HIP HOP meets THE BLUE HEARTS
いまなおクソッタレな世界のために、精一杯デカい声で終わらない歌をラップしよう

 永遠なのか、本当か……はわからないが、時代を超えるというのはまさにこういうことなのだろう。デビューから30年以上、解散から20年以上の時を経てもなお、残された楽曲の数々が多くの人を魅了し続けているTHE BLUE HEARTS。音楽界に止まらず映像作家や俳優たちにもその影響は及んでいて、昨年には彼らの名曲をモチーフにしたオムニバス映画「ブルーハーツが聴こえる」が公開されたし、もっと遡れば「リンダ リンダ リンダ」(2005年)や「ラブレター 蒼恋歌」(2006年)を覚えている人もいるだろう。映像作品でいうなら各話のサブタイトルを彼らの曲名にしたTVアニメ「ローリング☆ガールズ」(2015年)やそのキャストによるカヴァーもあったし、アニメ繋がりでいうと「けものフレンズ」から生まれたPPPの“人にやさしく”も記憶に新しい。そうでなくても、CMソングに彼らのオリジナルやカヴァーが使われる機会も例に挙げればキリがない状況だったりするが、それらも単純にリアルタイム世代を狙った懐メロ的な用途というより、彼らのリスナー層が世代を超えていることの証明に思えるし、言い換えれば、THE BLUE HEARTSのナンバーに時代を超えて機能する何かがあるということだ。

 そんな状況だからして、彼らの楽曲が多様なジャンルのアーティストによってカヴァーされる機会も当然のように数多い。2000年代以降は豪華アクトによるトリビュート作も定期的にリリースされていて、2016年にも〈re-mix〉を謳った公式の『30th anniversary THE BLUE HEARTS re-mix「re-spect」』(10-FEETや神聖かまってちゃん、藤原ヒロシ、冨田ラボらが参加)が出されていた。それに続く格好で今回届けられたのが、ヒップホップのフィールドで活躍する面々の集まった公式トリビュート盤『THE BLUE HEARTS TRIBUTE HIPHOP ALBUM「終わらない歌」』である。

VARIOUS ARTISTS THE BLUE HEARTS TRIBUTE HIPHOP ALBUM「終わらない歌」 meldac/徳間ジャパン(2018)

 言葉にも重きを置いた表現という共通項がインスピレーションを掻き立てるのか、ラッパーたちによるカヴァー/リメイクの動きはこれまでにもあり、古くは着想を借りて別曲になったTHA BLUE HERB“未来は俺等の手の中”(2003年)から、近年だとANARCHYがCHAKI ZULUとトラップ調でリメイクした“チェインギャング”(2016年)も思い出される。また、t-AceとTERRYが披露した“終わらない歌”(2016年)も歌心に溢れた忘れ難い名リメイクだった。それらはフックを引用しつつオリジナルのラップ・パートを加えたものだが、今回のトリビュート作でも基本の発想は同じ。昨年MVが先行公開されていたNORIKIYOの“終わらない歌(REMIX)”を中心に5曲が収録されている。

 収録曲を順に見ていこう。まず“終わらない歌(REMIX)”では、プロデューサーのPUNPEEがオリジナル音源からのサンプリングをフックに用いながら、メロウなグルーヴで巧みにNORIKIYOの世界へと再構築。“人にやさしく”のコーラスも交えた仕掛けも技アリで、どこかノスタルジックな雰囲気も湛えた作りはいかにもPUNPEEらしい手捌きだ。そのPUNPEEとNORIKIYOでマイクを回したのが続いての“TRAIN-TRAIN(REMIX)”で、こちらのプロデュースは名匠I-DeAが担当。ピアノを印象的に用いたループはこれまた郷愁を誘う美しい出来映えで、少年性や青春の色合いを帯びた初期THE BLUE HEARTSの世界をうまく借景した仕上がりと言えるだろう。

 そうした〈あの頃〉を喚起するマナーは、やけのはらが田我流をフィーチャーした続いての“キスしてほしい(REMIX)”にも繋がるもの。こちらも原曲よりフックをサンプリングしながら、より具体的に現在の目線から過去を回顧したナンバーになっている。さらに、やけのはらは続いての“リンダリンダ(REMIX)”でもリミックスを担当。こちらではトラックメイクに徹してリミキサーとしての手腕を発揮しており、バレアリックで幻想的なビートに甲本ヒロトの歌声を浮かべたような雰囲気だ。

 そしてラストは、grooveman Spotがリミックスした“青空(grooveman Spot REMIX)”。ゆったりしたテンポのダビーなレゲエが絶妙な聴き心地になっていて、先述の『30th anniversary THE BLUE HEARTS re-mix「re-spect」』所収の藤原ヒロシによる同曲のダブ・リミックスと聴き比べるのもおもしろいだろう。

 さようにして曲ごとに工夫の凝らされた全5曲。THE BLUE HEARTSのファンも参加アーティストきっかけでここに辿り着いたリスナーも、名曲を源泉とした新たなクリエイションを楽しんでいただきたい。