INTERVIEW

星野みちる『月がきれいですね』 再出発の輝きを象った待望のニュー・アルバムを語る

星野みちる『月がきれいですね』 再出発の輝きを象った待望のニュー・アルバムを語る

逆光に射抜かれた心機一転の再スタート。シンガーとして、ソングライターとして、ミュージシャンとして、その表現により磨きをかけた彼女はいま何を照らし出す?

一人では出せないアイデア

 話はずいぶん昔まで遡るが、AKB48のオープニング・メンバーだった星野みちるが、グループを卒業したのは2007年春のこと。その後はシンガー・ソングライターとして活動し、2012年秋にヴィヴィドでリリースするようになってからは、作曲のスキルを半ば封印。DJユースにも応えたポップなサウンドをバックに、シンガーとしてのチャームを輝かせてきた彼女。新しいファンも獲得し、ミュージシャンからの支持も集めながら、順調に活動を続けていたのだが、2017年6月にアルバム『黄道十二宮』を発表したのち、予想だにしなかった災難に巻き込まれ、一時は歌うことをやめようとも考えた。しかし、周囲の励ましに背中を押され、自身のレーベル〈よいレコード會社〉を立ち上げて心機一転。今年3月にリリースしたのがシングル“逆光”だった。

 「いままでとは印象が違うけど、すごくカッコイイね、イイ曲だねって言われることが多かったです」。

 自身の演奏によるピアノを中心として編まれた“逆光”は、世のトレンドと計りにかけて云々というより先に、情感豊かなメロディーと歌声に引き込まれていく曲。しばしのブランクが〈雨空〉だったとすれば、このときめきは〈雨上がりの夜空〉。雲の切れ間からふたたび星の輝きが見えはじめ、星野みちる〈再出発〉の明るい道のりを照らす!──と、期待が高まるなかで、いよいよニュー・アルバム『月がきれいですね』が届けられた。最近ではSOLEILのメンバー/プロデューサーとしてお馴染みのサリー久保田が、“逆光”から引き続きプロデュースを手掛けている。

星野みちる 月がきれいですね よいレコード會社(2019)

 「いままでアルバムでは1、2曲ぐらいしか自分で作った曲は入ってなかったんですけど、今回は10曲中6曲あって。自分で書いた曲がこんなに入るのは初めてなのでドキドキします。“ロックンロール・アップルパイ”(“逆光”のカップリングで、今作にも収録)のときもそうでしたが、サリーさんからヒントをいただいて、〈こういう感じの曲調で作ってほしい〉って言われたものに応えながら曲を作っていきました。自分一人ではアイデアを引き出せない曲が出来上がっていくのはおもしろいです」。

 星野みちるは、できる!──彼女のポテンシャルをさもありなんと引き出していけるのは、それまで楽曲制作でこそ関わっていなかったものの、ライヴでのVJで彼女のパフォーマンスを間近で見続けてきたサリー久保田だからこそ成せるもの。〈再出発〉以来、ライヴをサポートしてきた吉良都(チェロ)、山下あすか(パーカッション)とのコンボによるアンサンブルも滋味深い。

 「3人でやるようになってから、いままで以上にライヴが楽しくなっていって。こういったチーム・プレイは初めてなので、みんなといっしょに曲を奏でたいという気持ちも強くなったし、ライヴもすごくやり甲斐を感じるようになりました」。

 さらに、TVCMや劇伴などでも活躍するポップス職人、岡田ユミが全曲のアレンジを担当し、楽曲にさまざまな色合いを添えている。

 「私が作った曲を何倍にも膨らませて素敵な仕上がりにしてくれるので、感動してます。アルバムは全部生音で録ったんですけど、岡田さんのアレンジを最初にいただいて、あっ、こんなふうになるんだ!って感動して、実際に生演奏でレコーディングするとまた感動。歌入れのときの気構えもぜんぜん違いましたし、演奏していたミュージシャンとか自分のピアノとかもこういうふうに弾いてたなっていうのを思い出すと、気持ちも盛り上がりますね」。

 また、ほとんどの作詞を自身の他に飯泉裕子(microstar)、清浦夏実、辻林美穂、といった女性が担当した点もアルバムのシルエットにふくよかさをもたらしている。

 「女性に聴いてほしいっていう考えもあって。飯泉さん、清浦さん、辻林さんには以前にも書いていただいていて、そのときに自分のなかでぐっとくるものがあったし、やはり女性のほうがよりリアリティーがあって、核心を突いた詞が多かったりするんです」。

 

泣いちゃうよね

 アルバムは、曲ごしにキャロル・キングが望めるようなアコースティック・バラード“月がきれいですね”に始まり、細野晴臣のトロピカル路線と森高千里“ロックンロール県庁所在地”がイメージの元になっている楽しいナンバー“みちるの泰平洋航”、ノスタルジアを誘うメランコリックな秀曲“雨粒のワルツ”、サリー久保田と原“GEN”秀樹のリズム隊を加えたグルーヴィーなサウンドに乗って愛の言葉を囁く“私だけの人”、ビートルズ“Across The Universe”を彷彿とさせるスケール感の“ダブルアンコール”、他にもピチカート・ファイヴ“皆笑った”と南野陽子“話しかけたかった”のカヴァーが交わるなか、意表を突くのが伊秩弘将が詞曲を書き下ろした“サプライズ日和”。〈ちゃんとしっかり掴まえてなくちゃ婚活しちゃうよ〉なんてフレーズも飛び出すコミカルな曲調もアルバムに良いアクセントをもたらしているが、そもそもあのSPEEDなどを手掛けた名プロデューサーがどういうきっかけで曲を書くことになったのか!?

 「私が春までやっていたラジオ番組で“逆光”を流したとき、それをたまたま聴いてくださってたそうなんです。それで気に留めていただいたみたいで。その番組のあと、イックバルのライヴに1曲だけゲストで出たことがあったんですけど、歌い終えてステージを降りたら、袖にいた男性が話しかけてきたんです。失礼な話、そのときは伊秩さんだっていうことに気付かなかったんですけど、SPEEDのプロデューサーだった方って聞いてびっくりして。“サプライズ日和”は、アラサーの私にぴったりの曲だなって思います(笑)」。

 ラジオで耳にしてライヴを観に来た、曲だけで惹かれた、という伊秩弘将の衝動はとてもシンプルで純粋。いままでまったく接点のなかった作家との出会いは、星野みちるの活動の場をぐっと広げるきっかけになるかもしれないし、彼のような形で星野みちるの曲とたまたま出会って惹き付けられた、そんなエピソードもこれからもっと生まれそうな予感。1年前には厚い雲に覆われていた〈雨空〉に、いよいよ眩い星たちがみちる……か。

 「1年前はまさかアルバムが作れる日が来るとは思ってもみなかったですし、こんなに自分でたくさん曲を作る日が来るとも思っていなかったです。リリースできたら泣いちゃうよねって話をしてたぐらいなので、実際にいま、すごく感慨深いです。まだまだ新しい道を手探りでやっている状況ではあるので、みんなどう思ってくれるんだろう?っていうのは気になるところですけど、自信を持って突き進むしかないなと思ってやっています」。

 〈月がきれいですね〉は、夏目漱石が〈I love you〉をそう訳したという逸話があるロマンティックな言葉。いまの彼女にそう囁かれたら、〈君と見る月だからだろうね〉と答えたい。

関連盤を紹介。
上から、星野みちるの2019年のシングル“逆光”(よいレコード會社)、星野みちるが参加したブルー・ペパーズの2017年作『レトロアクティヴ』(HIGH CONTRAST/ヴィヴィド)、サリー久保田が在籍するSOLEILの2019年作『LOLLIPOP SIXTEEN』(ビクター)、飯泉裕子が在籍するmicrostarの2016年作『シー・ガット・ザ・ブルース』(HIGH CONTRAST/ヴィヴィド)、清浦夏実が在籍するTWEEDEESの2018年作『DELICIOUS.』(コロムビア)、辻林美穂の2019年作『ombre』(FLY HIGH)、細野晴臣の76年作『泰安洋行』(PANAM)、PIZZICATO FIVEの87年作『couples』、南野陽子の編集盤『ゴールデン★アイドル 南野陽子 30th Anniversary』(共にソニー)

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