電気グルーヴのシングル“虹”が1995年4月21日にリリースされてから30周年を迎えた(初出は前年発表のアルバム『DRAGON』)。“虹”は、電気グルーヴのキャリアを代表する一曲として数多くのリスナーに愛され続けているのはもちろん、さまざまなアーティストがカバーやリミックスを手掛けたほか、世界中のDJたちによってかけられ、フロアを揺らしてきた歴史を持つ。そこで今回は、そんな“虹”がどんな軌跡を辿ってきたのかを簡単ではあるが振り返っていきたい。

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電気グルーヴ 『DRAGON』 キューン(1994)

 

海外に飛び火し、90年代のテクノアンセムとなった名曲

前述した通り、“虹”はオリジナルアルバム『DRAGON』で初お披露目された。当時の電気といえば、1993年のアルバム『VITAMIN』で本格的な〈テクノ覚醒期〉に突入したものの、ファン以外の音楽好きからはやもすれば〈色物キャラ〉的な見られ方も少なくはなかった。そんななか登場した『DRAGON』のラストに配置された“虹”は、これまでの電気からは想像できないくらい〈ピュア〉な世界観で構築された楽曲となった。煌めく電子音の粒子と石野卓球&五島良子による歌声が織りなす、10分以上にわたる音楽の快楽。アンダーワールドの“Rez”やオービタルの“Halcyon And On And On”といった名曲と並び、90年代のクラブミュージック界を代表するアンセムが日本から誕生したことに歓喜の声が多く上がった。

その後、“虹”はシングルカットされたが、楽曲の時間は半分近く短くなった〈SHORT CUT MIX〉として収録された。カップリングには、柚木隆一郎と會田茂一によるユニット、EL-MALOが手掛けた〈MOJO MIX〉が収められている。過剰とも言えるレベルで要素を詰め込んだオルタナティブロック仕様となった同バージョンも、隠れ人気が高い名リミックスだ。

リカットということもあり大きな売り上げを記録することはなかった“虹”のシングルだが、ほどなくして思いもよらぬ場所にて反響を呼ぶことになる。ドイツを中心に活動を展開するイギリス人の音楽プロデューサー、マーク・リーダーが“虹”を気に入り、自身のレーベルである〈MFS〉からリリースされたのだ。日本のバンドとしては異例とも言えるヒットを記録し、電気グルーヴの名がヨーロッパで浸透しただけでなく、卓球がDJとして国外で活躍するきっかけとなるなど大きな成果を上げた。さらに、“虹”の海外盤はイギリスのレーベル〈SILVER PLANET〉からもリリース、ポール・ヴァン・ダイクやマイク・ヴァン・ダイク、マーク・リーダー、トビーネイションらによるリミックス音源が各盤に用意されているので、気になる方はぜひチェックを。

 

「エウレカセブン」での使用、フジロックのライブ、次世代によるカバー……

2000年代に突入すると、電気の活動とは異なるフィールドで“虹”が大きな注目を集めることになる。2005年から2006年にかけて放送されたテレビアニメ「交響詩篇エウレカセブン」の最終話(2006年4月オンエア)で、“虹”が挿入歌として使用されたのだ。劇中では、物語の進行やキャラクターたちのセリフのバックで“虹”が途切れることなく流れ続け、感動のクライマックスを“虹”が美しく彩り、数多く視聴者の涙を誘った。

同年夏、電気グルーヴは〈FUJI ROCK FESTIVAL ’06〉に出演。2日目となる7月29日の〈GREEN STAGE〉に登場した彼らは、セットリストの最後に“虹”を選択する。この日のステージは、初っ端から“N.O.”“Shangri-La”を立て続けに演奏し、終盤には“富士山”を披露するなど、これまでの集大成とも言えるパフォーマンスだった。そのラストを飾った“虹”では、卓球が気持ちよさげに機材を操作し、ピエール瀧がレーザー片手にグリーンの光線を観客たちに放ち、楽曲後半には10ccの名曲“I’m Not In Love”を想起させる美麗なピアノの旋律が鳴り響き、苗場の夜空の下に集ったオーディエンスたちを魅了していた。 

そんな〈FUJI ROCK FESTIVAL〉には、1997年の初回開催時から数多く参加してきた電気グルーヴ。そのなかで“虹”はたびたび披露されてきたこともあり、〈フジロッカー〉たちにとっては愛着が湧くナンバーに育っていったのではないだろうか。なかでも初のクロージングアクトを務めた〈FUJI ROCK FESTIVAL ’16〉では、アンコールを含めた最後の曲として“虹”をパフォーマンス、映画「未知との遭遇」でもおなじみの〈5音〉からなる交信メロディーを差し込みながら、フジロック20周年を祝う印象的なライブを展開してみせた。

そして、瀧の逮捕により電気の出演がキャンセルとなった〈FUJI ROCK FESTIVAL ’19〉には、卓球がDJとして出演する。基本的には自身のDJでは電気のナンバーをかけない卓球だが、このときばかりは多めにスピンし、加えてラストでは“虹”をセレクト。フジロッカーの間では、伝説とも言われているこのときの模様は、映画監督の大根仁による映像作品「DENKI GROOVE THE MOVIE 2? OFFICIAL TRAILER」のなかで確認できる。

さらに、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’19: Aftermovie〉でも“虹”が使用され、ザ・キュアーやケミカル・ブラザーズらのステージ映像のバックで感動的に鳴り響くそのサウンドは、ジャンル関係なく多くの音楽好きの心に〈七色の虹〉をかけてくれたはずだ。

90年代にテクノ界のアンセムとなった“虹”が、長い時間をかけて世代を超えて愛される一曲にまで成長。直近では、パソコン音楽クラブと柴田聡子がライブで”虹”をカバーした(スマイル全開で歌唱する姿が眩しすぎる)動画がSNSで大きな反響を呼ぶなど、令和の音楽シーンでもその魅力が失われることはない。想像してみよう、30年後の世界で“虹”にトリコじかけの明け暮れ(©根本敬)となる若い人たちのことを。音楽は続いていくはずだ。