
かせきさいだぁとザ・なつやすみバンドがコラボ・シングル“Quiet School”を発表した。夏のある日、遠い記憶を辿っていくうちに迷い込んだ放課後の教室で両者が出会い、その場で軽音楽部を結成したという設定のもと制作された同曲は、ザ・なつやすみバンドらしいトロピカルで叙情的な旋律&演奏に、かせきのメロウなラップが乗った、ノスタルジックでエキゾなサマー・チューン。7インチ・シングルでのリリースとなるので、お気に入りのレコード・プレイヤーを取り出し、夏の終わりの寂寥感を味わうとともに、じっくりと〈あの頃〉の思い出に浸りたい。
今回Mikikiでは、本シングルのリリース元となるタワーレコードの行達也を進行役に、かせきとザ・なつやすみバンドのMC.sirafu(スティールパン、トランペット)&中川理沙(ヴォーカル、ピアノ)を迎えた鼎談を敢行。角打ちマニアとしての顔も持つMC.sirafuにとって馴染みの居酒屋、東京・上野萬屋酒舗を舞台に、ビール・グラスを片手に行われた。
両者のそもそもの出会いは2015年に鹿児島で行われたイヴェント〈ナマ・イキVOICEアートマーケット〉。初見こそじっくり会話を交わすことはなかったが、以降じわじわと親交を深めていった。この後のインタヴューにある通り、〈毎日が夏休みであれ!〉を信念に結成されたザ・なつやすみバンドにとって、95年の初作『かせきさいだぁ≡』に収録された代表曲“じゃっ夏なんで”をはじめとして、数々のナンバーで独自の情緒溢れる〈夏〉を表現し続けてきたかせきは〈夏界の大先輩〉とのことで、かねてより共演を熱望していたそう。そんな満を持してのコラボレーションとなった本作が出来上がるまでのストーリーを、たっぷり訊いた。
ちょっと違うベクトルのサマー・チューンにしたい
――“Quiet School”ですが、ちゃんとかせきさんのいいところとなつやすみ節がミックスされていますよね。
MC.sirafu「……いいの出来ましたよねえ」
かせき「うん、思ったよりいいの出来た(笑)」
MC.sirafu「サマー・チューンって近年ちょっと流行ってますけど、わりと初めの打ち合わせの段階で、かせきさんが〈最近よくあるようなのじゃない、ちょっと違うベクトルのサマー・チューンにしたい〉と言っていて」
かせき「言いました? そんな生意気なこと(笑)」
MC.sirafu「いわゆる〈今っぽい〉サマー・チューンを期待されがちだと思うんですけど、それには応えたくないというか……まあ、かせきさんは〈夏〉というジャンルでは大先輩ですから」
かせき「ああ、夏界での(笑)」
――TUBEの次くらいでしょうか(笑)?
MC.sirafu「自分でそういう自覚はあるんですか?」
かせき「そう言われ続けてるんだけど、自分ではそうかぁって感じかな」

――段々その気になって。
かせき「その気にはそんなになってないです(笑)。でも今回の僕のアルバム『ONIGIRI UNIVERSITY』ではそれに応えようかなって気持ちはちょっとありましたね。で、こっち(“Quiet School”)では思いきり裏切って(笑)」
MC.sirafu「アルバムのほうでもちょっと裏切ってる感じしますけどね」
かせき「普通にやると思いきり裏切っちゃうから、がんばって寄せました」
――『ONIGIRI UNIVERSITY』と、“Quiet School”の関連性は特になく?
かせき「制作時期がほぼ一緒で、アルバムを作り終わるくらいの頃に“Quiet School”に取り掛かったので、繋がっている感じはしてます。アルバムの最後の曲が出来るの遅かったから、その間にこっちを作って。本当はこの曲をアルバムにも入れてくれって言ってたんだけど、発売日とかの関係で断念して」
――え、アルバムに入る予定だったんですか?
かせき「はい。〈入れて〉って」
MC.sirafu「(笑)。オリジナル・アルバムの制作中に作った別の企画ものやシングルって、おもしろいものになったりしますよね」
“孫”か“マツケンサンバ”か“スシ食いねェ!”
かせき「それでどんな曲にしようって打ち合わせした時に話してたのは、〈エキゾチックに〉ということだったよね。エキゾチックで夏な感じの曲って意外とあまりないかなと。自分でも作りたくても作れないし、なつやすみバンドはsirafuくんがスティールパンも叩けるから」
MC.sirafu「あとは〈名曲(迷曲)にしよう〉とも言ってましたよね」
かせき「えっ、僕が?」
MC.sirafu「はい」
かせき「フフフ(笑)。図々しい。恥ずかしい(笑)」
MC.sirafu「〈例えば“マツケンサンバ”みたいなの〉って言ってましたね」
かせき「あ、そうそう。〈迷曲〉ね」
中川「かせきさん、“孫”とも言ってましたよ」
――ベクトルがよくわからない(笑)。
MC.sirafu「でもなつやすみバンドのベクトルはそっちなんですよ。“孫”と“マツケンサンバ”は僕らも大好きで、それをかせきさんが言いだした時にもう大丈夫だ!と思った(笑)」
一同「ハハハ(笑)」
かせき「“孫”か“マツケンサンバ”か、あと“スシ食いねェ!”。そういうのを作りたい。そういえば吉幾三さんの“俺ら東京さ行ぐだ”も冗談で作った曲で。千昌夫さんと吉幾三さんが呑んでて、酔っぱらって吉さんが歌ったのを聴いて千さんが〈それすぐ出せ〉って言ったらしいんですよ。めちゃくちゃ売れるぞって。それで出したら大ヒットした」
中川「へえ~いい話ですね。なんでそんな話知ってるんですか?」
かせき「吉幾三が好きだから(笑)。彼の姿勢が好きなんです。ある時TVでインタヴューされてるのを見たら、〈ホントはステージで歌うのは好きじゃない〉って言ってて。家にスタジオがあって、そこでちくちく曲を作ってレコーディングするのが好きなんだって。もうそれブライアン・ウィルソンじゃん。それを聞いてから、発言含めチェックするようになったね。〈ワークマン〉とかCMソングもよく作ってるけど、全部いい曲だから」
MC.sirafu「ラッパーとして影響受けてたりします?」

かせき「あ、そうかも(笑)。彼の姿勢とか、ラッパーとして尊敬してるのかも。一見ギャグっぽく見えるけどビートも効いてますよね。東北のほうの人だからなのか」
――でも確かに、あれだけマッシュアップされてる人も珍しいですよね。
かせき「たぶん100年後には偉人になってますよ。“Quiet School”の話に戻ると、自分のラップのパートは大体16小節くらいだろうと、家で寝転がりながら思ってたんですよ。それとサビをちょっと歌うくらいだろうなって。それで曲が届いて聴いてみたら」
MC.sirafu「〈ラップ多くないすか?〉って(笑)」
かせき「ちょ、ちょっと待って、って(笑)。紙に書き出して、ここのパートとここのパートとって数えていったら、もう何小節ラップするの?って(笑)。24、36小節くらい?」
――最初はそんなつもりじゃなかったと(笑)。中川さんは自分の歌うところでアイデアを出したりしたんですか?
中川「あんまり出してないですね。今回はsirafuさんがトラックを作ってくれて、ラップも結構直前までなかったんです。どうなるのかがホントにわからないくらいでレコーディングしたので、おもしろかったですね(笑)」

MC.sirafu「なつやすみバンドも一応仕事の分担があるんですよ」
中川「sirafuさんが作るときは私は間奏やCメロを担当することが多いです」
MC.sirafu「直近の仕事がNHKのもので、中川はそういうのが得意で。なので今回みたいにちょっと前のめりな、挑戦的な要素を僕が足す役を担うときもあります」
中川「そんな中でも一部のコード感とかはやってって言われて、調整したりはしますね」
★ザ・なつやすみバンドの2016年作『PHANTASIA』リリース時のインタヴュー
――ちなみにsirafuくんは最近サンプラーを買ったとのことで。“Quiet School”でもサンプリングを採り入れていますが。
MC.sirafu「はい。この歳でついにMPCを買ったんですよ」
かせき「へ~。僕、99~2000年あたりに、訴えられたら大変なことになるからサンプリングしないでくれって(スタッフに)言われて、何も作れなくなっちゃったことがあって。それで誰の曲だったらサンプリングしていいの?って訊いたら同じ事務所のキリンジしかいないと。キリンジだけをサンプリングして作るアルバムって頭おかしくない? それキリンジでしょ、もう(笑)」
一同「ハハハ(笑)」
かせき「それで作れない間、仕方ないからずっと絵を描いてたんですよ。どうしたらいいかねえ~って」
MC.sirafu「それで絵を描けるのがいいですよね」
かせき「もう必死。何がお金になるかなって(笑)。そしたらそのうちにバック・バンドをやりたいってハグトーンズのメンバーが言ってきて、これでやっとサンプリングしないで曲が作れるなと」
MC.sirafu「そのあたり、“Quiet School”ではわりとうまくやってますね(笑)。多くは語りませんが(笑)」
――サンプリングってすごくおもしろい文化だと思うんですけど、そういう著作権の問題が厳しいので、採り入れるのはなかなか気軽にはできないですよね。
かせき「そうですよね。僕がサンプリングをやめろと言われた当時、ツボイくん(illicit tsuboi)が〈今はもうヒップホップは金持ちにしかできない〉って言ってましたね。サンプリングする使用料を払えるお金持ちの、売れっ子のアーティストしかできない手法だと。じゃあできないじゃん!って」
――DJで曲を繋ぐ時のあの違和感というか、ああいうおもしろさって生演奏だけじゃできないですし。
かせき「ハグトーンズにも元ネタのこの曲にこの曲をくっつけてって頼んだりするんですけど、綺麗に繋ごうとすると〈綺麗に繋がないで〉って注文しますね。雑にぼこーんって変わっちゃっていいからと」
――『ONIGIRI UNIVERSITY』もサンプリング自体はしてないけど、そういうムードのあるアルバムだと思いました。
かせき「ああ、サンプリングかのような。確かに一曲にある元ネタの数はハンパないですね。何曲もぶちこんであって、それをバンドで全部演奏していますし」
中川「かせきさんの曲を聴くとアニメや映画を観ているような気分になるんですが、モチーフになったりするような好きなアニメってありますか?」
かせき「ほえ~、そんなイメージ持ってくれてるんですね~。アニメも映画も大好きだけど、詞や曲のモチーフにはなってないかもしれないですね、そういえば。実は現実の想い出そのままだったり、ちょっと変えたり、膨らませたりして書いてますね。物覚えは凄く悪いんだけど、ザラッとした瞬間とかフワッとした瞬間とかはずっと覚えてたりして。単純に好きなアニメだったら『超時空要塞マクロス』です」

負け組の夏もある
MC.sirafu「夏の話をしましょうか」
かせき「“Quiet School”の歌詞は舞台が夏の、学生時代の教室で。かなりノスタルジックですよね。49歳でこれはヤバイなと思いながら書いてたけど」
MC.sirafu「でもね、その時間を越えられるからいいんですよ」
かせき「そうね。タイムマシーンだからね、音楽は。いつの時代にも戻れる」
MC.sirafu「“じゃっ夏なんで”とか、かせきさんはやはり夏イメージが強いですけど、この季節がお好きなんですか」
かせき「夏はね、好きというかワードが多くてやりやすい」
一同「ハハハ(笑)」
――実務的な話だった(笑)。
かせき「あと期間が長い。だから冬もわりとやりやすいんだよね。春は桜にしちゃうと桜の時期だけになっちゃうし、難しいのよ。意外と寒いし。でもまぁ、なつやすみバンドこそ夏に関してはプロフェッショナルでしょ(笑)」

MC.sirafu「いえいえ。でもたぶん、TUBEのような暑苦しくない夏感を日本で最初に表現したのはかせきさんだと思うんですよ。はっぴいえんどはいるけど……90年代以降だと。最近かせきさんの作品を聴き返しながらそう思ってたんですよ」
かせき「あのね、負け組の夏もあるんですよ(笑)」
一同「ハハハ(笑)」
かせき「世の中ってすぐ勝ち組をみんな憧れるでしょ」
――例えば夏=パリピではなくて。
かせき「そうそう」
MC.sirafu「夏こそインドアなんですよ。かせきさんの歌詞もどちらかというと内向的ですけど、中川さんの夏感もまたそうなんです。帰宅部感というか、部活してるヤツらを眺めてるような」
かせき「今回の歌詞は帰宅部のヤツの歌詞ですもんね。〈みんなやってんなあ~〉って見てる感じ」
――そうですね。
MC.sirafu「でも、そういう夏休みのノスタルジー感って、僕は〈自殺したくなる感じ〉なんです。行ったら帰ってこれなくなるくらいの記憶のラビリンスというか。そういうのを出してるのってかせきさんと空気公団、あとちょっと僕らなのかなって。だからやっぱり少し似たものを感じていて。いわゆるハッピーな夏ではないんです」
――つらい過去が、とかいう話ではなく?
MC.sirafu「そうではなく。逆にどちらかというと今がつらくて、エスケープ感というか現実逃避するような感じなんですよ、なつやすみバンドの表現は。その感じを表現できている数少ないお方がかせきさんで。だから一緒にやりかったんです」
――そんなかせきさんはなつやすみバンドの音楽にどんな印象を持たれていますか?
かせき「……若い人もがんばってるなって思った」
一同「ハハハ(笑)」
かせき「負けられないなあって(笑)。色眼鏡じゃなくて、いつも上も下も同等に見てるんですよ。でも、負け組にだって夏があるでしょ。負け組というと言葉が悪いけど、勝ち組ってホント一部じゃないですか。人間の大半が、基本が負け組じゃないですか。そういう側にも楽しい夏はあるし。あのワーキャー言う感じじゃないところにも〈いいわ~〉っていうものはあるじゃないですか。扇風機の風が当たるだけで〈いいわ~〉ってなるじゃないですか(笑)。そういうのを描きたいというのは昔からあったかもしれない」
――そういう受け皿って、意外とないかもしれないですね。
かせき「僕、デビューのときから狙ってたんですよ、隙間産業。あそこの本棚あいてるな、あそこだったら入れさせてもらえるかなって」
――確かにかせきさんが出てこられたとき、かなり異質でしたもんね(笑)。でもその〈負け組の夏休み〉感というのは、すごく良いと思います。
かせき「映画にもなっていたけど、〈ビューティフル・ルーザーズ〉という言葉があって。でも、大半の人がビューティフル・ルーザーだと思ってるんですよね。僕も曲を書いている時はそうは思ってなかったけど、その考えは昔から根底にあったと思います」
MC.sirafu 「どちらかというと勝ち負け以前に、僕はそもそも民衆の視点というか。音楽は必ずしも舞台の上で鳴るものじゃなくて、客席でも鳴っている。見下ろす音楽ではなくて、あくまで対等に鳴り響く音楽、という意識があって。それと通ずる部分はある気がしています」
かせき「僕は最近は作曲もしますけど、やっぱりずっと詞の方をやっていたので、なんていうんですかね……まだ音楽で表現されてなかった感覚を再現したい。僕の曲を聴いた人が〈あ、あの感覚!〉ってなってほしいというか。必ずしも僕とまったく同じじゃなくていいんだけど、一人一人が〈あ、あの感覚!〉ってなるように、余白を残しつつ形にしたいと思ってやっていますね」
――なるほど。また、かせきさんは、国内の音楽シーンにおいてロック・バンドとヒップホップの架け橋となる音楽性の先駆けとも言えると思うんですが、ザ・なつやすみバンドもヒップホップ的なアプローチは以前からされていましたし、sirafuくんは今回新たにサンプラーを導入したりしていて。中川さんはこうやってsirafuくんが気まぐれにいろんな要素をバンドに持ち込んでくることをどう思っていますか?
かせき「sirafuくんって後から加入してきたんでしょ? こんなに引っ掻き回していいの(笑)」
中川「それがおもしろくなるんだったらいいです。さっきも話していたように、私だけだと全部NHKっぽくなっちゃうので(笑)」
かせき「音楽には〈毒〉が必要だからね」
中川「そうですね」
MC.sirafu「でも、中川の作るものって実は結構毒々しかったりもするんですよ。なので僕はそこも引き出せるようにしていますね」
中川「あまり表に出せないタイプだから、こうやっていろいろ言ってくれる人がいてくれると丁度いいんです」
かせき「バンド内プロデューサーみたいですね」
中川「私もどんどん新しいことをやっていきたいと思ってますね」
――例えば空気公団も、一見そう見えないけど、新しいことしたがるバンドだもんね。そういえば中川さんと(山崎)ゆかりさんはタイプが似てますよね。
中川「あ、似てるところがあると思います」
MC.sirafu「来年の夏に、空気公団とかせきさんとなつやすみバンドでイヴェントをやりたいですね。〈死にたくなる夏〉っていう名前で」
かせき「(笑)。先の話で忘れちゃいそうだなあ」
――今回はレコーディングも和やかに行われたと聞きました。その雰囲気で次はミニ・アルバムを期待しています。
かせき「ミニ・アルバムくらいの規模で作りたいよね。むちゃくちゃなやつ。もう曲の最後全部爆発音とかで終わるぐらいの」
一同「ハハハ(笑)」
MC.sirafu「それくらいめちゃくちゃなね」
かせき「マーティン・デニーの曲で蚊が終始プーーーンって鳴いている曲※があって。でもすごいカッコイイんです。すっごいエキゾチックで、虫も飛んでるから腹も立つんだけど(笑)、メロディーはめちゃ良くて。こんなんで曲になるんだ!と思いましたね」
※マーティン・デニーの59年作『Afro-Desia』収録曲“Tease Fly”
MC.sirafu「無論、“Quiet School”はマーティン・デニーからきているんです。最高なタイトルですよね。でも、かせきさんが言うような、そんな曲作りたいっすね。これを聴いて死ねってくらいの」
Live Information
かせきさいだぁ
2017年10月20日(金)〈ONIGIRI超祭り 2017〉
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ザ・なつやすみバンド
2017年9月17日(日)〈New Acoustic Camp 2017〉
2017年9月23日(土)〈りんご音楽祭2017〉
2017年10月7日(土)〈第3回南郷うた*たねフェス〉
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