佐野元春が〈佐野元春 & The Coyote Band〉名義での新作『MANIJU』をリリースした。現代の不穏なムードを重たいロック・アンサンブルに映し出した2015年の前作『BLOOD MOON』とは打って変わって、今作のムードは実に軽やかで開放的――フィリー・ソウル的なストリングス・アレンジを配したダンス・チューンや柔らかなサイケデリアを醸すフォーキーなナンバーなど12曲を収録し、40年近いキャリアを持つヴェテランとは思えないほどの瑞々しさが全編に溢れるアルバムになった。

路地裏をスキップしながら歩んでいくようなリズムと、体温のほのかな暖かさを感じさせるメロディーに乗せ、佐野が綴ったのは〈若い都市生活者たちの憂い〉。そこには彼が2017年の日本に見る、ヤング・ブラッズの姿、孤独でありながらも澄んだ蒼さを失うことのない魂の震えが息づいている。そんな視線で貫かれた今作だからこそ、このタイミングで若いリスナーと佐野元春との出会いが生まれることを願い、Mikikiではシリーズ企画として、佐野と若手ミュージシャンたちとの往復書簡を実施した。

その第1回となる今稿では、ロックンロールやソウル、ダブなどをしなやかなグルーヴに昇華、Suchmosやnever young beachらと並んで2010年代のロック・シーンを牽引するYogee New Wavesのフロントマン、角舘健悟が登場。当代きってのロマンチストにして、かねてから佐野のファンであったという角舘に筆をとってもらった。角舘が想いの丈や新作『MANIJU』を聴いた感想、質問などを書いた手紙をもとに、佐野がリプライ。そのやりとりを以下に掲載する。 *Mikiki編集部

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佐野元春 & THE COYOTE BAND MANIJU DaisyMusic(2017)

 

佐野元春⇔角舘健悟

―角舘 はじめまして、YOGEE NEW WAVESというバンドを率いている角舘という者です。不束者ですが、音楽を中心に生活をしていたのが高じて音楽家として生活をしています。こうして、佐野さんに対してメッセージを送っているのが不思議でなりません。失礼のないように言葉を考えたあげく、遅れてしまったことをお詫びします。

―佐野 角舘さん、メールをありがとう。『WAVES』聴きました。“Dive into the honey time” “Fantasic Show”“How do you feel?”そして“C.A.M.P.” 、いいですね。言葉、メロディー、ビートがひとつになって届いてくる。ポップ音楽がいいな、と思う瞬間です。いい音楽をありがとう。

 

―角舘 新しいメディアや音楽の媒体が年々更新されていく中で、僕ら20代の世代からすると手軽に未知なる音楽が手に入る時代になっています。アフリカからアメリカまで、民謡からテクノまで、世界が手に入ったような気さえします。温故知新を思うのであれば、裸の王様になりかねないと少し心配さえ感じてしまっています。それのアンチテーゼか、若気による好奇心の爆発か、不可思議なことに佐野さんたちが愛してやまなかったレコードやカセットにまで手が伸びては、 乱暴に消費する流れになっているようにも思います。

ただ、メディアはどうであれ、音楽に対する熱情や少年的な好奇心があればいつだってぼくらの音楽は高貴であると心の底から信じています。いつまでも果てない何かを思い描くのは本当に素敵なものです。

―佐野 いつの時代もリスナーは欲張りで性急だ。手段はどうあれ、いい音楽があるなら近道してでもそこにたどり着きたい。ブラック・ヴィニールやテープのサウンド。そこに最良のゴールがあるなら求める。僕も20代なら同じことをします。

 

―角舘 本題ですが、佐野さんの音楽に対して僕は〈その人らしさ〉というものを強く感じます。この〈自分らしくいる〉ということは、これからの僕らにとっても、これを覗いているみなさんにとっても特別に、重要で大事な何かだと感じています。とっても難しいことかもしれません。弱さを認めるのか、弱さを守るのか。その人らしくいることが、全ての音楽に色を加えて、その人でしかない音楽になり得ると思っています。佐野さんにとってのあなたらしさとはなんですか? そして、疲れてしまうようなこの時代に自分らしさを強く握りしめるコツなんてものはありませんか? 僕は僕なりに握りしめ方がわかってきたように思います。(まだまだですが。)

―佐野 自分らしくいる、ということは、自分に正直でいる、ということなのだと思う。けれどこれがまた難しく僕には自信がない。ただ文学や音楽には確かに、それを書いた作家やソングライターの性格が出ます。多分本人は気づかないうちに滲みでるものだろうと思う。

曲を書くときに、自分らしさを意識するとたいていは失敗する。そんな経験から、僕はなるべく自分とは何者かを聴き手に悟られないように気をつけている。それが自分らしさを強く握りしめるコツかもしれない。もし、聴き手にバレてしまっているなら、少しやり方を変えないといけないな。

92年作『Sweet16』収録曲“レインボー・イン・マイ・ソウル”のライヴ映像

 

―角舘 佐野さんの新作の話をさせてください。今作聞かせていただきました。本当に佐野さんの音楽にしっくりきます。佐野さんの言いたい言葉があって、そこの環境を包括するコヨーテが演奏するゴージャスなバックサウンドがある。人には喜怒哀楽があるように、佐野さんの最近の作品はお年を召された上での喜怒哀楽があって素敵です。

―佐野 ありがとう。そこは角舘さんとバンドメンバーの関係と同じではないですか? YOGEE NEW WAVESの音楽を聴くと、バンドが角舘さんのソングライティングをよく理解した上で演奏しているように聴こえます。いいバンドですね。

そして嬉しいのは、新作の音楽が角舘さんに届いているということ。聴く世代を問わないポップ音楽が好きです。YOGEE NEW WAVESの音楽も僕に届いていますよ。

『MANIJU』収録曲“白夜飛行”

 

―角舘 東京の街の音楽であるシティポップには、愛と人との出会いが見え隠れします。“天空のバイク”素敵でした。またそれと打って変わって、“朽ちたスズラン”や“現実は見た目とは違う”とても抽象的ですが、教会での考え事のようにさえ感じます。つまりは愛がすべてなんだと思います。僕も喜怒哀楽とその周りに浮遊する音たちをひとつにしたいって思っています。

―佐野 それがきっと僕らが音楽を続けている理由のひとつなんだろうと思います。曲づくりではそれを3 - 4分という限られた時間でまとめないといけない。わかってはいるけれど、何かマシなことを唄おうというのはけっこう骨が折れますよね。

 

―角舘 恥ずかしながら、無い物ねだりですが、佐野さんに対してあなたのようになりたいと思ったことが沢山あります。探究心と好奇心によって生まれた、佐野さんらしい音楽と、それをステージの上で凛々しく歌い上げる姿は僕の勇気であり、背中を押してくれることでもあります。素敵です、いつまでも大好きです。

―佐野 光栄です。いつの時代にも、世代の共感を得て広く愛される音楽があります。今の10代にとって、ヨギーやサチモス、ネバーヤングが音を奏でているということは、どんなに幸せかと思います。物語は始まったばかり。共感の輪が広がっていく!

Yogee New Wavesの2017年作『WAVES』収録曲“World is Mine”

 

―角舘 もうひとつ質問があります。都内にある、佐野さんオススメの喫茶店なんかが知りたいです。僕は、そこにいる人が大好きなのか、渋谷のTOPが好きです。いつか喫茶店にお連れできる日がくることを待ってます。

―佐野 ごめん、店のことはわからない。でもうれしいお誘いをありがとう、ぜひ連れていってください。その時にまた話の続きを。

佐野元春&THE COYOTE GRAND ROCKSTRAの2016年のライヴ映像。89年作『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』収録曲“約束の橋”

 


■佐野元春
〈Smoke & Blue〉
Billboard Live TOKYO、Billboard Live OSAKA & Blue Note Nagoyaにて11月に開催。詳細は追ってアーティストHPで発表。

〈佐野元春 & THE COYOTE BAND 全国ツアー2018〉
2018年2月上旬からスタート。詳細は追ってアーティストHPで発表。

■Yogee New Waves
〈DREAMIN’ NIGHT TOUR 2017〉
2017年10月28日(土)東京・渋谷TSUTAYA O-EAST
2017年11月2日(木)福岡 BEAT STATION
2017年11月3日(金)大阪 umeda TRAD
2017年11月4日(土)静岡・浜松 FORCE
2017年11月10日(金)仙台 CLUB JUNK BOX
2017年11月11日(土)新潟 GOLDEN PIGS RED
2017年11月12日(日)石川・金沢 GOLD CREEK
2017年11月17日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
2017年11月18日(土)岡山 YEBISU YA PRO
2017年11月23日(木)北海道・札幌 KRAPS HALL
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