〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉での‎戴曉君(Sauljaljui)

〈World Music Festival @ Taiwan〉が2022年も10月14日(金)~10月16日(日)に開催され、ここ日本ではYouTubeの配信で観ることもできる。〈World Music Festival @ Taiwan〉は、Wind Music=風潮音樂が運営するフェスティバルだ。台湾の原住民音楽や文化を88年から発信してきた老舗レーベルであり、マネージメントなども行うWind Musicが、同地の文化の奥深さや音楽シーンの豊かさ、それだけでなく現在進行形の有り様も提示し、オーディエンスが体験できる画期的な催しになっている。今回は開催に向けて、文筆家の大石始が、台湾の音楽に感じることや各地の〈ワールドミュージック〉の諸相、そして同フェスについて綴った。 *Mikiki編集部


 

台湾原住民のステレオタイプを覆す現代的感覚

約10年ほど前に台湾を訪れた際、台湾東部の台東市に足を伸ばしたことがある。台湾でも東部は先住民族にルーツを持つ人々が数多く住むエリア。彼らは現地で〈原住民〉と呼ばれていて、アミ族やパイワン族、タイヤル族、ブヌン族など16の民族が政府に認定されている(その他にも複数の民族が存在する)。

台東は東海岸における原住民文化の中心地のひとつで、街中を散策しているとすぐに現代の原住民文化に触れることができる。そうやって街中をぷらつくなかで見つけたのが、鐵花村というライブスペースだった。そこでは連日連夜、原住民を中心とするシンガーやミュージシャンがパフォーマンスを繰り広げており、僕は台東滞在中、鐵花村に通い詰めることとなった。

鐵花村
写真提供:Allen Chao

台湾の先住民シンガーソングライター、JiaJia(家家)の鐵花村での2022年のライブ動画

台湾原住民音楽というとよくも悪くもアイコンとなってきたのが、エニグマの“Return To Innocence”(93年)でサンプリングされたアミ族の歌い手、ディファン(漢名は郭英男)の歌声だ。そこでサンプリングされた“老人飲酒歌”はもともとアミ族の収穫祭の歌だそうだが、“Return To Innocence”というタイトルが象徴しているように、エニグマのバージョンには無垢でスピリチュアルなアジアのイメージが重ね合わされている。エキゾチシズムをくすぐるために民族的記号が利用されているともいえるだろうか。

エニグマの93年作『The Cross Of Changes』収録曲“Return To Innocence”

だが、鐵花村でパフォーマンスを繰り広げていたのは、ハワイにも似たゆるやかな台東の風土が影響しているのか、ジャック・ジョンソン的な海洋性フォークを演奏するシンガーが中心。観光客向けに民族テイストを過剰に押し出すわけでもなく、等身大の原住民ポップスを奏でていたのだ。そのとき僕のなかの台湾原住民音楽のイメージは大きく塗り替えられてしまった。

後述するように、現在の台湾原住民音楽は、その頃よりもさらに多様化している。海外にターゲットを絞ったエキゾチックな民族音楽作品ばかりでなく、原住民文化を現代的感覚から再解釈したもの、あるいは原住民にルーツを持つ人々の日常感覚をもとに新たなる台湾アイデンティティーを打ち出したものが増えている。

台湾原住民音楽に見られるそうした傾向は、世界同時多発的に起きているものともいえる。たとえば、アマピアノやゴム、シンゲリといったアフリカ産の現行エレクトロニックミュージックでは、〈アフリカ性〉なるものが現代的感覚から再解釈・再構築されている。民族的記号はそこでは慎重に扱われていていて、みずからの感覚のもと換骨奪胎されることもある。〈ポストワールドミュージック的〉ともいえるそうした傾向は、台湾原住民音楽の世界でも見られるものだ。

 

原住民音楽とR&Bを行き来するABAO(阿爆)

台湾原住民音楽の現状については、Mikikiで関俊行さんが続けてきた連載〈台湾洋行〉が詳しい。なかでもパイワン族出身のシンガー、ABAO(阿爆)について触れた回では80年代以降の状況の変化にも触れられているので、最初に読むには最適だろう。

ABAOは2003年にボーカルユニット、阿爆&Brandyとしてデビュー。一時の活動休止を経て、2014年には母・祖母と共にパイワンの古いバラードの保存を目的とするアルバム『東排三聲代』をリリースする。その後は『vavayan. 女人』(2016年)や『kinakaian 母親的舌頭』(2019年)といったアルバムでR&B色を強めた歌世界を展開してきた。

ABAO(阿爆)の2014年作『東排三聲代』収録曲“訂婚曲”

ABAO(阿爆)の2016年作『vavayan. 女人』収録曲“izuwa 有”

ABAO(阿爆)の2019年作『kinakaian 母親的舌頭』収録曲“Thank You 感謝”

あくまでも原住民音楽の様式が土台にある『東排三聲代』と、R&Bを織り込んだ現代ポップスの様式に原住民文化の要素を散りばめた『vavayan. 女人』や『kinakaian 母親的舌頭』。そもそもプロジェクトのテーマそのものが異なるわけだが、両者の作品のカラーはかなり異なっている。ここには民族的記号をどのように扱い、どのように現代の音楽様式に落とし込んでいくかという問題意識が反映されている。

ABAOは原住民文化の記録や若手アーティストのサポートを目的とする組織〈Nanguaq(那屋瓦)〉を設立しており、この組織は新たな文化発信源ともなっているという。そこには民族衣装を着て民謡を歌うシンガーもいれば、現代的なエレクトロニックポップを奏でるアーティストもいて、従来のワールドミュージックに留まらない台湾原住民音楽の広がりを実感させられる。

 

原住民音楽の広がりを象徴するYELLOWと漂流出口

そうした広がりはさまざまなアーティストから見ることができる。現行R&Bのフィーリングを打ち出し、台湾音楽界を席巻するバンド、YELLOWの黄宣は原住民をルーツに持つが、彼の音楽自体に原住民音楽色は皆無といっていい。Taiwan Beatsに掲載された関谷元子さんの取材記事では家庭内で伝統文化の影響をまったく受けなかったこと、さらには原住民に対する帰属意識をほとんど持っていないことも明かしている。ただし、本人は「この文化の疎外感があるからこそ、成長するうちに無意識にその根源を辿ろうとして、作品に原住民の伝統的古調のハーモニーを入れてみたんです」とも話している。彼なりのやり方で自身の〈伝統〉にアプローチしているわけだ。

YELLOWの2020年のEP『kinakaian 母親的舌頭』収録曲“羊皮先生 Mr. Sheepskin”

〈民謡実験ロックバンド〉を自称する漂流出口は、メンバー全員が台東のアミ族。歌詞や衣装には確かに民族的なエッセンスが取り入れられているが、奏でるのはサイケデリックでヘビーなインディーロック。彼らの演奏風景を見ていると、10年前に台東の鐵花村でゆったりとしたサーフロックを演奏していたシンガーソングライターたちを連想してしまう(実際、漂流出口も鐵花村でたびたびライブを行なっているようだ)。

漂流出口の2015年作『Drowning 逆游』収録曲“Tooth In Plastic Bag 塑膠袋裡的牙齒”

YELLOWや漂流出口は海外に住む私たちのエキゾチシズムをくすぐるような原住民音楽を演奏しているわけではない。ただし、原住民音楽の広がりと現状を象徴するアーティストであることは間違いない。

 

〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉での泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)

アンビエントから伝統歌、児童音楽までをカバーするWind Music

話は少し脱線するが、個人的に最近よく聴いている作品がある。吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の『萬籟的絮語(Nature’s Whispering)』という作品だ。本作ではフィールドレコーディング音源を織り交ぜたニューエイジ~アンビエント的な音世界が広がっていて、プユマ族の陳建年や台湾の室内楽アンサンブル、シカーダ(Cicada)も参加している。これまた関さんが吳金黛にインタビューを試みており、僕はこの記事でようやく彼女が何者か把握することができた。

吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の2021年作『萬籟的絮語(Nature’s Whispering)』収録曲“洋流裡的飛翔 Flying In The Current (feat. Cicada)”

吳金黛は多数の台湾原住民音楽作品をリリースしてきたレーベル、Wind Music(風潮音樂)の作品に90年代から関わってきた音楽プロデューサー/作曲家で、民族音楽学者の吳榮順(Wu Rong-shun)のレコーディングアシスタントも務めてきたという人物。虫や動物の鳴き声などの自然音を取り入れた作品作りでも知られ、99年には『森林狂想曲』というアンビエントポップの傑作も作り上げている。

吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の99年作『森林狂想曲』収録曲“森林狂想曲”

吳金黛はパイワン族の子供たちによる合唱団、泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)もプロデュースしており、今年に入ってからはWind Musicより新作も発表している。

泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)の2021年作『誰在vuvu家唱歌』収録曲“蝴蝶飛啊飛(Flight Of The Butterfly)”

ニューエイジ~アンビエントテイストの台湾原住民音楽はそれこそ“Return To Innocence”の時代から星の数ほど発表されてきたわけだが、Wind Musicはそのなかでも良質な作品制作を続けてきた。同レーベルから発売された原住民の伝統歌を部族ごとに記録した音源集『台灣原住民音樂紀實』は台湾原住民音楽の金字塔ともいうべき作品だが(その一部はサブスクでも聴くことができる)、音楽作品として楽しめるだけでなく、民俗資料としての価値を持っていることは言うまでもない。そして、吳金黛はこのシリーズにも関わっているという。

92年のコンピレーションアルバム『布農族之歌 - 台灣原住民音樂紀實1』収録曲“誇功宴”

 

〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉

原住民音楽をはじめ世界の音楽家が集結するWorld Music Festival @ Taiwan

このWind Musicがキュレーションするフェスティバルが今年も10月14日から16日にかけて台北で開催される。その名も〈World Music Festival @ Taiwan〉。そのバックボーンについては2021年11月に公開されたMikikiの記事〈「World Music Festival @ Taiwan 2021」が示した台湾音楽の伝統と新たな形〉で細かく解説されているので、詳しくはそちらをお読みいただきたい。

コロナ禍の現在、日本人観光客はなかなか気軽に現地を訪れることはできないが、ありがたいことに昨年に続いてライブの模様が配信されるらしい。本年度も台湾内外から23組のアーティストが出演すると発表されている。その一部を駆け足でご紹介しておこう。

Wind Musicがキュレーションするだけあって、台湾原住民音楽のトップランナーがラインナップされているのがこのフェスの特徴だ。昨年リリースされた最新作『Longing』が素晴らしかったアミ族出身のシンガーソングライター、イリー・カオルー(Ilid Kaolo/以莉高露)。小池龍平が編曲を担当した同作では深い味わいのアコースティックポップを展開していたが、そこには台湾原住民の神話がモチーフになっているなど、彼女しか歌えない歌世界が広がっている。緩やかな海洋性ポップスを聴かせるシンガーソングライター、陳建年も原住民音楽を代表するアーティストのひとりである。

イリー・カオルーの2021年作『尋找你』収録曲“17歲的你”

原住民音楽以外のラインナップも充実している。今や台湾でもっとも有名な日本人ミュージシャン集団であり、客家フォーク歌手の林生祥のバックを務める東京中央線。クラリネットやバスクラリネットを従えて客家語で淡くジャジーな歌を聴かせる春麵樂隊(ChuNoodle)。個性豊かな台湾勢に加え、エストニアのフォークデュオであるプーループ(Puuluup)など、国外からもさまざまなアーティストが出演を果たす。

東京中央線の2021年のライブ動画

春麵樂隊(ChuNoodle)の2021年のライブ動画

プーループの2022年のライブ動画

〈World Music Festival @ Taiwan〉は台湾原住民音楽の最先端を示すものであると同時に、共通するスタンスや視点を持つ国外アーティストを台湾の人々に向けて紹介するというテーマを掲げている。パンデミックによって国を超えた交流はリモートに頼らざるを得ない状況ではあるものの、フェスのような場は交流の貴重な機会である。ここから新たなコラボレーションが生まれることを期待したい。

〈2022 World Music Festival @ Taiwan〉トレーラー

 

〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉

台湾人というアイデンティティーに正直でいたい。全てはシンプルに楽しいからやっている

最後に関さんの連載で取り上げられている百合花(Lilium)のメンバー、リン・イーシュオ(林奕碩)の発言を引用したい。今年の〈World Music Festival @ Taiwan〉にも出演する百合花は、北菅(ベイグァン)や南管(ナングァン)といった台湾の伝統音楽に取り組むバンド。メンバーは原住民ではないものの、伝統音楽に対する彼らのアプローチには原住民音楽の担い手たちとも通じるものがあるはずだ。

「(台湾の伝統的な音楽文化を)守っていこうとか、何かミッションのように捉えたりしているわけでない。僕は洋楽にも大きな影響を受けていると同時に、台湾人でもある。そういう自分のアイデンティティーに正直でいたいし、それらを織り交ぜることは僕にとってとても自然なことなんだ。

〈伝統をアップデートする〉なんていう表現もたまにあるけど、これも言い方に気を付ける必要がある。伝統音楽が〈良くない〉から〈良くしよう〉なんていう気持ちでやっているわけではないからね。全てはシンプルに楽しいからやっている。まずそれが大前提だよ」。

 


LIVE INFORMATION
2022 World Music Festival @ Taiwan

2022年10月14日(金)~10月16日(日)台湾・台北 大佳河濱公園8~9號水門
出演:Alena Murang(馬來西亞)/Caiti Baker(澳洲、紐西蘭)/Puuluup(愛沙尼亞)/菲律賓樂舞 by Talahib People’s Music(菲律賓)/Hey String(韓國)/東京中央線 feat. 明馬丁(日本、阿根廷)/黃珮舒 × 台北愛樂室內合唱團 Taipei Philharmonic Chamber Choir/落日瑜珈 × YK band - YK樂團/金音仨- 吳政君 × 陳思銘 × 若池敏弘/傳奇雙擊 - 黃瑞豐 × 吳政君/音舞共生 - 琴人樂坊 Musicians’ House × OVER the TOP/以莉. 高露 Ilid Kaolo/舞思愛 Usay Kawlu/舞思愛/陳建年 Paudull/蘇珮卿 Paige Su + TFM/百合花/魏廣晧 Stacey Wei/葉穎 Leaf Yeh/春麵樂隊 Chu Noodle/畫像五重奏 川樂團/MyMusic Live Podcast《萬秀孫代客洗衣》萬秀洗衣店 Want Show Laundry
配信URL:https://www.youtube.com/c/WMFtaiwan ※一部、配信されないアーティストもいます

〈2022 World Music Festival @ Taiwan〉タイムスケジュール

※タイムスケジュールは台湾時間です。日本時間は+1時間です
※配信で視聴可能なプログラムは赤丸で印を付けています

〈World Music Festival @ Taiwan〉は、台湾の音楽を世界へ発信し、世界のさまざまな民族音楽を台湾に紹介することを目的とした、台湾で最大の野外ワールドミュージックイベントです。台湾の文化部(台湾の文化芸術における最高行政機関)で、映画・ラジオ・TV・ポピュラーミュージックの発展に寄与する〈影視及流行音楽産業局〉が後援し、Wind Musicによってオーガナイズされています。
https://wmftaiwan.com/

 


PROFILE: Wind Music(風潮音樂)
Wind Musicは88年の創業以来、人々の生活と精神性の向上を目指し、音楽を中心とする多彩なサービスを提供してきました。民族音楽・伝統音楽やニューエイジミュージック、児童音楽を中心に、ローカルな視点で上質な音楽を世界発信し、これまでに金曲奨で74回の受賞、グラミー賞で6回のノミネートを果たしてしています。台湾の音楽を世界中にプロモーションすると同時に、海外の音楽を台湾に紹介する活動も行っています。〈Wind Music, Touch The World〉をビジョンとして掲げ、〈人間性・融合・革新〉という3つのコアバリューを大切にしながら、音楽レーベルやアーティストマネージメント、フェスの運営など幅広く事業を展開しています。