アン・ヴォーグ、SWV、TLC、ブラウンストーン、エクスケイプ、702、カット・クロースなどなど。フィメールR&Bグループは数あれど、彼女たちの色とりどりに咲き誇った黄金期が90年代であることに異論はないはず。そこから20年を経たいまはもう、メインストリームを席巻できるようなグループが見当たらない……そうお嘆きの諸氏に強力に推薦したい4姉妹がいる。それがジャズミン・シスターズだ。
ナディア、フェリシア、セリア、ダリアから成るLA出身のチャイニーズ・アメリカン姉妹で、オーディション番組への出演やウェブ上での楽曲発表などを中心に積極的に活動してきた4人組。アジア系のR&Bアクトといえば韓国系のエイメリーや日系のミラ・Jとジェネイ・アイコなどがすでに活躍しているが、ジャズミン・シスターズ最大の特色は90年代への大胆なアプローチだろう。自分たちを〈4 Sisters、1 Voice〉と称するあたりは〈Sisters With Voices〉ことSWVを彷彿とさせるが、実際に4姉妹がR&Bフリークの間で話題になったのも、そのSWV“Weak”を引用した先行曲“You”からだった。ネタの強みだけでなく、パワフルなリードと美しいハーモニーが生む瑞々しさや、おきゃんな賑々しさも往時のムードを思い起こさせる同曲は、当のSWVのココやフェイス・エヴァンスらがTwitterで賞賛したほど。そんな評判を受け、このたび日本独自編集でリリースされるアルバムが『90's Baby』となる。
直球なタイトルが示すように、アルバムには他にもQティップの99年曲“Vivrant Thing”(99年)のビートを活かした“PYT”から、マライア・キャリーがスヌープ・ドッグ“Ain't No Fun”を引用した“Heartbreaker(Remix)”(99年)のリメイク、2パック“I Get Around”(93年)をメロウに仕立て直した“Cali Girls”、クレイグ・マック“Flava In Ya Ear”(94年)が下敷きのヒップホップ・ソウル“Valentine Heart”、スヌープ“Gin And Juice”(93年)を軽やかな替え歌で披露する“Laid Back”まで眩いほどの90年代リヴァイブが詰まっており、聴き進めるほどに顔がほころんでしまう。ただし、当然だがこれらはリアルタイマーによる懐古ではないということは特筆しておきたい。アリアナ・グランデのデビュー作『Yours Truly』で聴けた90年代ネタの数々にもニヤリとしたR&Bリスナーは少なくないだろうが、リトル・ミックスやシェール・ロイドらのポップ・アクトも同様のモードをエネルギッシュに披露しているし、R&Bシーンを見てもエリック・ベリンジャー(『90's Baby』の制作にも参加)やジネット・クローデット、オーガスト・リゴといった新進の才能が90年代から地続きのオーセンティックなR&Bを志向している。フレッシュな着想源として90年代R&Bをモチーフにした痛快なサウンドが、いままさに生まれ続けているのだ。
ジャズミン・シスターズをバックアップするのはミディ・マフィア。50セントからジャスティン・ビーバーに至るまで、数多のメジャー・ヒットを送り出してきた名プロデューサーだ。時代のモードに敏感であろう彼らが、いまこの4姉妹を送り出すことに意味を見出さずにはいられない。60~70年代ソウルを模したレトロ・ソウルの流行や80年代ブギー/ディスコ・ブームもいいが、そろそろ90年代モードの逆襲とオーセンティックなR&Bの復権の波も来ていい頃だろう。その嚆矢のひとつとして、ジャズミン・シスターズの快進撃が記されることを期待したい。
ジャズミン・シスターズ
ナディア、フェリシア、セリア、ダリアの4姉妹から成るLAのガールズ・グループ。幼い頃からゴスペルやジャズ、ソウルに親しみ、2000年代半ばより姉妹での活動を本格的にスタートする。地元を拠点にSNSでファンベースを拡大し、2008年に「America's Got Talent」「MTV's Top Pop Group」といったオーディション番組に出演。その後ミディ・マフィアと出会って彼ら主宰のファミリータイと契約し、2013年にデジタルEP『90's Baby EP』でデビューを果たす。今年に入ってファミリータイのコンピ『What Would You Do 4 Love』に参加。EPからリカットした“You”も話題を集めるなか、ファースト・アルバム『90's Baby』(Familytie/Manhattan/LEXINGTON)をリリースしたばかり。