解放と、無垢のマネタイズ。
むしろ、音楽はフリーだというのが新人類の実感だろうから、この映像が偶然ドキュメントしたフェスティヴァルの混乱は、今時の若者の胸をつくのではないだろうか。
映像が写す、ジョニ・ミッチェルの出演するワイト島のフェスティヴァルは、1968年に始まり69年、70年と続いた。過去二回のフェスにはボブ・ディラン、ザ・フーといったアーティストが参加。第三回の出演者は、マイルス・ディヴィス、ジミヘン、ドアーズらが参加した。65万もの妙な人!を集めてしまったことで、住民の不安を煽り、翌年、5,000人以上の人出が予想される夜通しの野外のイヴェントには(つまりこのフェスを名指しした)議会の事前承認が必要という法案が可決し、続行が困難で三回でアウト。悪法、ダンスなんとか法のようですな。
JONI MITCHELL ジョニ・ミッチェル/ワイト島のジョニ・ミッチェル 1970 ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス(2018)
今回、初出というジョニ・ミッチェルのステージの全てを観ると、そもそも解放の歌に導かれ会場である島を訪れた人々は、島を会場の外と中に二分する壁に愕然としフェスティヴァルという主催の姿勢に不満を抱いていたことがわかる。その異様な空気は当時、フェス開催年である68年にアルバムデビューしたばかりの、彼女のステージにも十分に伝わっていた。
ギターを弾き語り、ピアノやダルシマーを忙しなく爪弾く彼女が、〈落ち着いてみんな〉と呼びかける姿は痛々しい。が、4度に音を重ねる彼女の音楽の初期形は美しく、会場の外の聴衆を癒すかのような歌声にうっとり。そしてウッドストックに誘われた彼女が空港で足止めを食らって残念ながら出演できなかった時の、空港でフェスを思う気持ちを歌った名曲、“ウッドストック”が流れる。そんな歌をそんな時に歌ったらどうなるの。
1970年、あらゆる場所で解放と無垢を象徴し、自由を求める人々の力と合流する流体として音楽は認知され支持されてはいたが、すでに人々を集める道具として懐柔され、無垢もマネタイズされていた。