短期間で屈強のライヴ・バンド並みのステージ数を経験してきた4人が、根拠ある自信から生み出したニュー・アルバム――『NEORDER NATION』は新たな秩序を創造する!

同じところに向かっていけてる感覚

 少年がミルクやGauche.、ゆくえしれずつれづれ、幽世テロルArchitectなど、さまざまなジャンルやカルチャーの垣根を横断するアーティスト/アイドルを送り出す個性派レーベル/プロダクション、コドモメンタルINC.。そこに所属する〈病みかわいい〉アイドル・ユニット、ぜんぶ君のせいだ。が、通算4枚目となるオリジナル・アルバム『NEORDER NATION』を完成させた。

ぜんぶ君のせいだ。 NEORDER NATION コドモメンタルINC.(2018)

 2017年9月にサード・アルバム『Egoistic Eat Issues』と過去曲の再録音源集『新音』を同時リリースしたのち、全30公演のロング・ツアー〈みんなごと TOUR 2017~2018〉をスタート。2018年2月の渋谷・WWWX公演まで走り切った彼女たちは、今年5月に渋谷・TSUTAYA O-EASTで開催された自身最大キャパのワンマンを即日ソールドアウト。6月からは初の対バンツアー〈修羅しゅしゅしゅ〉を開催し、6月10日の東京公演では〈ぜん君。VS ぜん君。〉という前代未聞の対バン企画も実現した。なかでも『NEORDER NATION』のリリースを発表した東京・TSUTAYA O-EAST公演は、4人にとって大きな経験になったそうだ。

 「当日は初めて来てくれた人も〈ぜん君。のライヴではこうしたら楽しいよ〉ということをみんなで一緒にやってくれて、すごく盛り上がってくれて。会場は大きくなったのに変わらない一体感を感じることができて、それが本当に嬉しかったです」(如月愛海)。

 「でも、そこが最後ではないし、私たちは通過点のひとつとしても考えていたんです。実際、患いさん(ぜん君。ファンの総称)たちと一緒にもっとその先を見たくなるようなライヴになりました」(一十三四)。

 そうして人気を拡大する日々のなかで、メンバー間の意識にも変化はあったのだろうか?

 「ちょっとずつ、ちょっとずつ変わってきた感じがします。〈みんなごと TOUR〉を通してずっとメンバー4人でいて、そこでみんなの意識が少しずつリンクしはじめて。最近やっと、〈同じところに向かっていけてる〉と感じはじめているところなんです」(ましろ)。

 

いまだからこそ振り切れる

 同じところに向かっていけてる――そうした気持ちの変化は、前作以降のシングル群にも反映されていた。昨年末にリリースされた“せきららららいおっと”は、BPMの速いトラックにさまざまなアイデアを詰め込んだぜん君。らしいポップ・チューンでありつつ、歌詞ではこれまで以上にメッセージ性の強いスタイルを追究。そして今年4月にリリースした“トナリコレアラタ”では、〈きみの隣〉で恋する気持ちを〈トナリ維新=トナリコレアラタ〉と名付け、これまで以上にまっすぐな気持ちと、新たな場所に向かうグループの気持ちとを重ねて表現していた。また、同曲ではニューウェイヴ色の強いロックを基調としながら、ジャズの要素を採り入れるなど新しい作風にも挑戦。そうした変化や冒険を経た現在のぜん君。の集大成こそ、今回の新作『NEORDER NATION』だ。アルバムは“トナリコレアラタ”でスタートし、続く“唯君論(ただきみと)”ではドラムンベースやスカを採り入れたビートを序盤で聴かせ、サビの〈病んでる? いや、大丈夫。〉という歌詞と共にパワフルなポップネスを全開に。この曲は2015年のデビュー曲“ねおじぇらす✡めろかおす”の最新版とも言える新たな自己紹介ソングで、“ねおじぇらす✡めろかおす”と同様に〈ぜんぶ君のせいだ。〉という歌詞が曲中に登場するが、そのパートを担当するのは2016年末に加入した咎憐无。〈愛して愛される奇跡 ぜんぶ君のせいだ。〉という歌詞から、これまで4人を支えてきた人たちへの感謝が浮かぶような楽曲になっている。

 「ここでの〈ぜんぶ君のせいだ。〉という歌詞は、“ねおじぇらす✡めろかおす”の頃からいろんなことを経験して、それを抱えてきたからこその〈ぜんぶ君のせいだ。〉だと思うんです。だから私も、そんなことを考えながら歌いました」(咎憐无)。

 「自己紹介ソングであると同時に、成長したいまの自分たちの歌ですね」(如月)。

 「元気で明るい曲なのに、ぜん君。のこれまでのことをだんだん思い出すような曲になっていて、限定公開したときも患いさんに〈泣ける〉と言ってもらいました。曲調はポップなので、ライヴではみんなで思いっきり盛り上がりたい曲です」(一十三)。

 以降はエッジの立った彼女たちらしいアイドル・ポップ“メスゲノムフェノメノン”、ライヴの光景が浮かぶ歌詞や一十三四&咎憐无が交互に繰り出すデスヴォイスが印象的な“Cult Scream”、歌詞においてぜん君。史上もっともハードな方向へと振り切った“Folia Therapy”、よつとが(一十三四&咎憐无)/めぐまし(如月愛海&ましろ)でパートを分けてそれぞれがロミオとジュリエットをイメージしたという切ないエレクトロ“FAIRY TALE FANTASY”など、全編を通してより幅広い音楽性を表現。シングルのカップリング曲“Unknown Carnival”“う゛ぁいらるらびりんす”なども交えつつ、8曲目の“常花”ではより直球のロック・サウンドにも挑戦するなど、アルバム全体を通してライヴでの風景が浮かぶ楽曲や、大人びた表情が見える楽曲が増えている。これもいまのぜん君。ならではの変化と言えるはずだ。

 「前は、似たようなことを歌っても、もっと可愛い雰囲気だったと思うんです。でも、いまだからこそここまで振り切れることができるのかなって思います。いまはグループとしてひとつの目標に向かう雰囲気があって、患いさんに対する〈もっと一緒にいてほしい〉という愛の重さも深まってきているし、患いさんもそれを受け止めてくれると思うので」(ましろ)。

 「今回のぜん君。は、情緒不安定なところも残しつつ、周りのことを見れるようになっていて、そのうえで苦しさを歌っているような曲が増えてると思います」(如月)。

 

〈ぜん君。への入り口〉になってほしい

 そうした意味でも、今回の作品で何より印象的な余韻を残すのが、疾走感のあるロック・サウンドと爽やかなシンセが絡み合うラスト曲“MONOLOGUE”だ。この楽曲は『Egoistic Eat Issues』に収録されていた“独白園”のアンサー・ソング。4人が歌う〈いつか心許せる人間に会い 綻びも弱さも晒け出せるなら 憎き眩しさに溢れる世に少し 期待してみてもいいかな……〉というサビの歌声は、独白のようでありながら、同時にまるで誰かのために歌っているかのような、凛とした優しさを持っている。

 「これまでは好きな人や大切な誰かが出てくる歌が多かったですけど、この曲はある意味自己完結にも取れる曲で、それがなおさら苦しいんです。本当はどこかで理解されたいのに、それを言えない……。私、この曲は泣けてきてちゃんと聴けないんですよ」(如月)。

 「ぼくもこの曲を聴くと泣けるんですけど、めーちゃんとは泣けるの意味が違ったりもしていて。人によっていろんな解釈で感情移入できるところがなおさらモノローグっぽいなって思います。ぼくは、この曲はすごく眩しいと思うんです。ひねくれているし、苦しい気持ちを歌っているけれど、それをまっすぐに歌えるのって、すごく眩しいと思う」(ましろ)。

 「〈ぜん君。をはじめる前の自分たち〉みたいなイメージもある曲ですね」(一十三)。

 例えるなら、この『NEORDER NATION』は、アイドル・シーンの枠に収まらない活動によって多くの人々を巻き込んできた彼女たちが、自分たちだけの〈新しい秩序〉を見つけるために踏み出した新たな旅路の出発点。進化を遂げた4人のスキルや絆を手に未開の大地を切り開いていく彼女たちの姿が、斬新なアイデアをふんだんに盛り込んだ音楽性や、メンバーの成長、それらと一見相反するキュートな魅力によって表現されている。

 「いまはそれぞれが、より個性を出せるようになってきているのかな、と思います」(咎憐无)。

 「そもそも最初の頃は、自分たちが何者なのかを自分たち自身もわかっていなかったんですよ(笑)。でも、そこからいろんな人たちに出会えて、その人たちとの関わり合いのなかで自分のことがわかるようになってきたというか。そこで私たちのなかにあったヘンな自信が、ちょっとずつ確信に変わってきたのかな、って感じています」(如月)。

 「3年にも満たない間に40~50曲も出してきたなかで、今回また新しい音楽性にチャレンジできているのがすごく嬉しいです。ぼくたちはもともと王道のアイドルになりたい子とはちょっと違う子たちが集まってきて、どんな場所に行っても、ただ〈ぜんぶ君のせいだ。〉として刺さることを考えてきたんです。特に今回のアルバムは、普段ぼくたちのようなグループの曲を聴かないような人にも刺さってもらえる曲が入っていると思うので、このアルバムがそういう人たちの〈ぜん君。への入り口〉になってくれたら嬉しいです」(ましろ)。

7月18日にリリースされるぜんぶ君のせいだ。のライヴDVD『TSUTAYA O-EAST ワンマンLIVE~ロマン無頼IZM~』(コドモメンタルINC.)

 

ぜんぶ君のせいだ。の近作を紹介。