快進撃つづく! バッティストーニ&東フィルの「春の祭典」
快進撃と言うとなんだか野球みたいだけれども、バッティストーニと東京フィルの演奏会、録音の数々はまさに快進撃としか言いようがない。その最新盤は、2016年5月の定期演奏会で披露したストラヴィンスキー《春の祭典》と、バーンスタインの『ウエスト・サイド物語』より《シンフォニック・ダンス》(2014年のライヴ)のカップリングだ。
聴衆を驚かせたその《春の祭典》。この曲をよく聴き込んでいる人ほど、冒頭から驚くだろう。ゆったりと歌われる冒頭のファゴットのメロディ。そして様々な楽器がそこに加わり、次第に「春」が大地から目覚めて来る、そんな感じだ。深くまでスコアを読み込み、またそれぞれの楽器の特性をよく理解して、その限界に挑戦するように、バッティストーニはオーケストラをリードして行く。舞踏のために書かれた、ということをまず抜きにして、まさに楽譜から読み込める情報をすべて演奏に詰め込む、そんな解釈である。そして、それを実践してしまうところが、まさに、このコンビの現在の快進撃の由来だろう。正直、録音でもこの最初の部分で食いついてしまう自分がいた。
全体のペースは、だからゆっくり目だが、しかし、だれるということもない。ダンスに置き換えて考えてみると、テンポが速く、素早く場面が切り替わる振付ではなく、もっと重心の低い、そしてダイナミズムを感じさせる振付だろう。この重心の低さこそ、バッティストーニの音楽作りの核心かもしれないと思う。
オーケストラに関しても、個々の管楽器、そして弦楽器セクションも、このバッティストーニの厳しい要求に対して、まったく怖じけること無く付いて行く。その積極性が素晴らしい。
バッティストーニのこうした解釈、そして指揮ぶりの基本はどこから来ているのか? そう何度も自問しながら、この演奏を聴いた。そして結局はスコアの読みという解決しかないのかと思った。もちろん、ただ読むのではなく、部分と全体、そしてひとつの音と全体の音というような相互関連性の中でスコアを読んで行く、その力にあると思う。だから、スコアを持っている方はぜひスコアを片手に、この演奏を聴かれると良いと思う。
前例とか、以前の指揮者の解釈とか、様々なオーケストラの条件とか、指揮には常に難しい部分がつきまとうものだが、そういうものを知りつつも「無視」してしまえるだけの力が、バッティストーニには備わっているのだろう。それは、優れた音楽家のひとつの条件であるとも思う。このコンビの演奏を今、同時代に聴ける幸福を、私たちは味わうべきなのである。
LIVE INFORMATION
東京フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会
○2018年3/7(水)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
○2018年3/9(金)19:00開演 サントリーホール 大ホール
○2018年3/11(日)19:00開演 Bunkamuraオーチャードホール
アンドレア・バッティストーニ(指揮)小曽根 真(p)
曲目:グルダ:コンチェルト・フォー・マイセルフ
ラフマニノフ:交響曲第2番
www.tpo.or.jp/