今や、日本国内にとどまらず世界各地域から広い支持を集める音楽家、一十三十一。2010年代以降、現在進行系の都市型ポップスの最前線を先導し続けて来た彼女が、オリジナルフルアルバムとしては2017年の『Ecstasy』以来7年半ぶりとなる新作『Telepa Telepa』をリリースした。
全曲にわたり彼女が信頼を置く個性豊かなアーティストとコラボレーションを行った本作は、距離を超えてお互いのエモーションが交信し合うような、これまでの作品の中でも特にバラエティ豊かな内容となっている。加えて、新たに大原大次郎が手掛けたアートワークも、新生・一十三十一の始動を強く印象付けている。
各アーティストとのやりとりや、各曲のイメージ、多様なトラックと言葉の間から漂ってくる共通したムードまで、『Telepa Telepa』についてじっくりと語ってもらった。
前作とは真逆のものを作りたかった
――オリジナルフルアルバムとしてはかなり久々の作品となりますね。
「はい。けれど、その間にも流線形とのアルバム『Talio』(2020年)を出したり、色んなアーティストと沢山コラボレーションしたり、中国、韓国、フィリピンとか各所をツアーで回ったりしていたので、〈もうそんな時間が経ったなんて嘘でしょ!?〉っていう感覚です(笑)。本当にあっという間でしたね」
――特にここ数年で海外アーティストとの繋がりが増えていった感じなんでしょうか?
「そうですね。実際にツアー先で交流することもあったし、ネット上でラブコールを受け取ることもあって。私のSNSの投稿に〈いいね〉を付けてくれて、そこからDMをもらったりもしました。不思議なことにそうやってメッセージをくれる人って、私自身も前々から気になっていた人のことが多いんです。だから余計嬉しくて。海外からのライブのオファーも、そんな感じでいきなりDMが来ることが多いです」
――ツアー先でも、自分の作品が観客に浸透している感触はありましたか?
「ありました。中国のお客さんは大合唱してくれましたから。カタコトの中国語でMCするよりも日本語で話した方が通じるんです。行く前は心配していたんですけど、ありがたいことに全然そんなことなかったですね」
――今回、海外の音楽家を含めて色々なアーティストとのコラボレーションを軸にした作品にしようと思ったのにも、そういった経験が影響しているんでしょうか?
「それもあると思いますけど、元々前作のリリース後に、次は全く違ったものを作りたいと思ったことから始まっています。毎回前に作ったものとは真逆のものを作りたいと思ってしまうんですよ。前作はDorianくんと二人でみっちり作ったので、次は曲ごとに違う人達と一緒にやりたいなと思っていたんです。
『CITY DIVE』(2012年)以降、綿密な脚本を書くようにコンセプトを決め込んで作ってきたんですけど、今回はあえて季節もシチュエーションも限定しないで、原点回帰的なものにしたいと考えていました」
自らのテーマともリンクしたワイルド・ナッシングとのコラボ曲
――各アーティストとの作業について伺わせてください。まず、ジャック・テイタム(ワイルド・ナッシング)が参加した“Like A First Kiss”ですが、一十三さんとインディーロック系のアーティストである彼の組み合わせは、個人的にも新鮮なものがありました。
「“Headlights On”っていう曲のMVで彼が車を運転していて、そのビジュアルも大好きでよく見ていたんです。それでこちらから声をかけたら、彼も私の音楽に興味を持ってくれていたみたいで。実際に曲を作ってもらうにあたっては、シティポップとか、彼が思う私のイメージに合わせ過ぎず、今のワイルド・ナッシングのサウンドを元に作ってほしいと伝えました。何個か上げてくれたデモの中でこれが第一候補だったので、即決でした」
――レトロに振れ過ぎず、絶妙な現代感があるサウンドですね。
「以前から私の大きなテーマとして〈エモーショナルなエスケーピズム〉というのがあるんですけど、そういう視点からもとても良いものができたと思っています」
――英語と日本語が入り混じる歌詞も印象的でした。むしろ、日本語の割合の方が少ないくらいで。
「彼が書いてくれた英語の歌詞に対して、私がところどころ日本語を入れていきました。最初から混ざり合ったものがいいと思っていたし、私自身、どちらか一方の言語だけで歌わなくちゃいけないとも考えていなかったので」
ホームリスニングとクラブミュージックの架け橋的な役割
――次の“デジャブのブルー”は盟友Dorianさんとのコラボですが、アルバムの中でも目立ってダンサブルな仕上がりですね。
「Dorianくんとはこれまで沢山一緒に曲を作ってきて信頼感もばっちりなので、今回はまずBPMを指定させてもらいました」
――一十三さんの作品は、以前からウェルメイドなシティポップの文脈で語られることも多くて、ホームリスニングの対象として鑑賞されているようなイメージもあるんですが、こういうトラックを聴くと、やっぱりクラブミュージックなんだなと再認識させられます。
「私自身こういうサウンドが大好きなので、自然と入れたくなってしまいますね。自分としても、ホームリスニング的な世界とクラブミュージックの架け橋的な役割になれたら、という気持ちが昔からあります。だからなのか、どのイベントに出ても浮いちゃうんですけど(笑)」
――Yogee New Wavesの角舘健悟さんが参加した3曲目“Wave Of You”も、とても興味深い組み合わせです。Yogee New Wavesのサウンドからするとより洗練度が高めというか、新機軸に感じました。
「そうですよね。フォーキーさも抑えめですし。実はここに至るまでかなり紆余曲折を経ていて。生っぽいものを試したこともあれば、もっとエレクトロニックな音を試したこともあったり」
――絶妙なバランスですよね。〈これぞバンドサウンド!〉っていう感じでもないけど、かといって無機的でもない。いわゆる〈ソフィスティポップ〉の味わいというか。一方で、ギターソロは〈まさに!〉という感じで。
「角舘くんもYogee New Wavesとは違ったアプローチに挑戦したいと思っていた、ターニングポイント的な時期だったみたいで。結果的にとても良い曲にしてくれました。
この曲に限らず、今回は本当に手探りしながら作っていった感覚です。最初から〈こうしたい〉というイメージがあったわけじゃなくて、砂場で遊びながら何かができていった感覚というか……。角館くんとは宇宙の絵を描いて歌詞のイメージを伝えたり、お茶を飲みながら色々コミュニケーションしたりしました」
都会の生活をトリートメントする〈安全地帯〉みたいなアルバム
――次がカリフォルニアのインディーポップアーティスト、ロス・レトロスを迎えた“Before You Go”。これも彼の作品のローファイな感じに比べるとよりブライトというか、少し印象が違いますね。
「彼とは以前JINTANA & EMERALDSでもコラボレーションしたことがあるんですが、どうやら今はフュージョンっぽいモードらしくて。この曲に限らず、アルバム全体で〈80s〉というキーワードもあって、それを現代的に解釈したサウンドをやってみたいと提案していたので、そういう意味でもとても良い曲になったと思います」
――続く“ロストシティ”は、プロデューサーのChocoholicさんとの共作ですね。こちらは比較的ダンスミュージック度が高めです。
「彼女には以前リミックスをお願いしたことがあったんですが、イチから一緒に作るのは初めてでした。いただいたデモの上に私がメロディーを付けていくっていう作り方でした」
――歌詞も含め、上向きな印象と憂いみたいなものが一曲の中に同居している感じが魅力的です。
「どうしても影のあるものに惹かれてしまうんですよね。クラブが好きと言っても、自分がめちゃくちゃパーティーピープルみたいな人間なのかと言ったら全然違う(笑)。自分の作品に限らず、普段聴くものも憂いを含んだものの方が心にヒットすることが多い気がします。
ヒリヒリした都会の生活をトリートメントするものが好きなんですよね。音楽の逃げ場所というか……。元々、今回のアルバムのタイトルも〈安全地帯〉にしようとしていたくらいで。結局、バンドの安全地帯を連想させちゃうかなと思ってやめたんですけど(笑)」
――ceroの髙城晶平さんと荒内佑さんが参加した“Hamon Baby Boy”は、メロディーやサウンドも、まさに彼らの個性が刻まれている感じがします。
「彼らとは(ceroのシングル)“Orphans”にコーラスで参加して以来の仲で、いつか自分の作品でもイチから共作したいなと思っていたんです。最初はダンスミュージック的な曲がくるのかなと予想していたんですけど、上がってきたのがまさかのバラードで驚きました(笑)。〈好きにやってください〉と伝えたのが結果的に功を奏しましたね」
――この曲の歌詞にもどこかうら寂しさが漂っていて、シネマティックな印象も受けます。
「髙城くんと歌詞について話したとき、季節外れの避暑地のイメージがあると伝えられたんです。海も見えているけど辺りに人気がなくて、ヤシの木じゃなくて松の木がある感じ。
あと〈日本映画〉というキーワードも言っていて、〈それって小津安二郎とか?〉って訊いたら、濱口竜介さんの『ドライブ・マイ・カー』に近い世界かなって。すごく透き通った雰囲気だけど、ずっと不穏なムードが漂っている感じ。ヒリヒリした感覚と美しいものの共存というのは、私が考えていたイメージともぴったり一致していたんです」
寂しさって快感だと思う
――最後の曲はメキシコのバンド、フアンパリートスチノスが参加した“あなたとContigo”ですが、スペイン語がふんだんに用いられているのがとても新鮮でした。
「元々彼らのMVが好きでよく見ていたので、今回オファーさせてもらいました。作る前から、彼らにとっての母語であるスペイン語で歌ってもらった方が説得力が出ると思っていたんですが、出来上がってきたものを聴いたら実際にそうなっていました。
こういう風にスペイン語と日本語がちゃんぽんして混ざり合ったものって、私自身あまり聴いたことがなかったけど、きっとかっこいいものに着地するんじゃないかと思っていました」
――曲調自体が、例えばチカーノソウルに寄っているとかでもなく、むしろ欧米発のハイエナジーっぽいサウンドになっているっていうのも、シャレているなと思いました。
「私も最初は思っていた以上にポップでハイエナジーなものが来たなと思ったんですが、その中にも彼らの持ち味である憂いを帯びた感覚が滲んでいるんですよね。そこがとても魅力的です」
――アルバム全体を聴くと、ぼんやりと〈イメージ上の都市〉像が立ち上がってくるのを感じます。どこか都市の夜の風景を描いたSFっぽさがあるというか……。
「もしかすると、制作の時期に東京のど真ん中に引っ越したことも大きいかもしれないですね。家の周りは昼間はすごくノイジーなんですけど、夜になるとみんな街から帰ってしまって、すごく静かなんです。静けさの気持ちよさを再確認することになって。夜ってなんて自由で静かなんだろう、と。このアルバムにも、そういう気持ちが入り込んでいるのかもしれません」
――子供の頃、深夜にラジオを聴いたりするのはお好きでしたか?
「あ〜、好きでした」
――夜の静けさの中、どこからともなく自分の家めがけて電波が飛んできて、部屋の中に親密な空間が作り出されているような……あれに似た感覚を今回のアルバムに感じるんですよね。真夜中にネットを徘徊していて、誰か知らない人と空間を超えて、ふとしたことで繋がる瞬間の不思議さ、ロマンチックさというか。
「夜って、色んなノイズから解放されて、好きな場所やものと瞬間的に繋がれる時間という感じがしますよね。そういう時間の中で音楽を作るのがとても気持ちよくて。季節もコンセプトも決めず、夜の時間の中でそれぞれのトラックの中に漂っている何かを言葉にしていく作業は、たしかにとてもスペーシーな体験だったかもしれないですね」
――『Telepa Telepa』というアルバムタイトルにはどんな意味が込められているんでしょうか?
「離れたところで言葉を使ってやり取りするけれど、言葉以上のもので繋がっている感覚を表現したかったんです。コラボレーションの相手もそうだし、アルバムを聴いてくれるリスナーもそうだし、そこでは音楽を通じたメタコミュニケーションが行われていると思っていて」
――そういう〈繋がり〉への意識がある一方で、曲や歌詞からは別離の寂しさも漂っているように感じます。これは今作に限らず、これまでの一十三さんの作品からも感じることなんですが、やはりずっと大きなモチーフとして自分の中にあるんでしょうか?
「そうですね。やっぱり、別れがないと始まりもないですからね。寂しさって快感だと思うんです。だって美しいじゃないですか。私にとってはそう長くは続かない感情だからこそ、余計にそう思えるというか。
もちろん、その最中は辛いし、それが〈寂しさ〉であると気づくこともできないくらいなんだけど、振り返ると、あれは美しい感情だったなと思うことが多くて。寂しさを通じてしか拾えない美しさがあるし、それってとても尊いなと思うんです」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2025年3月26日(水)
品番:HBRJ-1029
価格:3,080円(税込)
配信・購入リンク:https://ultravybe.lnk.to/telepatelepa
TRACKLIST
1. Like A First Kiss feat. Wild Nothing
2. デジャブのブルー
3. Wave Of You
4. Before You Go feat. Los Retros
5. ロストシティ
6. Hamon Baby Boy
7. あなたとContigo feat. Juanpalitoschinos
■参加アーティスト
Wild Nothing
Dorian
角舘健悟(Yogee New Waves)
Juanpalitoschinos
Los Retros
Chocoholic
髙城晶平(cero)
LIVE INFORMATION
一十三十一
new album release live ~Telepa Telepa~
2025年6月30日(月)ビルボードライブ大阪
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
2025年7月3日(木)ビルボードライブ東京
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
■チケット料金 ※飲食代金別
【大阪公演】
BOXシート:20,100円(ペア販売)
S指定席:9,500円
R指定席:8,400円
カジュアルシート:7,900円(1ドリンク付)
【東京公演】
DXシートDuo:21,200円(ペア販売)
Duoシート:20,100円(ペア販売)
DXシートカウンター:10,600円
S指定席:9,500円
R指定席:8,400円
カジュアルシート:7,900円(1ドリンク付)
■チケット販売
Club BBL会員・法人会員先行(ビルボードライブ直販|先着):2025年4月4日(金)12:00
イープラス特別先行(先着):2025年4月6日(日)12:00
一般発売(ビルボードライブ直販|先着):2025年4月11日(金)12:00
※チケットはビルボードライブ公式HPでご購入いただけます
※ビルボードライブ公式HPでチケットをご購入いただく際にはHH cross IDへの登録(無料)が必要となります
※HH cross IDとは阪急阪神ホールディングスグループが提供する様々なサービスを、ひとつのIDでご利用いただくためのIDです
■メンバー
一十三十一(ボーカル)
奥田健介 from NONA REEVES(ギター)
南條レオ(ベース)
冨田謙(キーボード)
小松シゲル from NONA REEVES(ドラムス)
ヤマカミヒトミ(サックス/フルート)
ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/
