ダンス・ミュージックへの視野をさらに拡張したニュー・アルバムが完成! レゲエ~ダブを下敷きに、温度設定を少し下げたグルーヴはたまらない心地良さで……
アイデアを絞り込んで
ダンス・グルーヴを搭載することで最新型のYOUR SONG IS GOOD(以下YSIG)を提示した前作『OUT』から約3年半。さらなる進化を遂げたYSIGの新作『Extended』がついに完成した。かつての彼らはカリプソやスカをベースにした灼熱のバンド・サウンドを打ち出していたが、ここで紡がれているのはディープな酩酊感を内包したダンス・グルーヴ。そこからバレアリックやディスコ・リエディットなど現行ダンス・ミュージックからの影響を感じ取ることも可能だろう。
「『OUT』のリリース後、ライヴに合わせてアルバムの曲をアレンジする作業をずっとやっていたんですが、それがすごく新鮮で。ダンス・ミュージック的発想でエクステンデッド・ヴァージョンを生演奏で作る感覚と言いますか。あと、リスナーとしてはダンス・ミュージックにさらにハマっていって。きっかけはNYのミスター・サタデイ・ナイト周辺のアンダーグラウンドなハウス系レーベル、UKだとリズム・セクション・インターナショナル、もしくはドイツのマックス・グレーフの今ふたたびMPCでハウスを作る感じに衝撃を受けたり。あとはディスコ・リエデットのスモール・レーベルにもおもしろいものが多くて、自分としてはパンク/ハードコアを掘り下げていくことと同じように聴ける感覚があった」(サイトウ“JxJx”ジュン、オルガン:以下同)。
2015年には“The Cosmos”『Changa Changa/OUT』『Re-serch/Dripping』という『OUT』の収録曲を3枚の12インチとしてリカット。いずれにもBeing Borings、ロード・エコー、FORCE OF NATUREによるリミックスが収録され、現行ダンス・ミュージックと並走するYSIGの現在形が露となった。
「あの12インチ、バンドへの影響はすごく大きかったですね。各リミキサーに『OUT』の曲をイジってもらいましたが、どれも原曲の特定の要素だけでシンプルに構成されていたので、〈なるほど、この要素だけでも楽曲として成立するんだな〉と確認できたところもあって。〈ダンス・ミュージック〉というキーワードは『OUT』の段階で出てきたんだけど、あのアルバムは1曲のなかに4曲分ぐらいのアイデアが入っていたので。だから、次のアルバムはもっとアイデアを絞り込んで、シンプルにやってみようと思って」。
ひとつの楽曲のなかにおもちゃ箱のようにたくさんのアイデアを詰め込んできたYSIGが、膨大なアイデアを削ぎ落とし、シンプルかつミニマルな楽曲構成へと舵を切ろうというのだから、これは大きな変化でもある。そうしたなかで産み落とされたのが、昨年リリースされた新曲“Waves”。レゲエ~ナイヤビンギとバレアリックを接続した、ユルくて快楽指数の高いサウンドは、それまでにないYSIG像を打ち出したものだった。
「このヘンテコなバンド編成自体、音楽の目的に合わせて作ったものじゃなくって。なので極端なことを言っちゃえば、ダンス・ミュージックをやろうとしたらこんなにメンバーの人数はいらない(笑)。ただ、だからこそ醸し出す何かはあると思っていて。実際、“Waves”まではなかなか曲の方向性が定まらなくて大変だったんだけど、探りに探ってレゲエのスロウなグルーヴにようやく辿り着いた」。
抜けの良いものを
ダンス・ミュージックをやるうえでの〈制約〉を〈バンドの個性〉として変換するなかで生み出された“Waves”を手掛かりのひとつとして、新作『Extended』の制作は進められていった。結果として作り上げられたのは、レゲエ~ダブを接着剤としながら、バレアリックやディスコ・リエディット、ニューウェイヴ・ファンク、クンビアなどさまざまな要素が繋ぎ合わされた、YSIG以外の何物でもない異形のダンス・ミュージック。それもあきらかに今までのYSIGとは異なる空気感を纏った、フレッシュで風通しのいいダンス・ミュージックだ。
「今回は抜けの良いものを作ってみたかった。ダンス・ミュージックといっても真っ暗なダンスフロアじゃなくて、自然光が射す午前中のイメージ。そういうこと、今までやったことなかったんですよね。どちらかというと南国の灼熱のイメージを引っ張ってましたからね(笑)。温度設定をもう少し下げて、心地良い感じにしようと。イメージとしてはイジャット・ボーイズの『Versions』とか。あのアルバム、午前中にすごくハマるんですよ」。
そうして制作を進めるなかで浮上してきたのが、〈気持ち良さ〉というキーワード。
「長いことバンドをやってきて、ここから自分たちは何をやるべきか考えていったとき、〈気持ち良さ〉というシンプルなところを突き詰めていくのは自然なことだと思えたんですよね。演奏していてもきっと気持ち良いだろうし、これは飽きないかも、と」。
浮遊感のあるキーボードとギターが絡み合うバレアリック・ムード満点の“Cruise”で幕を開け、ニューウェイヴ・ディスコの雰囲気も漂う“New Dub”、松井泉のパーカッションが大活躍するトライバル・ハウス“Mood Mood”、フロアライクなダブ・クンビア“Double Sider”、バレアリック経由のラヴァーズ・ロック“Palm Tree”、ディスコ・リエディットをバンド編成で演奏したかのような本作のクライマックス“On”、さらに先述の“Waves”──曲調は今まで通り幅広いが、通底するのは上がりすぎず下がりすぎない〈気持ち良さ〉。よりメロウに、よりディープに進化した快楽度数高めのYSIGをたっぷり楽しませてくれる。
そんなYSIGも来年は結成20周年。JxJxは「難しい時期もあったけど、最近は力が抜けてきてちょうどいい感じかな? そう思ってるのは自分だけかもしれないですけど(笑)」と笑うが、20年もの期間バンドを継続し、なおかつ常に新たな姿を打ち出し続けるというのはそう簡単なことではない。
「たまに思うんですけど、アルバムごとに同じメンバーで新しいバンドを結成してる感じなんですよね(笑)。それゆえにしんどいんですが、だからこそ続いてるというか。きっと、必ずどこかにフレッシュな要素がないと、全員しっくりこないんでしょうね」。
『Extended』の初回盤に参加したリミキサー陣の作品。
『Extended』から拡張する8枚

MARK BARROTT Sketches From An Island 2 International Feel/MUSIC 4 YOUR LEGS(2016)
近年のバレアリック・シーンを牽引するレーベル、インターナショナル・フィールのオーナーによるセカンド・アルバム。生楽器とエレクトロニクスを交えたダウンテンポのグルーヴが誘う森羅万象との心地良い一体感は、YSIGが大所帯の生演奏でめざす桃源郷に限りなく近いはずだ。 *小野田

ディスコ・ダブの大御所が自身の2011年作『Cellar Door』をダブ化。オリジナル音源に眠っていたバレアリック成分を抽出し、よりメロウかつディープに調理されている。ディレイでトバされたギターが宙を舞う早朝ダブ“Ambient Rab”の爽やかさは『Extended』にも持ち込まれたもの。 *大石
YSIGと比較するとアンビエント寄りではあるが、beipanaへ改名後のこのトラックメイカー/スティール・ギター奏者は、YSIGにも重ねたくなるバレアリックなリゾート志向を強く打ち出している。ダビーに料理された“All Your Dances”あたりに、とりわけシンクロ感が表れているはず。 *澤田

EAMON HARKIN,JUSTIN CARTER Weekends And Beginnings Mister Saturday Night(2014)
ブルックリンのハウス/ディスコ系レーベルの主宰者2人による現場感満点のミックス盤。アリス・スミスやカリブー、ロード・ネルソンなどをBPM120で串刺しに。快楽指数の高さはYSIGの新作とも通底している。昨年の来日公演にはJxJxもDJとして出演。 *大石

日本のクラブ音楽の道を切り拓いた藤原ヒロシは、90年代初頭の段階でチル&バレアリックなスタイルに舵を切った点においても早かった存在だろう。彼がいとうせいこうと組んだユニットの唯一作(昨年リイシュー!)では、YSIG“Palm Tree”に近いムードのリラクシンなラヴァーズが展開されている。 *澤田

昨年はニンジャ・チューンからグレン・アストロとのコラボ作を発表したマックス・グレーフのバンド・プロジェクト。ここで紡ぎ出されるファンクネス満載のダンス・グルーヴは、『Extended』同様にエクレクティックな魅力に溢れている。パーカッションが重要な役割を果たしている点も共通。 *大石

ダブ・ミックスから〈リミックス〉という概念が生まれたように、常に密接な関係性のダンス音楽とレゲエ/ダブ。YSIGがその組み合わせに触発される遙か昔の80年代にはディスコとダンスホール・レゲエが蜜月関係にあったことを物語る画期的なコンピ盤。 *小野田
レゲエ/ダブをベースに折衷的なサウンドを披露してきたバンド。〈歌モノ〉という点でYSIGと大きな違いはあるが、この最新作では〈現代のジャズ〉やインディーR&Bといった現在進行形のモードに感化されながら改めてレゲエと向き合っており、そうした姿勢はYSIGとも近しいような。 *澤田


