ベトナム戦争終結を目前にする1973年1月19日、雨のワシントン大聖堂。バーンスタインは有志と平和のためのコンサートを開き、会場には収まりきらないほどの聴衆がつめかけた。かの手塚治虫が翌年に『雨のコンダクター』という短編で描いたことで名高い。その翌日にセッション録音された当演奏も熱気と意志が凝集された独特なテンションで記録されている。4チャンネルで収録された音源を英ダットンがSACDマルチで堪能させてくれる当盤は絶対に聴き逃せない。高鳴る心持ちを注意深く抑制するようにラルゴで始まる冒頭のキリエ。抑えきれずにはじける音楽的高揚をバーンスタインはまるで自らの人間力そのもので格調高く統御していく。