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LAではジャズをやらなくなる?

柳樂「日本のSNSでは〈世代で分けるな〉って言う人が多いんですけど、ジャズ・ミュージシャンたちと話していると〈ジェネレーション〉の話をすごくするんですよ。僕もカマシとだいたい同い年なんですけど、30代後半から40代前半くらいまでは90sヒップホップが直撃した世代で、グランジやオルタナティヴ・ロックを聴いていた世代なんです。

だから、元ネタとかサンプリングネタとかの話も、〈当たり前だろ?〉みたいな感じでする。そこで繋がっているジェネレーション、同世代感は本人たちもすごく感じていて、その繋がりも大事にしていて、それが音楽に出てる気はしますね。

世代ということで言えば、カマシはアルバムへのこだわりはあるかもしれないですね。〈こだわり〉っていうか、俺もそうなんですけど、そういうものだと思っている(笑)。いきなり〈1曲ずつ配信します〉って言われても……」

村井「単位がアルバムなんだよね。でも、ガチッとコンセプトが決まっていて、パッケージで提示するっていう、ここまでやる人も珍しいと思います。カマシは内面を音楽に投影してアルバムを作っていますけど、ジャズ作品にそういったものはすごく少ないんですよね。ジャズ・ミュージシャンってもっと即物的に音楽をやるじゃないですか。内面や心について語らないもんね」

柳樂「〈技術的にそういうのがやってみたかった〉とか〈難しい譜面を買ったから頑張ってやってみた〉とか、そういう身も蓋もない、何のストーリーもないこと言うんですよね(笑)」

村井「そうそう。『至上の愛』なんかは例外だから、後藤さんはそれを超えたって書いたのかもしれないけど(笑)。そういう極めて珍しい例外に、ローランド・カークの『The Case Of The 3 Sided Dream In Audio Color(過去・現在・未来そして夢)』(75年)というカークが見た夢を音楽にしたアルバムがあって、バンドの演奏とサウンド・コラージュみたいなもので構成されているんです。

カークが自分でやっているんだけど(笑)、〈ラサーン!〉って呼びかける声とか、パカパカって馬が駆けていく音が入っている。それはカークというミュージシャンの内面を音にした珍しいものなんですが、カマシも今回、同じようなことを言っていますよね」

ローランド・カークの75年作『The Case Of The 3 Sided Dream In Audio Color』収録曲“Freaks For The Festival, Pt. 1”

柳樂「カマシが自分の内面を表現するのって、まさにケンドリック・ラマーがオルター・エゴを作り出してラップするような、最近のラッパーの感じにも近い。そういう意味では、LAのコミュニティーから感化されたものがあるのかもしれないですね。

コンセプトというところでは、ロバート・グラスパーはもっと適当なんです(笑)。R+R=NOWについて話を訊いても、〈フェスで何かやれって言われたから、その場でこいつとこいつとこいつを集めたらよくね?〉〈やったら楽しかったからアルバムを作ったんだよ〉みたいなノリで、何の答えにもなっていない(笑)」

※ロバート・グラスパー、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソン、クリスチャン・スコット、テラス・マーティン、テイラー・マクファーリンからなるスーパー・バンド。6月15日にデビュー・アルバム『Collagically Speaking』をリリースした

村井「ははは(笑)」

柳樂「だから、生粋のジャズ・ミュージシャンっぽいのって、実はカマシよりもグラスパーなんですよね。『ArtScience』(2016年)もR+R=NOWもブルーノート・オールスターズもオーガスト・グリーンも〈とりあえず集まってスタジオで一発録りした〉みたいな感じで。

だから、カマシはある意味ではジャズ・ミュージシャンっぽくないタイプで、〈LAのスタジオ・ミュージシャン〉っていう感じなのかもしれない。LAだとみんな、だいたい他の仕事をしていて、普段は別のバンドで稼いでいるじゃないですか」

※ラッパーのコモン、グラスパー、ドラマーのカリーム・リギンスによるヒップホップ・グループ

村井「70年代に秋吉敏子がLAに行ったんですよ。ルー・タバキンと結婚してNYにいたんだけど、とにかく大変だと。とんでもなく巧い奴しかいないし、仕事があっても1日10ドルしかもらえない(笑)。これはもうダメだって、夫婦でLAに越したんです。そうすると、テレビや映画音楽の仕事がいっぱいある。それで普通に暮らせちゃうから、〈やりたいときにだけビッグ・バンドをやろうよ〉みたいな感じでジャズをやらなくなっちゃうらしくて(笑)」

柳樂「ハーヴィー・メイソンも同じようなことを言っていましたね。NYは野球のワールドシリーズを毎日やっている感じなんですよ(笑)。メジャーリーグの超一流選手だけの試合を365日やっていて、勝ち抜いた奴だけが上に行ける過酷な世界。カマシのいるLAは、もうちょっと緩いんです」

 

カマシのアイデア力

柳樂「さっき村井さんがポピュラリティーについて話していましたけど、『The Epic』ってすごくザラッとしているじゃないですか」

村井「そうだね」

柳樂「あえてそうしているのもあるだろうし、当時使えたスタジオで頑張ってやって、あの音なんだと思うんです。その質感が良かったところもあるんですけど、録音の質があきらかに上がったのがヤング・タークスに移籍した『Harmony Of Difference』からですよね。その音の質感がLAのヒップホップにも近い。あまりNY、東海岸のヒップホップの感じがしないんですよね。

あるいは、LAのヒップホップにおいてサンプリングされた、ジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク、トム・スコットのL.A.エクスプレスとかみたいな、LAフュージョンの感じに近い気がします。彼らも音楽性が多様で、黒人性はあまり押し出さないですよね」

ジョージ・デュークの78年作『Don’t Let Go』収録曲“Dukey Stick”

村井「ブルースとかファンクとかには直接いかないんだよね。僕はふと、スティーヴィー・ワンダーの『Songs In The Key Of Life』(76年)にテイストが似ていると思ったんです。いろいろな種類の音楽があって、でもスティーヴィーのパーソナリティーが強いというようなところが似ています。あれもトータル・アルバムなんですが、ヒット曲が満載で、一曲ずつでも聴ける作品ですよね。

この『Heaven And Earth』を聴いてもそう感じるのですが、カマシはすごくたくさんのアイデアを持っていて、いろいろな意味で充実しているんだと思います。だから、そのアイデアを結晶させる力がいま、すごくあるのかなと思います」

 


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2018年8月18日(土) ZOZOマリンスタジアム

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2018年8月19日(日) Billboard Live TOKYO
2018年8月20日(月) Billboard Live TOKYO
2018年8月21日(火) 大阪・心斎橋 BIGCAT