Photo by Tsuneo Koga

 

自分を超えていく ~未来のキューバ音楽を奏でるピアニスト~

 四年ぶりのリーダー・アルバム『ABUC』を発売し9月半ばブルーノート公演で来日したキューバ人ピアニスト、ロベルト・フォンセカ氏に話をうかがった。

ROBERTO FONSECA ABUC Impulse!(2016)

 「アルバムタイトルは、キューバのアルファベットを逆さまに書いて〈アブック〉と読む。キューバ音楽の歴史を振返る意図を込めていて、ただ、以前からみんなに親しまれてきた曲を選んだとしても、そこに今の僕の音楽性を常に反映させているよ。前作『YO(ジョ=僕というスペイン語)』はお蔭様でかなりの成果(2016年ベスト・ラテンジャズ・アルバム・ノミネート)を挙げたのだけれど、だからこそ今回の作品でそれを超えるにはどうしたらよいか、2年かけてスタッフと一緒によく考えたんだ。楽曲選び、メンバーやゲストアーティストを誰にするのか。例えばトローバをはじめトラディショナルなキューバ音楽といえばオリエンテ(キューバの東部地方)サンティアゴ・デ・クーバ(旧都そしてハバナに次いで第二の主要都市)だから、エリアデス・オチョア氏(ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのギタリスト&ヴォーカリスト)をゲスト・ヴォーカルに招くという風にね。状況は(レコーディングスタジオが何箇所かに分かれた事やその都度機材や楽器が変わった事については)さほど問題なくて、自分の中から生まれる音楽はどこにいようと、どんな楽器を使おうと変わりはない。このアルバムを聴くと、古きよきキューバ音楽が当時どんな風に鳴っていたか、どんなスタイルで演奏されていたかを感じてもらえると思う。一方で、それらに僕の今感じている音楽を加えて、『ABUC』でしか聴けないサウンドが仕上がったから、僕(の音楽)を通してキューバを感じてもらえれば嬉しいし、ライヴでは(音楽は)自然と変わってくるのでCDとステージでの全ての違いを楽しんで欲しい。もう一つ、このアルバムは僕自身の個人的な想いもこもっていて、家族も大切なテーマにしている」

 スペインとアフリカに影響を受けるキューバのリズムや音楽; ダンソン、マンボ、チャチャチャ、コンガ(オリエンテ=キューバ東部地方のカーニバル音楽)、アフロ・キューバンも含め、ポピュラーなキューバ音楽に加えてジャズやラップほか、さまざまな音楽要素をロベルト・フォンセカ氏のスタイルで表現すること。そのこだわりは今もなお彼の音楽を日々進化させている。キューバに生まれ、愛されてきたリズムや音楽を振り返ると同時に、ロベルト氏の感性から生まれる現代的な音作りは、聴く人をワクワクさせる。各曲アレンジにぴたりと合った豪華ゲスト陣の歌声や、ソロ演奏を楽しめるのも今作ならでは聴きどころだ。