アンベール城(インド、ラジャスタン)
Photo by Chris Schalkx
@chrsschlkx ricepotato.co

ウェス・アンダーソン監督公認の、世界中にある〈ウェス・アンダーソンな風景〉

 ウエス・アンダーソン監督の作品の魅力のひとつは、その洗練された美意識だ。左右対称のバランスが取れた構図のなかで、鮮やかな色彩を纏った建物や乗り物、風景が配置される。それは絵本のように可愛くて、どこかノスタルジック。監督の審美眼によって完璧に作り込まれた世界だと思っていたが、偶然、ウェス・アンダーソン的になった風景が世界中に存在する。ワリー・コーヴァはウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな場所の写真を目にしたこときっかけに、そういう場所を探すコミュニティー〈AccidentallyWesAnderson〉を2017年にネット上に立ち上げた。そして、そこに世界中から集められた写真を、一冊にまとめたのが本作だ。「グランド・ブダペスト・ホテル」のようなホテル、「ムーンライズ・キングダム」に出てきそうなキャビン、「ダージリン急行」的な鉄道など、どの写真を見てもウェス・アンダーソンの作品を思い出す。

ワリー・コーヴァル,樋口武志 『ウェス・アンダーソンの風景』 DU BOOKS(2020)

 採集地は、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ、果ては南極圏と幅広く、クロアチアの国立公園にあるパンケーキのスタンド、なんていうマニアックな物件もある。ここは、本書を気に入って序文を寄せたウェス・アンダーソンが、ぜひ行ってみたい場所だとか。監督のお墨付きをもらった物件、というわけだ。日本の写真もあって、我々にとって見慣れたタクシーや鉄道が、ウエス・アンダーソン的に見えてくるから不思議。それっぽい場所や建築物、乗り物を見つけるだけではなく、写真の構図もウェス・アンダーソンを意識しているところに、監督作品への愛着が伝わってきたりもする。しかも、写真ごとに物件の歴史的な背景や特色に触れたコメント付きで(これまたアンダーソン的なユーモアを感じさせる)。旅のガイドブック的な趣向になっていて、見て楽しむだけではなく自分でも探したくなってくる。

 ちょっとそこまでウェス・アンダーソンな風景を探しに。そんな優雅な散歩のきっかけにもなりそうな遊び心に満ちた写真集だ。