みちるさん、おかえり!――真新しいヴィジュアルでは翳りのある表情を浮かべているけど、本人はいたって元気。それどころかこれまでにない頼もしさを感じさせてくれる……と、ニュー・シングル“逆光”を聴いての感想を、まずは伝えておきましょう。
2017年にアルバム『黄道十二宮』を発表したのち、予想だにしなかった災難に巻き込まれて、リリースがままならなくなった彼女。定期ライヴこそ続けていたものの、先の見えない日々が続いたという。
「このまま歌をやめようかって思って、昨年11月のワンマン・ライヴで言うつもりでいたんです。だけど、一度やめたらやり直すのは難しいことだし、〈自由にやってみたらどう?〉ってスタッフの方に言われて……しばらく考えましたけど、徐々にヤル気を取り戻しました。結局、ワンマンのときには〈引退宣言〉ではなく、〈レーベルを立ち上げて社長になりました〉っていう発表になったんですけど、それ以上のことは何にも決まってなくて(笑)。でも、それを発表したことで気持ちも切り替わったし、気持ちも前向きになりました」。
そうして〈再出発〉を果たした星野みちるにプロデューサーとして手を差し伸べたのが、彼女のライヴでいつもVJを務め、彼女をコーラスに招いてもいたSOLEILのメンバー/プロデューサーであるサリー久保田。彼女のセンスをよく知り、辛い時期も間近で見守っていた彼が、〈いま聴きたい星野みちる〉を引き出した。
「それまで闇雲に曲を作っていたんですけど、〈そうじゃなくてテーマがあったほうがいいと思うから〉って、〈みちるちゃんのマイナーっぽい曲が聴きたい〉――そういうアドヴァイスをいただいて……」。
その言葉の通りマイナー調のバラードに仕上がったのが、ニュー・シングル表題曲の“逆光”だ。80年代のアイドル・ポップやディスコ、シティー・ポップなど、これまでさまざまなトレンドを盛り込んだ楽曲を聴かせてきた彼女が見せる新境地であり、とにかくストレートに〈イイ歌〉。自身の弾くグランドピアノにチェロとパーカションを絡めたアレンジは優雅で、歌も含めてライヴ・レコーディングされた。学生時代の淡い想い出が甦るような切ない歌詞は、microstarの飯泉裕子がしたためている。
「辛かった日々のことも相まって、結果的にいまだから作れた曲、いまの自分のすべてがブワッと出てる曲だなと思います。なんとなくふわふわ生きてきたけど、いままでの経験が力になってこういう歌も作れるようになりました」。
カップリングもまた見事。“ロックンロール・アップルパイ”は、こちらもサリー久保田から出されたお題に則って詞曲を書いたもので、パーカッショニストの山口ともが調理道具を用いてリズムを刻んでいたりもする愉快なロックンロール。また、“さよならブルーバード”は、昨年2月のライヴ共演の際にSmooth Aceの2人が一緒に歌える曲として書き下ろしたもので、〈笑ってるけど悲しい目をしてる〉という当時の星野の印象から生まれた弦楽四重奏のクラシカルなナンバー。そしてもう一曲は、彼女がAKB48在籍時に作曲し、秋元康が詞をプレゼントした“ガンバレ!”のアカペラによる再レコーディング。
「心機一転を何度も経験してきたんですけど、今回はいちばん勇気がいったし、落ち込みが激しかったぶん、がんばろうっていう気持ちが強かったので、いまこの曲を歌ってみたいなって思ったんです。〈これは星野を思って書いた詞だから、辛いときはこれを口ずさみなさい〉って秋元さんが言ってくれたことを思い出したりして、歌っていて背筋がしゃんとしました。アカペラは一人多重録音をしているんですけど、当時の歌い方が身に付きすぎていて、コーラスがうまくはまらなくて苦労しました。囁くようにとか、力まないようにとかいろいろ試して、最後はリラックスして、がんばりすぎないようにがんばって歌いました」。
どの曲をとっても大幅にアップデートされた星野みちるが楽しめる今作。歌い続けることを決心した彼女に、感謝したい。
星野みちる
85年生まれ、千葉出身のシンガー・ソングライター。3歳よりクラシック・ピアノを学ぶ。2005年にAKB48のオープニングメンバーとして活動を開始し、在籍中から作曲にも取り組む。2007年にグループを卒業し、2009年に初のソロ名義作『卒業』を発表。Michiru名義での活動を経て、2012年に星野みちる名義で“い・じ・わ・る・ダーリン”で再デビュー。2013年のファースト・アルバム『星がみちる』を皮切りに、2017年の『黄道十二宮』に至るまでコンスタントなリリースを重ねていく。2018年11月に自身が代表を務めるレーベル=よいレコード會社の設立を発表。1年9か月ぶりの作品となるニュー・シングル“逆光”(よいレコード會社)を3月6日にリリースする。