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©Frenesy, La Cinefacture

©Frenesy, La Cinefacture

 本作は〈同性愛〉を扱った過去の映画と違い、カミングアウトの苦悩や、周囲からの激しい偏見の目や暴力的な迫害との戦いなどがテーマになっていないのが特徴。エリオの〈とまどい〉は初めての恋心に対する少年の素直な反応であり、彼が直面する哀しみは〈愛する人とずっと一緒にいられるとは限らない〉という、誰の人生にも起こりうる悲しい運命に対する感情だろう。男女を問わず大人たちが胸の奥にしまい込んでいる、柔らかくて甘酸っぱい青春の場所を思い出させるこの傑作を、全ての人にお薦めしたいが、個人的には思春期の男の子を持つ親、特に父親に強くレコメンドしたい。なぜならエンディング近くで、パールマン教授がエリオに語りかけるシーンがあり得ないほど感動的だから! 教授の言葉は古代ギリシアの哲学者プラトンが名著「饗宴」の中でディオティマに語らせている「エロスの働きとは美しいものの中で子をなすことであり、それは肉体だけでなく人と人(この場合は男同士)が魂の面で深く交わることによっても、生み出される」に通じるものがあると、私には思われる。

 もちろんそんな哲学的な〈エロス道の奥義〉を持ち出さなくても楽しめるのが本作。ディカプリオ以来の才能と絶賛されている新星、ティモシー・シャラメと、その存在感と確かな演技力で日本でも大人気のアーミー・ハマーが惜しげもなく(常に上半身裸で)艶めかしい身体を披露し、風光明媚なイタリアでサイクリングしたり泳いだり、芸術について語ったり美味しいものを食べたりする最高のサマームービー。サントラもクラシックから現代曲(エリオは坂本龍一ばりの天才ミュージシャンなのかも……)、サイケデリック・ファーズら80年代ポップソングと盛り沢山。特に、監督も敬愛するニューヨーク在住のシンガー・ソングライター、スフィアン・スティーヴンスが書き下ろした“Mystery Of Love”と“Visions Of Gideon”が素晴らしく、本作の魅力の全てがこの2曲に集約されていると言っても過言ではない。

 


FILM INFORMATION
映画「君の名前で僕を呼んで」

監督:ルカ・グァダニーノ
挿入歌:スフィアン・スティーヴンス “Mystery Of Love” “Visions Of Gideon”
出演:アーミー・ハマー/ティモシー・シャラメ
配給:ファントム・フィルム
(イタリア/フランス/ブラジル/アメリカ 2017年 132分)
2018年4月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー