物語を綺麗に紡ぐことができる〈歌美人〉

――ところで、みなさん各々が理想のガール・シンガー像をお持ちかと思うんですけど、それに照らし合わせながらみちるさんを語っていただけますか。

福田「僕はガール・シンガー像自体持っていないかもしれませんね。普段聴いている音楽も男性ヴォーカルものが多いし。相方の井上は明確な理想像を持っていると思うんですけど」

沖井「僕も男ヴォーカルばっかり聴いてきたけど、他者に曲提供をし出してから理想像を意識し始めたかな。最初興味あったのはカーペンターズぐらいだった」

福田「僕、カーペンターズもお兄ちゃんのリチャードの声のほうが好きなんですよね(笑)」

――では、はせさんの理想像は?

はせ「それはもう美人ってことですよね(笑)。だけど僕が本当に好きなのは、歌によって美人に見える人かな。その人の歌世界も含めて、〈歌美人〉というような人が理想。みちるちゃんもきっとみんなからそう思われているんじゃないかと自負しているんですよ。ルックスはけっして100点じゃないけれど、歌を聴いているうちに徐々に、一緒にいたいなぁって思いが強くなっていく。そんな魔法をかけられる感じ。ユーミンもそうだけど、曲を聴いただけで〈中央フリーウェイ〉を走った気になれる。脳内再生したときのヴァーチャル・リアリティー力の強さというか、歌世界の中へと引き込んでいく歌腕力の強さはかなりのものがあると思う」

――なるほど。沖井さんが女性アーティストに曲を書く際に意識することはなんですか?

沖井「いま、自分と同じアプローチなんだけど、まったく逆の話をされたなと思いました。僕自身は、アイドル・シンガーを可愛くみせようとかはどうでもいいんです。曲そのものが描き出す景色が何よりも大事で、媒介となるその女の子を通して景色が伝わってくれたらいいなと。だから僕が思い描く景色をちゃんと浮かび上がらせてくれる人こそ、僕にとって良いシンガー。それは女の子には限らないけどね。ただ、男性が歌う場合、他者が書いた曲でも聴き手はとかくその曲をその人のものだと思いがちじゃないですか。でも女性の場合だと、もう少し夢を見る余地を与えてくれる気がするんです。そういうこともあって、僕は女性に歌ってもらうことが多いんだと思うんですね。僕の作った物語を綺麗に紡いでくれる人を求めている。そしてみちるちゃんも優秀な紡ぎ手のひとりだと思っています。物語を非常に立体的に浮かび上がらせてくれる人だという印象があったから、書かせてもらいたいと思っていたんですよ。だからいまはせさんの話を聞きながら、奇しくも同じものを彼女に見てたんだと思って驚いたんだけど」

――福田さんはおふたりの作家論に触れて、どんな感想を抱きましたか?

福田「歌美人というのは僕らも作りながら感じていたことでしたね」

はせ「最初は(ルックスが)まあまあだと思っていたわけでしょ(笑)? 75点だったけど、歌っているうちに、まぁ85点かなってなったんなら大成功だよ」

福田「いやいや(笑)。みちるさんのルックスから入って来た人が曲の良さに目覚めてもらう、逆に曲から入った人が彼女の魅力に気付く。その両方が可能なんだなって思いましたね」

――ガール・ポップって、クリエイターにとってはわりと雑多にさまざまなジャンルや要素を放り込めることもあって実にありがたい存在なんじゃないかな、なんて考えるんですが。

はせ「僕としては逆にやりにくさも感じるかな。安易に何でもできちゃうぶん、すぐに取っ散らかっちゃうでしょう? なので制作側が気合入れて取り組まないと、10年後にも聴けるガール・ポップに成り得ない。みちるちゃんで言えば、何をやっても彼女らしくなるという確信を持ててから僕らもよりオープンな動きができるようになったんだけど、ただこのプロジェクト自体を一般論的にガール・ポップとは呼べないかもしれないですね」

――なるほど。昔からその時代時代においてさまざまなタイプのガール・ポップ・シンガーがいて、時代の空気を伝える役割を担っていたと思うんですが、2017年のガール・ポップにはどんな可能性を抱いてますか?

沖井「僕はガール・ポップという括りはいま危機的状況だと思いますね。とりあえず女の子を一人ないし数人立てておけば、何をやってもポップスとして成立してしまうという傾向がある。それ以外のことがなかなかできない状況だから、みんなが一様にそれしかやらなくなっている気がして。結果として数が増えすぎているし、全体的な質も下がっている感じがするんですよ。歌腕力の強い女の子が、職人たちが腕によりをかけて作った曲を歌う。そしてそのバックにはレギュレーションをしっかり認識しつつ世界観をきちっと作れるプロデューサーが控えている。そうやって作られたポップスこそが理想だと思います。でも、そうじゃないものがゾロゾロ登場しちゃうと、所詮こんなものか、と聴き手は期待しなくなってしまう。聴かれる機会さえ奪われていくわけですよ」

はせ「だっていまは、王道と呼べるものがないんですもん。だからカウンター・カルチャーも育たないでしょ。昔は例えば松田聖子という王道がしっかりと存在して、そこにアンチとか枝葉のような人たちが出てきたわけだけど、いまは王道たり得るクオリティーを保ったガール・ポップというのがほとんど消滅している状況で。このままつまみ食い的な粗製乱造が続いていると、それらとみちるちゃんの音楽との違いがわからない人が山ほど出てくると思う。まぁそういうことを啓蒙していくほどこちらは偉くもないし、時間もないから、『黄道十二宮』をなるべく多くの人に聴いてもらうしかないなと思うわけで、こういった世界もあることを知ってもらえれば」

――そうすれば必ず伝わるはずだと。

はせ「沖井さんや福田くんたちが作って下さった曲も、いま流行ってるのか?というとぜんぜんそうじゃない。僕が作る曲もそうで、それは自分の音楽的ルーツから出てきたものなんだよね。自分が好きなものをやる。現状それがベストなんだと思います。好きなものをどこまでやり続けられるか。それにみちるちゃんがどこまで付き合ってくれるか」

一同「ハハハ(笑)」

沖井「自分が聴きたいものを見つけるのがいちばんですよね。いまはこういうものが流行っているんでしょ?っていうような音楽を作る人がたくさんいるけど、半年後には結局忘れられてしまう。だから、いま僕はこれが聴きたいんだ!という熱を持った、無農薬野菜的な味の強さみたいなもののほうが後に残るんじゃないかなぁ」

――TWEEDEESもそうですもんね。特に『a la mode』は、サイズはミニなのに味の濃さがハンパなくて。ふと思ったんですが、みちるさんのようなアーティストって誰か思いつきます?

はせ「誰だろうなぁ……。でも、沖井さんや福田くんから〈お誘いいただいて嬉しかった〉って言ってもらって、僕も本当に嬉しかったんです。なぜなら僕の目標として、みちるちゃんのプロジェクトは他のクリエイターが羨むものにしたかったんですね。〈俺なんでそこにいねえんだよ〉と思わせるような。とは言え、僕以外の人間がこのプロジェクトをやってたとしたら、たぶんケチョンケチョンにけなしますけどね」

一同「ハハハ(笑)」

はせ「あんなの誰だってできるよ、とかいくらでも悪口が出てくると思うんですけど、そういった悪口を引き出させるくらいのものを作りたいと思いながらやってきたところはあります。そういう意味で、みちるちゃんのような存在っていま他にはいません!」

星野みちるの2015年作『ユー・ラブ・ミー』収録曲“夏なんだし”
 

――はせさんの中ではこの先みちるさんにこういうことをやらせてみたい、とかプランはあったりするんでしょうか?

はせ「別にないですねえ。同じことをやり続けることの大変さ、そして大切さを皆さんにぜひ伝えたいですね」

沖井「ハハハ(笑)。気持ちいいなぁ」

はせ「まあ、あの手この手はいろいろと考えてますよ。だけど、同じようなことをどれだけフレッシュさを保ちながらやっていけるかだと思います。継続は力なりという言葉を子供の頃はクソだと思っていましたが、同じ場所に立ちながらコンスタントに作品を出し続けていく大変さと貴さがいまはわかるので、僕はこれからも同じことをやります。マイナー・チェンジはあると思いますけど、いきなりシャンソンを歌い出すような奇を衒ったことはやりません(笑)」

――(笑)。沖井さんはこの先みちるさんにどんなことを望みますか?

沖井「いまの話を受けて話せば、同じことをやり続けると、伝家の宝刀って生まれるんですよね。聴き手が〈よっ、待ってました!〉っていうような、そういった確固としたものが生まれたらいいなと思います。ただし、計算しながら寄せていくんじゃなくて、自然とそういうものが出来れば強いですよね。それが生まれたときこそ、彼女が王道になるときなんじゃないかな」

――福田さんはいかがですか?

福田「お二人がおっしゃるように王道になってもらいたいという気持ちはありますし、これからも変わらず歌のうまいお姉さんでいてください、って感じですかね。実はみちるさんには9月にリリースする僕らのアルバムにも関わってもらっているんです。正直言うと最初は彼女のことをアイドル・シンガーという目で見ていたところもあったんですが、一緒に制作していくうちに一人の女性シンガーとして素敵だなと思うようになって。こちらからお願いして歌ってもらうことになったんです」

――ブルー・ペパーズ初のフル・アルバムはどんな内容になりそうですか?

福田「僕らも前EPと変わらず同じことをやっているって感じですかね。でも以前より少しは進化したところをお見せできるんじゃないかと。ただ僕ら、どうもスタジオでハシャギ過ぎてたみたいで、みちるさんからは〈子どもみたいだった〉と言われちゃいました」

――みちるさんから子ども扱いされた二人のアルバムも楽しみです。皆さん、本日はありがとうございました。

 


Live Infomation

■星野みちる

〈星野みちるの「星降る街角」ツアー〉
8月5日(土)@福井 FBC SUMMER FESTA(福井中央公園)
8月6日(日)@金沢 puddle/social w/はせはじむ
8月10日(木)@埼玉 〈番外編〉埼玉 対 千葉@ヒソミネ w/西恵利香
8月18日(金)@千葉 〈番外編〉 千葉 対 埼玉@Cafe Line w/西恵利香
9月2日(土)@岡山 BLUE BLUES
9月15日(金)@長崎 OhanaCafe
9月17日(日)@大分 ホテルニューツルタ
9月23日(土)@札幌 musica hall cafe
9月24日(日)@札幌 LIVE PRO FESTIVAL2017(ZeppSapporo)

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■TWEEDEES

〈POLLYANNA レコ発自主企画”Tambourine Championship vol.2″〉
8月8日(火)@東京・青山月見ル君想フ

〈ショウほど素敵な商売はない〜「à la mode」TOUR2017〉
8月10日(木)@愛知・ellSIZE
8月11日(金)@大阪・Live House Pangea
9月8日(金)@東京・渋谷TSUTAYA O-WEST

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