NYハイブリッドの透視図

 1988年から2017年までNYに住み、写真家/ジャズ・ジャーナリストとして活動した常盤武彦の新著である。30年弱にわたるNY滞在で体得した見聞をもとに、今のジャズ界を俯瞰しようとする内容を持つ。

常盤武彦 ニューヨーク・ジャズ・アップデート 小学館(2018)

 米国外からNYにやってきたジャズ・マンの奮闘を紹介する〈インターナショナル・アーティストの群像〉、〈ジャズ・ヴォーカルの伝統と革新〉、〈今訪ねたいNYのジャズクラブ30選〉……。といったように、本書は9つの章に分けて進められる。それらの文章は、書き下ろし。そして、その内容につながるインタヴューが各章の終わりに付けられていて、それらはNY滞在時に日本の雑誌に寄稿したものが主に収められる。また、記事によっては、そこに添付されたQRコードを介して長尺版がネットで読めるようにもなっている。

 最初に置かれたのは、エスペラランサ・スポルディングをはじめとする、今の広角型ジャズ(・ビヨンド)の担い手たちに言及する章。その章立ての順序には、ジャズは変容を伴いつつ輝き続けるもの、という著者の気持ちが反映されているか。文字数の限りもあり駆け足気味な記載になっているところはあるが、ブラッド・メルドーとマーク・ジュリアナによるエレクトロ・プロジェクトであるメリアナにジョン・スコフィールトが加わったなど、日本では報道されていないネタがあるあたりは、さすが本場にいた人物の記載と思わせるだろう。

 そう、やはりジャズの中心地、廃れることのないハプニングの発信地であるNYに長年居住していたからこその、見知や機微が本作の肝。それゆえに、自宅スタジオできっちり取材したジャズ界裏方偉人5傑に間違いなく入る名エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルターに1章が与えられているのも必然であると感じるか。

 書き遅れたが、本書の帯に入る謝辞は親しい付き合いを持つ現代ビッグ・バンドの最たるリーダー/指揮者であるマリア・シュナイダーが書いた。本書には〈進化するラージ・ジャズ・アンサンブル〉という章も設けられ、そこには彼が仕切った彼女と挾間美帆の対談が再収録されている。

 常盤武彦は、まずジャズ・カメラマンである。本書に使われる大小300もの写真は、もちろん彼が長い滞米中にライヴの場で撮影したものであり、やはり雄弁であると言うしかない。それらが、何よりジャズという音楽の素敵を伝え、さらにはNYという場やその地に集まってきた人々の意気を抱えた音楽的営みを鮮やかに伝える。全体の2/3は写真を活かすためにカラー頁となっているが、それも当然のことだろう。

 ジャズを語る書籍というと、日本だと(いや、それは海外も同様か)アルバムに対する言及を介して話が進められる場合が多い。だが、本書は違う。まずは、リアルな現場ありき。それゆえ、この本の論拠の骨子となるのは、筆者のミュージシャンとの邂逅の様やライヴ・ギグの模様、そしてそれを生き生きと切り取る写真群である。だから、この『ニューヨーク・ジャズ・アップデート』にはアルバムのジャケット写真は一葉も掲載されていない。それも、納得ではないか。

 


LIVE INFORMATION

常盤武彦トーク&スライドショウ
○7/14(土)19:00開演
司会:村井康司
会場:Music Bar 道(東京・湯島)