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思い切ってガードを緩めたのよ

 このようにして形作っていった今作を聴き進めると、まずは音楽性の広がりに誰もが気付くだろう。例えば、前作のユーモラスで陽気なノリを受け継ぐ曲にしても、冒頭の“Just Be Mine”や“Dirty Love”などではレコーディング中にヘビロテ状態にあったというUKガラージやドラムンベースをポップに消化してみたり、“I Wish”ではオールド・スクールな90年代風ヒップホップ・ソウルに挑戦したりと、積極的な実験で芸風の幅を見せつける。そして曲によっては放送禁止用語も遠慮なく交え、いっそう挑発的な表情を見せていたりもするけど、他方で、シェールのトレードマークのひとつだったラップをほぼ封印。MC役はその“I Wish”のゲストであるT.I.に任せ、「以前よりもラップへの興味が薄れちゃったし、このアルバムにはあまり居場所がなかった」と、歌い手であることに専念しているのも今作の特徴だ。しかも今回は、彼女がヒップホップと並んで子供の頃から親しんできたというカントリー・ミュージックの影響が色濃い、ミディアム~スロウテンポの曲が充実。確かなヴォーカル力を存分にショウケースしつつ、前述した自身の繊細な面や人間関係のダークサイドに目を向けて詞を綴っている。故郷の父親に捧げた“Goodnight”然り、シングル・カットされた“Sirens”然り、“Human”然り……。「カントリーってストーリーを伝える音楽だし、ストーリーを重視している私にとってカントリーを採り入れるのは自然なんでしょうね」とシェールは話すが、実際、彼女の声が持つ独特の艶感や節回しとの相性は申し分ない。

 「このアルバムには、人生において私のいまいる場所が正確に刻まれているわ。そういう作品にしようと最初から心に決めていたの。以前は書けなかったようなパーソナルなことも書いたし、人々に心の内側を見せるっていうのは、凄く大きなステップだった。でも思い切ってガードを緩めたのよ。で、結果的には私自身が力付けられたと思う。自分の身に起きた過去のことについて話をするのは凄く難しいんだけど、それを曲に綴ることは全然難しくないのよ。なぜ抵抗がないのか自分でも理由がわからないんだけど、要するに、私にとって自分を表現するのにいちばん相応しい方法は音楽を介することなんだと、証明されたようなものね。これは悲しいだけのアルバムじゃないし、かといってハッピーな曲だけを集めたわけじゃない。みんながここからさまざまなエモーションを感じてくれたらって願っているわ」。

 そう、17歳と20歳の差は明々白々で、イングランド西部の田舎町で生まれ育った女の子が独り立ちして世界を旅し、結婚もして……と、過去3年間の濃密な体験が間違いなく作品に重みを与えている。ちなみに〈遅れちゃってゴメン〉を意味するタイトルも、昨今のポップ界の基準に照らせば少々長く感じられるアルバムのインターヴァルに言及するもの。「究極的にはこの空白がポジティヴな結果をもたらしたわ」とシェールは語っており、先を急がずに着実なスケールアップを優先したことで、3枚目、4枚目……と長期的なヴィジョンも拓けてきたようだ。

 「アルバムのリリースが延期されたりして、前作から長い時間が空いちゃったんだけど、その間に私は〈自分が何を求めているのか〉〈どんな道を進みたいのか〉〈自分の音楽をどう発展させたいのか〉――そういったことを見極めることができた。そして何よりも、自分自身についてたくさん学べたと思うの。つまり〈私が何者なのか理解するまでに少し時間を要した〉というニュアンスも、このタイトルに託しているのよ!」。 

 

▼関連作品

左から、シェール・ロイドの2011年作『Sticks + Stones』(Syco/Epic)、シェール・ロイドが参加したデミ・ロヴァートの2013年作『Demi』(Hollywood)、ゴシップの2012年作『A Joyful Noise』(Columbia)、T.I.の2012年作『Trouble Man: Heavy Is The Head』(Grand Hustle/Atlantic)

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