繊細かつエモーショナルな歌声がCM音楽などで話題を呼んでいる現在24歳のシンガー・ソングライター、高井息吹がセカンド・アルバム『世界の秘密』を発表した。安堵感と昂揚感が入り混じる彼女の世界観の原点は、教会にあったオルガンだという。
「母もおじいちゃんもオルガンを弾いていたので、私も小さい頃は〈オルガニストになりたい〉って言っていたみたいです。幼稚園もキリスト教系で、2週間に1回礼拝があったんですけど、入退場のときにオルガンで弾かれてたのがベートーヴェンの〈悲愴〉の第二楽章で、あの曲を聴くと〈音楽のなかにいる〉っていう安堵感を感じたんです」。
5歳からクラシック・ピアノを習い、中学では吹奏楽部、高校では軽音楽部を経験し、音楽大学に進学。クラシックを学びつつ、ライヴハウスに通う生活のなかで、19歳のときに本格的な作詞/作曲を始め、弾き語りでの活動を開始した。
「中学生のときにずっと家で歌を歌っていて、その頃から歌手になりたいと思っていました。当時はチャットモンチーの“ハナノユメ”をずっと歌っていて、YUKIさんやCharaさんもずっと好きだし、お二人が好きなビョークもすごいなって。最近ビョークと同じアイスランド出身のソーレイのライヴを観て、北欧の人の歌は景色が見えるので、ガツンとやられましたね」。
2015年にはEve名義でファースト・アルバム『yoru wo koeru』を発表。弾き語りメインの作品だったが、“きりん座”を録音したバンド・メンバーに手応えを感じ、後に〈高井息吹と眠る星座〉としてライヴ活動をスタート。『世界の秘密』はそんな信頼のおける仲間と共に作り上げた作品となっている。1曲目は前作からの流れを引き継いだ弾き語りの“うつくしい世界”だが、2曲目の“Carnival”から一転、大音量のバンド・サウンドが鳴り響き、高井の歌声も非常に伸びやかだ。
「〈安堵感〉と同時に〈昂揚感〉も自分にとってすごく大切で、“Carnival”はそれをいちばん強く感じられる曲なんですけど、自分でもこんなにエモーショナルに歌えるとは思ってなかったです(笑)。そこは無意識というか、バンドだとより歌に集中できるし、曲が歌を広げてくれているイメージです」。
オルガンを用いたポップな“honey”、エレクトロニカ風の打ち込みが気怠い雰囲気を漂わせる“saturday afternoon”など、ヴァラエティーに富んだ楽曲を収録しつつ、ハイライトを迎えるのが〈もう ここにはいられない〉と歌う“水中”から“青い夢”へと至る終盤の流れ。本作の〈青〉のイメージを印象付ける。
「“水中”は初ライヴからずっとやってる曲で、もともとはライヴハウスのことを書いた曲なんです。青い照明がすごくきれいだったんですけど、ちょっと閉鎖的な雰囲気も感じて、〈ずっとここにいちゃダメなんじゃないか〉って。でも、だんだんもっといろんなことに通じる曲に思えてきて、〈人はずっと同じ場所にはいられない生きものなんだな〉って、今はいろんな意味を重ねて歌ってます。“青い夢”は〈ポカリスエット ゼリー〉のCM曲として書いたんですけど、CM自体のメッセージが〈海の青〉とか〈若さの青〉で、アルバムのコンセプトとピッタリだったので、運命的なタイミングでしたね」。
本作のラストを飾るのは“今日の秘密”。高井の歌から感じられる〈祈り〉の感覚がもっとも色濃く表れていると言えよう。
「現実ってちょっと悲しいものだと思うんですけど、このアルバムには私のそういう悲観的なところが出てるんです。でも、それを超えるもっと大きな、奇跡的なこともきっとある。“今日の秘密”は、このアルバムの悲しみが全部救われるような、海みたいな曲になればと思ってます。歌はおまじないにも呪いにもなると思うし、歌ったことが現実になったりもするから、これからも願いを込めて歌っていきたいです」。
高井息吹
93年生まれのシンガー・ソングライター。都内を中心にライヴ活動を行う傍ら、2015年にソロ・プロジェクトのEveとしてファースト・アルバム『yoru wo koeru』を発表。2016年は4月よりオンエアされた大塚製薬〈ポカリスエット ゼリー〉のTVCM曲を手掛け、8月には〈SUMMER SONIC〉へ出演。2017年は〈マイナビ 2018〉〈トヨタ L&F〉のTVCM曲を担当し、5月に公開された谷内田彰久監督映画「ママは日本へ行っちゃダメと言うけれど。」の挿入歌として『yoru wo koeru』より“雨雫のワルツ”をはじめとする数曲が起用される。このたび、名義を本名に改めてのニュー・アルバム『世界の秘密』(Pヴァイン)をリリースしたばかり。