今や、日本国内にとどまらず世界各地域から広い支持を集める音楽家、一十三十一。2010年代以降、現在進行系の都市型ポップスの最前線を先導し続けて来た彼女が、オリジナルフルアルバムとしては2017年の『Ecstasy』以来7年半ぶりとなる新作『Telepa Telepa』をリリースした。

全曲にわたり彼女が信頼を置く個性豊かなアーティストとコラボレーションを行った本作は、距離を超えてお互いのエモーションが交信し合うような、これまでの作品の中でも特にバラエティ豊かな内容となっている。加えて、新たに大原大次郎が手掛けたアートワークも、新生・一十三十一の始動を強く印象付けている。

各アーティストとのやりとりや、各曲のイメージ、多様なトラックと言葉の間から漂ってくる共通したムードまで、『Telepa Telepa』についてじっくりと語ってもらった。

一十三十一 『Telepa Telepa』 Billboard JAPAN(2025)

 

前作とは真逆のものを作りたかった

――オリジナルフルアルバムとしてはかなり久々の作品となりますね。

「はい。けれど、その間にも流線形とのアルバム『Talio』(2020年)を出したり、色んなアーティストと沢山コラボレーションしたり、中国、韓国、フィリピンとか各所をツアーで回ったりしていたので、〈もうそんな時間が経ったなんて嘘でしょ!?〉っていう感覚です(笑)。本当にあっという間でしたね」

――特にここ数年で海外アーティストとの繋がりが増えていった感じなんでしょうか?

「そうですね。実際にツアー先で交流することもあったし、ネット上でラブコールを受け取ることもあって。私のSNSの投稿に〈いいね〉を付けてくれて、そこからDMをもらったりもしました。不思議なことにそうやってメッセージをくれる人って、私自身も前々から気になっていた人のことが多いんです。だから余計嬉しくて。海外からのライブのオファーも、そんな感じでいきなりDMが来ることが多いです」

――ツアー先でも、自分の作品が観客に浸透している感触はありましたか?

「ありました。中国のお客さんは大合唱してくれましたから。カタコトの中国語でMCするよりも日本語で話した方が通じるんです。行く前は心配していたんですけど、ありがたいことに全然そんなことなかったですね」

――今回、海外の音楽家を含めて色々なアーティストとのコラボレーションを軸にした作品にしようと思ったのにも、そういった経験が影響しているんでしょうか?

「それもあると思いますけど、元々前作のリリース後に、次は全く違ったものを作りたいと思ったことから始まっています。毎回前に作ったものとは真逆のものを作りたいと思ってしまうんですよ。前作はDorianくんと二人でみっちり作ったので、次は曲ごとに違う人達と一緒にやりたいなと思っていたんです。

『CITY DIVE』(2012年)以降、綿密な脚本を書くようにコンセプトを決め込んで作ってきたんですけど、今回はあえて季節もシチュエーションも限定しないで、原点回帰的なものにしたいと考えていました」

 

自らのテーマともリンクしたワイルド・ナッシングとのコラボ曲

――各アーティストとの作業について伺わせてください。まず、ジャック・テイタム(ワイルド・ナッシング)が参加した“Like A First Kiss”ですが、一十三さんとインディーロック系のアーティストである彼の組み合わせは、個人的にも新鮮なものがありました。

「“Headlights On”っていう曲のMVで彼が車を運転していて、そのビジュアルも大好きでよく見ていたんです。それでこちらから声をかけたら、彼も私の音楽に興味を持ってくれていたみたいで。実際に曲を作ってもらうにあたっては、シティポップとか、彼が思う私のイメージに合わせ過ぎず、今のワイルド・ナッシングのサウンドを元に作ってほしいと伝えました。何個か上げてくれたデモの中でこれが第一候補だったので、即決でした」

――レトロに振れ過ぎず、絶妙な現代感があるサウンドですね。

「以前から私の大きなテーマとして〈エモーショナルなエスケーピズム〉というのがあるんですけど、そういう視点からもとても良いものができたと思っています」

――英語と日本語が入り混じる歌詞も印象的でした。むしろ、日本語の割合の方が少ないくらいで。

「彼が書いてくれた英語の歌詞に対して、私がところどころ日本語を入れていきました。最初から混ざり合ったものがいいと思っていたし、私自身、どちらか一方の言語だけで歌わなくちゃいけないとも考えていなかったので」