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〈リアリティー〉の部分を大事にしたかった

――あともうひとつこの本の肝は、さまざまな世代/立場にある韓国のアーティスト4名と長谷川さんの対談だと思います。バンドメイトのチャン・ギハさんと、70年代に活動したR&Bバンドのデヴィルスを率いたキム・ミョンギル先生、そしてシン・ジュンヒョン先生のご子息で自身も音楽活動をされているシン・ユンチョルさん、最後はヒップホップDJ/プロデューサーのDJ SOULSCAPEさん――この方々を選んだ理由は?

デヴィルスの77年作『デヴィルス 3集』収録曲〈愛の虹〉

長谷川「この本は韓国インディー・シーンの内側にいる人間だからこそ言えることを大石さんが引き出してくれたもので、つまり〈こうではないか〉という憶測が一個もないわけですよね。そういうのと同じで、シン・ユンチョルさんはシン先生の息子さんですから、シン先生について〈こうではないか〉というのはないですし、デヴィルスのキム・ミョンギル先生も〈昔はこうだったのかな?〉というのではなくて実際にそれを見てきた人だし、ギハはいま韓国でバンドをやっている張本人だし、SOULSCAPEは僕と同じでサヌリムだけでなくその横にあるケニー・ロギンスも掘るような音楽マニアでかつ、自身でも音楽を発信する立場にもあるわけで、評論ではなくそういった〈リアリティー〉の部分を大事にしたいなと」

DJ SOULSCAPEの2007年のミックスCD『The Sound Of Seoul』

――韓国の音楽シーンを取り巻くさまざまな立場の〈当事者〉が語ることで、さらに深い部分で大韓ロックを知ることができるというおもしろさもあります。もっと言うと、大韓ロックのレジェンドとの共演歴がある、いわば過去と現在を繋ぐ存在で、また日本人であるというさらなるフィルターを通して大韓ロックを見ている長谷川さんとの対談、という点でもおもしろいですよね。

長谷川「僕の訊き方は独特だと思うんですよ。韓国の方が昔の音楽に思うことは突っ込み方が同じだと思うんです。だけどちょっと外側から違う角度の突っ込み方をしていたんではないかと。これまでインタヴューで訊かれたことのないようなことを訊いたんじゃないかな」

大石「その取材は、長谷川さんと対談相手の方にバーッと話していただいて、それはもちろん韓国語で話されているので僕はひとつもわからないから、あとでそのテープを翻訳の方に日本語で起こしていただいて……という作業だったんです。シン・ユンチョルさんとの場合は昼間だったからか、お2人ともわりとテンション低めにボソボソ話していて、全然盛り上がってないけど大丈夫かなと正直思ってたんですよ(笑)。でも起こしてもらったのを読んだら、笑える話も泣ける話もあって、こんな話をよく2人は冷静に喋ってたなと思って(笑)」

シン・ユンチョルの2011年のEP『Shin Yoon Chul』収録曲“Anyone”

――長谷川さんもびっくり!なエピソードがね(笑)。さて、そろそろ締めに入りたいのですが、個人的に「大韓ロック探訪記」は目から鱗なことばかりで本当に楽しませていただいたし、韓国の土着性みたいなものが滲み出ている大韓ロックの魅力にちょっとハマりそうです。

大石「自分の知らない韓国が大韓ロックに詰まってる気がする。K-Popは僕も好きなものはあるしカッコイイんだけど、ある意味僕の知ってる韓国ではあるんですよね。でも大韓ロックはまったく別物なので、聴けば聴くほど〈こんな世界があったのか〉と感じます」

長谷川陽平, 大石始 『大韓ロック探訪記』 DU BOOKS(2014)

長谷川「僕自身の体験はごくあたりまえのことだったので、本当にこんな話おもしろいのかな~というのが作っているときからあって……」

大石「それを〈おもしろい、おもしろい!〉って言いながら話してもらって(笑)」

長谷川「(笑)。大石さんが上手く僕の話を引き出してくれて、こういう形になったので本当にありがたいです。この本に出てくることはまったく脚色がない。大韓ロックを語るのは俺しかいないとはまったく思っていませんが、大韓ロック/韓国のインディー・ロックを語るうえで、自分が何をやってきたのかというのを示す印籠になるものが出来て良かったなと。誰かが韓国の音楽を語って、例えば〈それは違う〉と言いたい時に、ただ違うと言うだけじゃなくて、〈この本を読めばわかる〉と言えるものがね」