星野みちるのカヴァー・アルバムで今年の秋はモア・ベターよ!
2012年から彼女を〈再生〉させてきたプロデューサーのはせはじむ、佐藤清喜(microstar)、小西康陽、高浪慶太郎、奥田健介(NONA REEVES)、松尾宗能(ドリンクバー凡人会議)ら遊び心を知る〈音のプレイボーイ〉たちが託した輝かしい楽曲たちによってディスコグラフィーを満たしてきた星野みちるが、カヴァー・アルバム『My Favourite Songs』を届けた。
「以前にもカヴァー・アルバムを出したことがあったんですけど、そのときはピアノとアコースティック・ギターとパーカッションだけのアコースティック・ヴァージョンでやってたんです。当時やっていたラジオ番組で毎週弾き語りをしていたので、その延長みたいな感じで、自分でも選曲してました」。
そんな前回とはもちろん趣向も大きく変わり、まず、選曲はほぼプロデューサーのはせはじむが担当。「バラードがすごく好き」と言う彼女の趣味をあえて逆にとったのか、それこそシングル“ディスコティークに連れてって”のカップリングとして発表済みの“ずっと一緒さ”(オリジナルは山下達郎)が元のバラードから新井俊哉(冗談伯爵)の手によってソウルフルなミディアムに置き換えられていたりするなど、彼女が好む、彼女が無難に歌いこなせるであろうバラードはナシ。そこはコピーではなく〈カヴァー〉という意味を十二分に考慮したうえで、いずれも原曲から良い塩梅で衣替えしたアレンジを聴かせている。お手本があってないようなところから進めることで、星野みちるというシンガーのポテンシャルをさらに高め、それこそカヴァー曲を自身のオリジナル楽曲のように操ってもらいたい、いや、操ってくれるはずという期待と信頼が込められたもの――と、楽曲を聴いて感じることができるだろう。
「アレンジが変わったものを聴かされたときに〈これ、オリジナルとぜんぜん違うんだけど?〉ってすごく違和感があって気持ち悪かったんですけど(笑)、出来上がってきて、歌い込んでいくうちに慣れていって、いまは気持ち悪くなくなりました(笑)」。
相変わらず天然な答えを返してくれる彼女だが、そんな彼女が今作で逞しく挑んだカヴァー曲は、一昨年の秋に7インチとしてライヴ会場限定で発表され、一瞬にしてプレミア化したAKB48“恋するフォーチュンクッキー”(7インチとは別ヴァージョン)、松尾清憲とのコラボ盤収録の“愛しのロージー”、イックバルの日本語カヴァー“Love Me Again”、オリジナル演者の矢舟テツローを迎えた“しっぽのブルース”など発表済みの楽曲に加え……。
「私、もう、オバさん……(笑)」と言いつつ、オリジネイターばりに弾んだ歌声を聴かせる森高千里“私がオバさんになっても”を佐野元春経由スタイル・カウンシル風のヤング・ソウルなアレンジで。
「はせさんから〈ぐっとオトナっぽく歌って〉っていうリクエストがあったので、がんばりました(笑)。おかげで新しい一面がいちばん出せたなって思う曲です」という小室哲哉作の名曲“SWEET 19 BLUES”は、おっしゃる通り、これまでほとんど前に出すことがなかった一面を引き出したもので、サウンドのアレンジはTSUTCHIE。
「杏里さんの曲は昔からすごく好きで、前に出したカヴァー・アルバムでも“オリビアを聴きながら”を歌いました」という“SUMMER CANDLES”は、原曲のAORテイストのバラードをボサノヴァ調のスウィンギーなアレンジに。
「今回初めて知って、すごく好きになった曲です。佐藤清喜さんのアレンジも素敵ですし、ライヴで歌ったら楽しそう。でも私、〈パラダイス〉なキャラクターをあまり持ち合わせてなくて(笑)、いままでの曲もパーッと明るい曲がそんなになかったから、ボイトレで練習してても〈もっとパラダイスな感じで弾けて!〉って言われました」というEPO“土曜の夜はパラダイス”は、エルボウ・ボーンズ的な80年代テイストを忍ばせたビッグ・バンド風アレンジで〈ひょうきん世代〉にアピール。
「大好きな松田聖子さん、リアルタイムだと“あなたに逢いたくて~Missing You~”ですね。今回、ベスト・アルバムを聴いて、歌ってみたいと思ったのがこの曲でした」という“天国のキッス”は、WACK WACK RHYTHM BANDを迎えたゴキゲンなノーザン・ソウル風味で。
「この曲を好きな人がまわりにたくさんいて、みんなそれぞれに思い入れがあるらしく……期待に応えなきゃっていうところでいちばん難しかった曲です」という矢野顕子“ひとつだけ”は、e-mura(RUB-A-DUB MARKET)による80年代細野晴臣ワークスを匂わせる意匠に、安部潤のピアノを絡めたエレポップ。矢野独特の節回しをみちる流に解釈しているところもくすぐったい。
これまで出会ったことのなかったメロウ感覚など、いくつかの高いハードルを飛び越えて、そのポテンシャルをさらに広げて見せたカヴァー・アルバム。多彩なアレンジを楽しみながら、初めて知った楽曲も自分なりのものに変換し、まさに〈My Favourite〉にしてみせた彼女。今作も含め、カヴァー攻勢をかけてきた近作でのメガ進化ぶりは、WACK WACK RHYTHM BANDのメンバーを中心としたバンドを従えて東京・代官山UNITで開催される今季初ワンマン〈黄昏流星群 Vol.5〉でもしっかりとキャッチしたい。新しいみちる、ゲットだぜ!
キャリアを経たいまだからこそ価値の出るカヴァー盤
ひとくちに〈カヴァー・アルバム〉と言っても、その楽しみ方や、制作者の目論見はさまざま。とはいえ、過去に多くのリスナーに親しまれたカヴァー・アルバムは、やはり演者の歌唱力、表現力に寄るところが大きい。星野みちるは、本文中で挙げた作家陣による遊び心に富んだ楽曲も武器としながら、そのチャーミングな個性を輝かせているは、やはり本人のズバ抜けた表現力や説得力。AKB48在籍時から高い歌唱力を誇り、グループ卒業後しばらくは自作自演で活動していた彼女だが、新たなスタッフと出会い、それまで縁のなかった音楽、歌と出会ったことで視野を広げ、シンガー・ソングライターというより、シンガーとして成長。切磋琢磨を繰り返していった成果が、満を持して届けられた今回のカヴァー盤にも刻まれている。彼女自身、徳永英明のカヴァーで竹内まりやの“駅”を知ったクチだそうだが、星野みちるに縁がなかったリスナーに対しても引力を放ちそうな『My Favourite Songs』で、今度は同じ体験を彼女自身が与える番だ。
『My Favourite Songs』と繋げて楽しみたい――そんな気分で贈る2016年の銀盤たち
小西康陽、高浪慶太郎からの楽曲を授かった星野みちる同様、ピチカート・ファイヴの遺伝子をその音楽性に受け継いでいる彼女。今作では田中貴(サニーデイ・サービス)、ナガイケジョー(スクービードゥー)らをゲストに迎え、彼女のキャラが滲み出た洒脱で情熱的なポップ・ナンバーの数々に新たなグルーヴを注入。
星野みちるの楽曲、その多くを手掛けてきた佐藤清喜と、ヴォーカルの飯泉裕子によるポップ・ユニット。実に8年ぶりのアルバムとなった本作は、それこそ星野みちるのカヴァー盤でも手腕を振るったEPO“土曜の夜はパラダイス”に通じるビッグバンド風サウンドなど、当然ながら音の風合いに共通項は多く。
清浦夏実と沖井礼二によるユニット。聴きどころのひとつは、Cymbalsの時代から才気を放っていた沖井のサウンドメイクということになるのだが、そのあたりを〈通好み〉として届けるのではなく、情感豊かな〈清浦のヴォーカルありき〉の歌世界をしっかりと作り上げているところに人懐っこさと楽しさがあり。
Avec AvecとSeihoという、各々多方面で活躍するサウンド・クリエイターが、普遍的なポップソングたるものを突き詰めたセカンド・アルバム。表題曲にはゲスト・ヴォーカルとして井上苑子が参加。託された楽曲を歌うことで、シンガー・ソングライターとして活動する彼女の新たな魅力も引き出されているのが興味深い。
新体制後の2枚目となった本作で、堀込高樹以外のメンバーもメイン・ヴォーカルとして登板。なかでも、ディスコティークな“Mr. BOOGIEMAN”ほかを歌う弓木英梨乃の(彼女のギター同様)リズム・センスに富んだ歌唱と、天然のようでいて凛々しくもある彼女のキャラクターをぐっと引き立てる高樹のソングライティングの妙!
という弓木英梨乃もツアー・サポートを務めていた柴咲コウの(昨年に続く)カヴァー・アルバム。RUI名義でのミリオン・ヒット“月のしずく”に始まり、さまざまなコラボレーションを経て、歌に艶を増していった彼女だが、ここに来てカヴァー・アルバムが続いているのは、歌うことの喜びを実感している表れのように思える。
〈昭和の歌謡曲が好き!〉って言う平成生まれも、まあ、珍しくはないけれど、あの頃の歌い手特有の佇まいや、普通に歌が上手かったところなど、彼女はパフォーマンスでそれを体現している稀有な存在。〈もし、憧れの歌手から楽曲制作を依頼されたら〉というテーマで書かれた本作だが、企画力以上に、町あかりという個性に惹かれる。
素晴らしい音楽や人々との出会いは、歌い手として、女性として、いくつになってもその存在を瑞々しくしてくれる。〈時をかける少女〉だった彼女が、こんな滋味深いカヴァー・アルバムを作るなんて……と言いつつも、その道筋は来生たかお、松任谷由実といった作家陣と共に歌手人生を歩みはじめたときから決まっていたのかも?
みちるさんも大好きな杏里“オリビアを聴きながら”の作者も、今年でデビュー40周年。自選のベスト盤に続いて届けられた本作には、同曲を含むセルフ・カヴァーや洋楽カヴァーなどを、スタジオ・ライヴ・ヴァージョンも交えた2枚組で収録。このキャリアにしてピュアさを失わない歌声――みちるさんもめざしてみる?









