KAKUBARHYTHM15周年(第3回)
[ 特集 ]レーベル設立15周年を記念した3号連続企画の最終回! 久々となる新顔も仲間入りし、ますます規模を拡張する彼らの現在は? まずはこの男の新作から!

 


 

VIDEOTAPEMUSIC
〈街〉に蓄積された過去の痕跡を拾い集め、編集した不思議な電波がNOW ON AIR! 街に蓄積された過去のサンプリング

 ビデオからサンプリングした音声をもとに、音楽を生み出していく。そんな不思議なアプローチで、独自の世界を作り出してきたVIDEOTAPEMUSIC。彼の2年ぶりとなる新作のタイトルは『ON THE AIR』。ラジオやTVの放送中に使われる言葉だが、そのまま訳せば〈空気の上〉。つまり、電波が空気の上を漂っているということだ。思えば、音楽も空気を震わせることで人の耳に届くわけで、〈空気の上〉には目に見えないいろんな何かが飛び交っている。VIDEOTAPEMUSICは、今回のアルバム・タイトルについてこんなふうに語ってくれた。

VIDEOTAPEMUSIC ON THE AIR KAKUBARHYTHM(2017)

 「ビデオテープからサンプリングするというのは、磁気テープに記録された過去の痕跡を拾い集めるということなんですけど、そういうことを、〈街〉を題材にしてやれないかと思ったんです。街に蓄積された過去の痕跡を掘り起こせないかと。街の壁や植物ひとつにも、そこに自分の見たことがない過去や文化が染み付いているかもしれない。そういったものが街の空気中に電波や亡霊みたいに漂っている気がして、それをサンプリングできないかと思ってこういうタイトルにしました」。

 Blu-rayなどデジタルな画像の美しさに比べると、ビデオテープの画像に浮かぶノイズは不思議な魅力を持っている。まるで異世界が顔を覗かせる時空の裂け目のようだ。そして、そういったノイズに惹かれてきたVIDEOTAPEMUSICの目で眺めると、街はノイズに満ちている。それは風景のなかに潜む怪しい気配や空気のようなもの。彼は街を歩きながらノイズを収集した。

 「自分にとって、〈景色を見る〉というのは映画を観たり、本を読んだりするのと同じくらい子供の頃から知的好奇心をそそられることだったんです。とにかく近所の景色を全部見ずにはいられない。それがエスカレートして人の家の裏側の塀とか、庭に捨てられた粗大ゴミとかにも興味を持ってしまって(笑)。今回のアルバムに“ポンティアナ”っていう曲があるんですけど、それは埼玉の松原団地の近くにあった熱帯魚屋の名前なんです。チェーン店だらけの郊外のフラットな風景のなかに、見たことがない横文字があるから〈どういう意味なんだろう〉と気になって調べてみたら、〈ポンティアナック〉っていうインドネシアの地名があったんですよ。その名前は妖怪から来ていて、その妖怪を題材にしたホラー映画のジャンルがあるらしい。そんなふうに看板ひとつから、自分の知らない文化や景色が広がっていくんです」。

 VIDEOTAPEMUSICは興味を持った土地でフィールド・レコーディングしたり、その土地にまつわる文献や映像に触れながら、音のヒントを集めていく。そうやって作り出された音楽は、音で描いた風景画のようだ。ビートはレゲエをはじめとしたラテンのリズムが多いが、それは淡々とループされて自己主張しない。その上を、VIDEOTAPEMUSICが奏でるピアニカや生楽器、サンプリングされた音源などさまざまな音がメロディーに揺れながら浮かんでは消えていく。不思議な看板がきっかけになって生まれた“ポンティアナ”は、リズムボックスが刻むビートに乗って、ヴォコーダー越しの声がエキゾチックなメロディーを歌う。だからといって、それはポンティアナ地方のメロディーということではなく、「そのままをコピーしても意味がない」とVIDEOTAPEMUSICは言う。

 「調べて勉強したことを、一回全部忘れて作るようにしているんです。僕は大学で油絵学科を専攻していたんですけど、油絵は下地が重要なときもあって、下地があるからこそテクスチャーに深みが生まれるんです。今回はフィールド・レコーディングを多用してて、いろんな場所で録った音が入ってるんですけど、それって言わないとどこで録った音かわからない。でも、自分がその土地で感じたムードが伝われば良いと思うんです。ただ、〈ムードだけ〉といってもうわべだけ引っ張ってくるのはそこに住んでいる人たちに失礼なので、とことんその土地のことを調べるようにはします。それが下地となることで、もし上から別の音を感覚で重ねたとしても、土地のムードが滲み出てくるような表現にできないかなとは思っています」。