twitterで〈死にたい〉とかつぶやくんでしょ(一同笑)?」

