(左から)JUN、TAAR、ALI&

 

クラブ・ミュージックとロックの境界線で10年間も縦横無尽にオリジナリティーを突き詰めてきたデュオ、80KIDZ。ディスコやハウスを軸に、シティー・ポップやインディーR&Bなどのトレンディーなサウンドを自由奔放に吸収した表現をこの5年間貫いてきたプロデューサー、TAAR。短い周期でシーンが大きく変わり続けたとしても、それぞれのリリース元であるレーベル、PARKの二枚看板が持つ秘めたる強い信念と柔軟な姿勢は変わらない。

TAARのデビュー作のリミックスに80KIDZのJUNが参加して以来の旧知の仲である2組が、6月25日(日)に東京・渋谷/代官山SPACE ODDにて、レーベル初の試みであるWリリース・ライヴを行う。片や80KIDZは、自らの旬にフィーチャーして制作したクラブ・ユースなトラックを発表してきた〈8O(ハチマル)シリーズ〉の総集編『80:XX - 05060708』を携えて、新境地へと舵を切るという。そして、片やTAARは、インディー・ダンス/R&Bやディスコ・ハウスの新文脈を解釈豊かな音楽性でストーリーテリングしていったアルバム『Astronotes in Disco』を、自身初となるバンド編成で集大成的に魅せるようだ。この対談では、その前哨戦として、ライヴの軸となるそれぞれの最新作を分析し合ってもらった。

 

80KIDZのDJでのトレンドを活かせられる場所

――『80:XX - 05060708』は、今年1月から4カ月連続でリリースした〈8Oシリーズ〉4作品の総集編ということですが、制作はいつ頃から進めていたんですか?

JUN「去年の11月くらいからでしたね。『FACE』(2014年)と『5』(2016年)が全体的にBPMの振れ幅が大きくて、ロックっぽい歌モノも多かったので、去年の後半くらいから〈来年はクラブ・ユースなトラックを作りたいね〉という話はしていて。DJをやりながら何となくアイデア集めをしていました」

『5』収録曲“Baby”
 

――気分の変化が起こったきっかけは何だったんですか? シーンの変化など外的要因もありましたか?

ALI&「『TURBO TOWN』(2012年)の後に出した前回の〈8Oシリーズ〉(〈01〉〜〈04〉)のときも、デビュー時はクラブ・ユースなトラックも作っていたけど、ずっと作れてないなという気持ちがあったんです。でも最近のアルバムだと浮いちゃうし、本来届けたいリスナーに届けられないと思ったので、〈8Oシリーズ〉を始めた。それ以降また2作のアルバムを制作していたら、(同じ)フラストレーションが溜まって、デトックスをしたくなったので、また作ろうとなって。前回でファンやリスナーにコンセプトを印象付けられていたんだし、〈8Oシリーズ〉として続けてみました」

JUN「常に月に何本かDJはしていて、新しい曲は常に聴いているので、やってみたいことは出てくるんですけど、それを80KIDZに直接反映していいかわからないときに〈8Oシリーズ〉で試してみるんです。だから僕らのDJでのトレンドが活かせる場所ですね」

ALI&「80KIDZとして出しているけど、別名義みたいなリラックス感もある。外的要因みたいなものは2~3年前くらいからあまり意識しなくなったので、〈8Oシリーズ〉は自分たちが進んできたストーリーのなかで自然と出来たものかな。シーンや自分たちの好みは目まぐるしく変わるけど、〈狙ってやっている〉みたいなのはないです」

――なるほど。では各曲の参照点などを分析していきましょう。まず“Reversed Note”や“Etape02”は、メロディー重視のエレクトロで、80KIDZと縁のあるDJソニックに近い部分を感じました。

※80KIDZは昨年、自分たち主催のイヴェントにDJソニックを招いた。

TAAR「僕はこれNYハウスだなと思った。トッド・エドワーズあたりの、ヨーロッパ人が見たNYシーンみたいな……」

ALI&「さらにそれを見る日本人が作ったハウスだよね(笑)。JUNくんがエレクトロに出会っていなかったら、こういうのを作るだろうなという感じの曲ですね」

JUN「僕の出すネタにトッド・エドワーズっぽいのは、これまでもよく出ていましたしね。この曲は、トッド・エドワーズとかの跳ねたガラージュっぽい雰囲気に、ピアノのエディットを足した作りです。“Etape02”も僕が作っているんですけど、あっちはよりローファイでいなたい。拍の頭に出てくるパッド音に、コード進行を合わせたピアノのメロディーを作って、その後にビルドアップしたベースを足したら思ったより良くなかったので、ひたすら音像を薄くして直しました。あとピアノをチョーキングしているので、変なリヴァーブ感もなく、ドライな感じ。それでいてノスタルジックかつセンティメンタルであると」

ALI&「自分でセンティメンタルと言うのか(笑)」

トッド・エドワーズがサンシャイン・ブラザース名義で手掛けたリチャード・レス・クリーズ“The Sign”のリミックス(2004年)
 

JUN「参照としては、DJソニックが所属しているロブスター・テルミンだったり、DJハウスが主宰しているレーベルのホット・ハウスやアンノウン・トゥ・ジ・アンノウン(以下、UTTU)がリリースしているロウ・テクノだったり、ガラージュなんだけど少し荒いハウスが好きなので、そういう要素を足し引きしている感じですね。そのあたりはどれも5本の指に入る好きなレーベルで、常にチェックしています。特にDJハウスは我が道を行ってシーンを作り、リリースを沢山して世界に発信していて、素晴らしいなと」

ALI&「DJハウスとは世代的に好きなものが近くて、それは僕らの先輩がDJでかけていたようなトラックなんですよ。若い時はそんなにちゃんと聴いていなかったから、大人になってからあらためて掘り出して、〈これ、あのときに大沢伸一さんがかけていたな〉とかいろいろと思い出しながら自分たちなりにやろうとしているんです。DJハウスやUTTUは、それを現代的にしつつも、当時の音像でやろうとしているのかなという印象。でも、僕らは今っぽい音像でやりたい気持ちで」

UTTUからリリースされたDJハウスの2014年の楽曲“Hey Now, Wait A Minute”
ホット・ハウスからリリースされたパレスの2014年の楽曲“Labrynth”
 

――DJハウスと近い感覚のテイストは、“Butter”、“No Wave”、“Get Back”あたりにも表れていますね。

ALI&「“Butter”は完全にUKを意識しました。90s風なシンセの音を現代的な鳴りにして、あと僕は困ったら〈アー!〉とか〈ウー!〉とか声ネタを入れがちなんですけど、それもまぶして。普通にBeatportやJUNOで売っていたら、誰かが〈使えそうだな〉と思ってくれそうなトラックですね。“No Wave”は、モードセレクターの“Evil Twin”とかを今っぽくやったらどうなるかと思って作った曲です。僕的にDJソニックをイメージしたのは“Loup”かな。ただ、ソニックはこんなに跳ねる感じの曲は作らないと思うので、DJソニックと自分のテック・ハウス感覚を混ぜたという感じです」

DJソニックの2017年の楽曲“Sky Sancutuary”
 

JUN「僕的には“IFDB”が跳ね感のあるテック・ハウスみたいなイメージ。“Get Back”は、Teenage Engineeringのポケット・オペレーターという小さなシンセだけで作ったんですが、まさにUTTU所属のブレイカーに近いイメージです」

ブレイカーの2015年の楽曲“Hype(funk)”
 

――“Get Back”の中盤でジャングルが入る構成は、正しくUKレイヴの展開で気持ち良いですね。個人的には“Pearl”もレイヴ風のハウスという印象です。

ALI&「“Pearl”は、ハットをガンガン鳴らして、リフだけ活かすみたいなことをやりたくて。もう少し綺麗な音像にもできたんですけど、わざと尖らせて、やんちゃにやろうと思って作りました。一度にまとめて作って小出しにしている訳では無いので、毎月作り続けていると飽きてくるんですよ(笑)。毎月、前に作った音源がリリースされる頃にはもう次の制作に取り掛かっていました」

 ――“Bougie”も同系統だけど少し穏やかな印象ですね。最初のハットの音が少し寺田創一さんっぽい。

TAAR「わかる。凄くスモーキーで、ひと調理したハットの音だ。これはアンセムですね。DJで中盤とかにかけると良い感じですね」

――そして“Adolescentes”と“Vert”は往年のエレクトロという感じです。

ALI&「その2曲は、最後に80KIDZっぽいのを入れないとマズイかなと思って作りました。昔からこういうのは何度かアルバムに入れていたんですけど、それにメロディー・ラインみたいな声ネタを乗せたらどうなるのか、昔だったら少ないコードでやっていたことに、あらためてちゃんとしたコード・ラインを付けたらどうなるのか、ということに挑んでみた。エレクトロなんだけど、ちゃんと泣ける要素を入れたかったので、昔からの手癖が全開ですね」

TAAR「この2曲だけ、往年のエレクトロというか80KIDZのフル・アルバムに収録されているテイクっぽいと思った。80KIDZが自ら切り拓いていった道の先で、原点回帰的なテイストを落とし込んだトラックなんじゃないかな」

JUN「“Vert”は、割と早い段階で出来ていたんですけど、エレクトロ色が結構強かったから最後まで寝かせていたんです」

ALI&「だから、僕とJUNくんの間に最後は80KIDZっぽくしようという共通認識があったんだよね。CDのボーナス・トラックとして収録した“Labo”も方向性としてはアルバムに合わせています。リードのシンセがあって、4つ打ちと2ステップを行き来するフューチャー・ベースっぽさを入れながら、そこに80KIDZのリフをしっかり絡めていって、相性を実験してみました。僕はブレイク以降の展開が好きですね」

TAAR「“Labo”は、フルームみたいなフューチャー・ベース以降のチルトラップ(チルウェイヴ+トラップ)ですよね。たぶん盛り上がるし、これは本当に名曲。〈やられた!!〉と思った。ビートの組み方の面でも、新しいことをやりはじめた感がありますね。にもかかわらず全体を通して聴くと、ちゃんと世界基準になっている」

ALI&「それは最後に言ってよ(笑)」

――ハハハ(笑)。そして、最後の“Exit”は唯一の長尺トラックです。

ALI&「ロブスター・テルミンからの影響がある感じで、無駄なものを入れずに長いトラックを作ってみました。僕は今回作ったなかでいちばん気に入っています。いつもライヴの1曲目にこれをやっているんですけど、お客さんで我慢して聴いてくれている人はいるのかな?」

TAAR「でもドラマティックだし、肩で風を切りながら歩きたくなる展開だよ(笑)」

JUN「演奏している側としても展開がないとヤキモキするよね。たまに海外のDJでも2、3分キック無しで溜めたりするじゃん、あれってタメの精神力みたいな(笑)。意外と耐えられるとも思いますけどね」

ロブスター・テルミンからリリースされたローズ・フロム・フレンズの2017年の楽曲“In An Emergency”