Photo: Shintaro  Shiratori

 

〈月〉の多面性をコンセプトにした意欲作

 ヴァイオリンが幽玄に響く《月のワルツ》から新作『LUNA』は始まり、月を巡る旅へと誘われる。

 「月って光の当たり具合で色も形も変化しますよね。清純な白の月も、妖しく謎めいている赤っぽい月もあって。最初から月をコンセプトにしたわけではなくて、途中で多彩な楽曲を含む今回の音楽を貫くテーマは、月ではと思い、タイトルも『LUNA』にしました」

川井郁子 LUNA Sony Music Labels(2017)

 その多彩な楽曲をイメージごとにまとめ、〈赤い月〉、〈真白の月〉、〈群青の月〉と3部編成になっていて、オリジナル楽曲に加えて、クラシックの名曲を独創性あふれるアレンジで演奏している。なかでも和楽器と共演している《展覧会の絵~日本の情景~》が斬新だ。

 「以前から《展覧会の絵》は、和っぽいメロディだと感じていたので、この曲で日本を旅することは出来ないだろうかと思って。信頼する吉井盛悟さんに相談するなかで、子守唄から始まり、祭りのお囃子、大漁節、沖縄の三線へと続き、太鼓のソロを挟んで、チベット密教風のお経へつなぎ、最後に雅楽、また子守唄で終わるというアレンジになりました」

 それら和のリズムや楽器とヴァイオリンの共演がオリエンタルなのだが、無国籍風のミステリアス感があって、川井郁子の世界観にどんどん引き込まれていく。和楽器との共演は、デビュー時より積極的に取り組んでいることだが、その背景にある人の影響がある。

 「私が自分で作曲しようと思ったきっかけでもあるのですが、ピアソラは、クラシックやジャズなどいろいろなジャンルを取り入れながらも、アルゼンチン・タンゴのアイデンティティを明確に打ち出して音楽を作っていますよね。ピアソラのその部分に惹かれたので、私も日本人のアイデンティティを大事にしたいと思い、和の楽器をふんだんに取り入れています」

 全17曲のうち《恋のアランフェス~レッド・ヴァイオリン「アメノウズメ」編~》《ホワイトレジェンド「復活」》《さくら》など、かつてレコーディングした曲がアレンジ、タイトルを変えて再演奏されている。

 「クラシックの名曲には圧倒的なメロディの力があって、そのメロディはアレンジ次第でいろいろな輝きを放つことが出来るんですね。私は自分にしか出来ない世界観を作るために、常に曲への新たなアプローチを大切にしていて、そのアプローチ、アレンジがひらめいた曲をまた演奏したいと思うんですね。だから、《さくら》にしても新しいイメージの曲になっています」

 他にインド人歌手が参加した曲もあり、共演者と起こす化学反応がヴァイオリンの音色を多彩に輝かせている。その探訪がまた楽しい。7年ぶりの新作『LUNA』は、聴くたびに新たな発見に遭遇できる作品だ。

 


LIVE INFORMATION

川井郁子コンサートツアー2018 LUNA~千年恋がたり~
○2018/1/13(土) 15:00開演 名古屋 扶桑文化会館
○2018/1/27(土) 14:00開演 和歌山 紀南文化会館
○2018/1/28(日) 15:00開演 北九州 黒崎ひびしんホール
○2018/2/12(月・祝) 15:00開演 大阪 ザ・シンフォニーホール
○2018/2/18(日) 13:30開演 札幌 札幌コンサートホールKitara大ホール
○2018/2/23(金) 19:00開演 東京 Bunkamuraオーチャードホール
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