
うるさいはずなのに安らぎを覚える〈現象〉
――マイブラのライヴは観に行きました?
菅野「はい。初めて観たのは2013年、新木場STUDIO COASTでの単独ライヴでした。もう、すごかったですよね。私は〈胎内回帰〉を覚えました。お母さんのお腹の中にいた時のような安心感というか。あんなにもノイジーなのに、すごく安らぎがあって。〈肌に合う〉ってこういうことかなって思うし、ずっとこの音の中に埋もれていたいという気持ちにもなりました」
――それを聞いて思い出したんですけど、僕は(共同監修した)「シューゲイザー・ディスク・ガイド」の中で、アストロブライトの『Whitenoisesuperstar』について、〈爆音でその中にひたっていると、何故だか心が落ち着いてくる。我々が羊水の中にいるときは、きっとこんな気持ちだったのかもしれない〉って書いたんですよ(笑)。あのアルバムは(マイブラの)“You Made Me Realise”のノイズピットを延々と引き延ばしているみたいで最高なんです。
菅野「不思議な現象ですよね。うるさいはずなのに安らぎを覚えるって。でも、そういう正反対の要素が入っているところとか、自分の作品にも影響を及ぼしているのかもしれません。今、私は〈Crayme,〉というブランドをプロデュースしているんですけど、そこでのコンセプトは〈相反するものの共存〉なんです」
――小林さんとは、(2013年の)国際フォーラムのライヴの後で〈マイブラ来日レポート対談〉をしましたよね(ele-kingに掲載)。
小林「あのライヴの衝撃はトラウマ・レヴェルでした。帰りの電車は乗り継ぎが3回あったんですけど、全部乗り過ごしてしまって(笑)。自分自身もTHE NOVEMBERSという〈轟音を出すバンド〉の一員であって、そこでのマイブラとの距離感なんかもある程度は掴めているつもりでいたんですけど、実際に目の前で鳴らされている音を浴びたらもう……すべてぶち壊されたというか。自分でも気づかないうちに凝り固まっていた考え方みたいなものを、もう一度振り返るきっかけを与えてもらったと思いましたね」
――THE NOVEMBERSも、マイブラやライドのカヴァーをライヴで披露しているじゃないですか。音の再現って、どうしてます?
小林「さっき結以ちゃんが言ったように、マイブラは〈現象〉だという気がしていて。〈ドレミ以外の部分がいかに大事か?〉っていう。そういう意味で言ったら、マイブラがやっていることをそのままなぞって再現しても、〈現象〉にはならないんじゃないかと思うんですよね。だから、自分なりのマイブラの解釈を、どうやったら〈現象〉にまで持っていけるかを考えながらカヴァーしました。そういえば、(黒田が行った)ライドの新作『Weather Diaries』にまつわるインタヴューを読ませてもらいましたけど、プロデューサー(のエロール・アルカン)から〈天気を演奏してくれ〉って言われたそうですよね。それってすごくわかるんです。突拍子もないことを言っているようで、実は核心を突いているというか。〈天気という“現象”を、ここで起こしてくれ〉っていう意味ですよね? それってマイブラが〈現象〉を起こしていたのと同じなのかなって」
――確かに。それは、菅野さんがマイブラに抽象画を感じたのとも通じますよね。ただ同じ機材を使って、同じ奏法で再現しても、それは〈写実〉の域を出ないし、本物を超えることはできない。
菅野「そうですよね」
――ところで、今年3月にシューゲイザーをテーマにしたDJイヴェント〈[coming soon…] #1〉を開催して、菅野さんと小林さんにも出演してもらったんですよね。僕はそのとき、リンゴ・デススター“Guilt”、シーサーファー“Too Late For Goodbye”といった比較的新しめの曲を中心にかけたんですけど、お2人は?
菅野「小林くんの選曲はだいぶ攻めてたよね(笑)?」
小林「あの日は、正統派ではライドとアリエルを流して、あとは裸のラリーズとBOOM BOOM SATELLITES、Sugar Plant、それからMy Little Lover。それと、女性ヴォーカルつながりとかで小ネタもちょこちょこと(笑)。もちろん、音楽的な文脈とかも意識してセレクトしているんですけど、半分は〈遊び〉みたいなところもあって。シューゲイザー縛りだと、あまりにも正統派すぎると他のDJの方と被りまくってしまう可能性もあるじゃないですか(笑)。特に僕は後ろの方だったので、スロウダイヴの“Alison”みたいな定番はだいたい先に流されてしまうと思って」
菅野「わかる(笑)!」
小林「それで、あえてちょっと外した切り口で選んでみたんです。My Little Loverは通称〈マイラバ〉じゃないですか。マイブラの話をすると〈え、マイラバじゃなくて?〉ってよく言われたんですよ(笑)。そのことを思い出してセレクトしたんですけど、“YES〜free flower〜”という曲はギターのサウンドメイキングとか、女性ヴォーカルの浮遊感が、ちょっとシューゲイザーとも通じるところもあって。しかも、あの曲は今聴いても古びていないんですよね」
菅野「My Little Loverをかけていたのには、そんな文脈があったのか(笑)! 私は今回初めてDJに挑戦したんですけど、好きなシューゲイザー・バンドのなかから〈超定番ではない〉曲を選びました。マイブラのこと大好き過ぎて、マイブラになろうとした愛おしい2人組のフリーティング・ジョイズに(笑)、あとはコクトー・ツインズやブロンド・レッドヘッドとか。最後にイェスーをかけたら、いろんなところで反響をいただきましたね」
のせてと声があったので
— 菅野結以 (@Yuikanno) 2017年3月26日
きのうのプレイリスト
曲順はばらばらです pic.twitter.com/q7MRb5t2BK
――菅野さんのなかで、コクトー・ツインズはどんな存在なんですか?
菅野「エリザベス・フレイザーの歌声は、シューゲイザー・シーンの一つの象徴というか。大きなアイコンだと思っています。幽玄さと破壊的な狂気を併せ持っている人だし、それを歌声で表現できる人で。もし、雲の上で鳴っている音楽があるとしたら、あんなサウンドなんじゃないかなって思います」