AFROJACK 『Forget The World』(1)
じゃあ、お前は覚えておけ。俺はもう忘れた??アフロジャックのダンス・ミュージックが降り注げば、その瞬間だけは、何も気にする必要はない。楽しすぎるピースフルな忘我の果てで、いま、踊れ!!!!!!!!
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- 2014.06.04

ヴォーカルがないのかよ!
アヴィーチーやゼッドらと共にダンス・ミュージック界をリードする新世代の一人、アフロジャックことニック・ヴァン・デ・ウォール。「めちゃくちゃ高いんだぜ(笑)、1時間30万円。40万かな。だから2時間30分乗ったら……約100万……マジか(笑)」というプライヴェート・ジェット=アフロジェットに乗り、世界中を飛び回る彼は、オランダ出身、身長2mを超す巨漢の26歳だ。
「11歳くらいからいろんな種類の音楽を作っていたんだ。で、14歳でそれがダンス・ミュージックだけになった。それから18歳でプロになったっていう流れだよ」。先述の2人やマデオン、マーティン・ギャリックスなど、EDMの最前線で輝きを放つプロデューサーたちと同様、早々と自身のやりたいことを見つけたアフロジャック。「オランダではもう20年もクラブ・カルチャーが存在してて、クラブに行くのがあたりまえなんだ」という環境を考えれば、自然の成り行きだったのかもしれない。とはいえ……。
「俺が始めた時期はまだ全然シーンは大きくなくて、誰もEDMの話なんてしてなかった。周りの人たちは皆、〈お前、これからどうするんだ?〉って訊いてきたよ(笑)。俺のお袋に〈息子さんはDJやってるらしいけど、進路はどうなさるの?〉なんて訊いたりして」。
彼が18歳でプロの世界に足を踏み入れた頃、まだ世界的なムーヴメントという意味での〈EDM〉はなかった。しかしエレクトロが猛威を振るい、ハウスやユーロ・トランスを吸収し、彼自身もミニマルやプログレッシヴな要素をエレクトロに持ち込んで、アフロジャック流のダーティー・ダッチを完成させてコアなクラバーたちを虜にし、EDMの芽を徐々に成長させていったのだ。そんな彼のキャリアを、そして音楽業界の勢力図を一変する契機となったのが、「彼との作業はメチャクチャ楽しい。俺にとって兄貴みたいな存在だからね」と慕うデヴィッド・ゲッタとの出会いだ。共同作業は、アフロジャックが機材のテクニカル面、デヴィッドがソングライティングや曲のプロデュース面で舵を取って弱点を補完し合い、さらに各々のノウハウを共有することでお互いを成長へと導いていく。
「デヴィッドはメインストリームで、俺はアンダーグラウンド。だから最初にやった時、彼の音を聴いて〈ダッセー!〉って思ったよ(笑)。でも彼は〈これがクールなんだ!〉って(笑)。その頃の俺には理解できなかったんだ。逆も同じ。俺のアンダーグラウンドなトラックを聴いて、〈ヴォーカルがないのかよ!〉って言われて(笑)。最初はおもしろかったね、二つの違うヴィジョンと世界観があって。でもそれが、グラミーを獲ったマドンナの“Revolver”とか、『Step Up 3D』のサントラとか……たくさんのことに繋がったんだよ」。
クールなものを作るのは簡単
開眼したソングライティングにフォーカスして以降、エヴァ・シモンズを迎えた自身の“Take Over Control”(2010年)を皮切りに、ピットブルの“Give Me Everything”、そしてゲッタの“Titanium”など、ヴォーカル・トラックでヒットを連発していく。並行して自身のレーベル=ウォールを設立、〈Electric Daisy Carnival〉〈Ultra Music Festival〉〈Tomorrwland〉といった大型フェスのメイン・アクトという大役も務めながら、昨年にメジャー契約を獲得。クリス・ブラウンを迎えた“As Your Friend”を早々にヒットさせた。そうして辿り着いた初のアルバム『Forget The World』は、世界中のファンが待ち望んだものだ。

AFROJACK Forget The World Universal Netherlands/ユニバーサル(2014)
「お決まりのアンダーグラウンドなEDMじゃなくて、全部のトラックが違っているけどそこに独特なシンクロニシティーが生まれるようにしたかったんだ」。
バンギンなヴォーカル・トラックを中心にトラップやポップなハウスなど、彼の歴史を垣間見られる多彩なスタイルが持ち込まれたアルバムでは、多幸感や親しみやすさに満たされた、現行シーンの空気を象徴する王道のEDMが味わえる。とはいえ、耳を奪うポップでアンセミックな彼のヴォーカル・トラックは、かつてダーティー・ダッチを主戦場にしてきた人の仕事とは思えない部分もあるのだが……。
「クールなものを作るのは簡単なんだ。でもそれを、皆が理解できるものにする必要がある。TVみたいなものさ」。
彼のそんな見解は、マシュー・コーマとのメランコリックな“Illuminate”や“Keep Our Love Alive”、スティング(!)をフィーチャーしたことで曲に深みが出た“Catch Tomorrow”、そして今年飛躍が期待されるシンガー・ソングライターのレイベルが歌うリード・シングル“Ten Feet Tall”(大名曲!)で如何なく表現されている。
彼がこうしたコマーシャルな方向へ進んだことを否定的に捉える人もいるかもしれないが、底なしのポジティヴさに包まれた『Forget The World』、そして純粋に〈音〉を楽しむ気持ちでEDMの世界に踏み出せば、いままで感じたことのないピースフルな一体感を得られるだろう。
「ラスヴェガスのフェスで32万人の観客が集まったけど、誰も死ななかったし、怪我もトラブルもなかった。32万人が集まってて、しかも皆お互いを知らないのに。普通他人同士でその状況になれば喧嘩が起こるはずだよ。でもダンス・ミュージックでは、皆がひとつの愛をシェアしてるんだ。他ではあまり見られないよね。それくらいコンパクトなカルチャーってこと。いっしょになってひとつのことにエキサイトする。その意味でEDMは〈狭い〉んだよ。本当にひとつのコミュニティーって感じなんだ」。
▼『Forget The World』に参加したアーティストの作品を一部紹介
左から、ネオン・トゥリーズのニュー・アルバム『Pop Psychology』(Mercury)、スティングの2013年作『The Last Ship』(Cherrytree/A&M)、ウィズ・カリファの2012年作『O.N.I.F.C.』(Rostrum/Atlantic)、サーティ・セカンズ・トゥ・マースの2013年作『Love, Lust, Faith & Dreams』(Virgin)、キーンの2012年作『Strangeland』(Island)、小室哲哉の2014年作『EDM TOKYO』(avex trax)
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