ニューアルバム『Columbo』を携えて、2023年8月7、8日に来日公演を開催したブルーノ・メジャー。親密な音楽を歌い奏で、力強くも温かい時間や空間をファンと共有した。そんな彼は、来日時にタワーレコード渋谷店でサイン会を開催した。Mikikiはその直前、会場になったタワレコ渋谷店6階のTOWER VINYL SHIBUYAで選盤を依頼し、各盤についてインタビューをおこなった。ブルーノ・メジャーの音楽観や作家性を構成する音盤とは? 彼らしい詩的な表現で、自身が愛する音楽への思いを、微笑みを浮かべながら語ってくれた。 *Mikiki編集部

BRUNO MAJOR 『Columbo』 Harbour/AWAL/BEAT(2023)

 

――あまり迷わずにアルバムを選ばれましたね。

「もっと時間がかかると思ったんだけど、目についたものを選んだらあっという間だった。この5枚のアルバムはオールタイムフェイバリット。自分の音楽が影響を受けているものばかりだよ」

1. The Beach Boys『Pet Sounds』

THE BEACH BOYS 『Pet Sounds』 Capitol(1966)

――では、順番に話を伺いたいと思います。最初に選んだのはビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』(1966年)です。

「ブライアン・ウィルソンが書くメロディーがすごく好きなんだ。どこか特別な場所に連れて行ってくれるような気がしてインスピレーションを受ける。ビーチ・ボーイズはフレッシュなアメリカ的アイドルバンドからスタートして、徐々にサイケデリックな方向にサウンドが変化。アーティストとして成長していった。『Pet Sounds』は、そうした変化の真ん中に位置するアルバムだと思う。

子供の頃にビーチ・ボーイズを聴いていたけど、彼らの音楽性を本当に理解したのは自分で曲を書くようになった20歳の頃だったね」

ザ・ビーチ・ボーイズの1966年作『Pet Sounds』収録曲“God Only Knows”

――そういえば、あなたの新作『Columbo』に収録されている“The Show Must Go On”の歌詞には『Pet Sounds』が出て来ますね。アルバムがLAでレコーディングされたことが影響しているのでしょうか。

「その通り。ビーチ・ボーイズは僕にとってカリフォルニアを象徴するバンドであり、サウンドだからね。愛車のコロンボ(新作のタイトルになったアイボリーホワイト、1981年製のメルセデス・ベンツ380SL)を運転しながら『Pet Sounds』を聴く、という情景を膨らませて“The Show Must Go On”が生まれたんだ。

それに『Pet Sounds』は誰もが知る名盤だから、タイトルが出た時に聴く人それぞれが『Pet Sounds』に対する思い出やイメージを膨らませることができるんじゃないかと思ったんだ」

『Columbo』収録曲“The Show Must Go On”

 

2. D’Angelo『Voodoo』

D'ANGELO 『Voodoo』 Cheeba/Virgin(2000)

――次のディアンジェロ『Voodoo』(2000年)も歴史に残る名盤です。

「ディアンジェロは〈自分をどのように表現するか〉を教えてくれたアーティストだ。彼の歌は独自の息遣いや痛みを持っていると思う。なかでも、このアルバムは彼の最高傑作だと思う。

ピノ・パラディーノがベースを弾いているけど、僕はこのアルバムを聴いてベースを学んだんだ。あと、ヒップホッププロデューサーのJ・ディラが参加しているんだけど、少しディレイさせたヒップホップ的なドラムを取り入れながらも、ヒップホップのスタイルにとらわれない面白いビートを作っている。サウンドプロダクションの作り方もディアンジェロから学んで自分の作品に取り入れているんだ」

ディアンジェロの2000年作『Voodoo』収録曲“Playa Playa”。ベースはピノ・パラディーノ

ディアンジェロの2000年作『Voodoo』収録曲“Left & Right”。クレジットされていないが、J・ディラがプロデュースに参加したとされる

――ご自身ではどんな風に曲を作り上げていくのですか。

「僕のやり方はすごく古典的で、曲は必ずピアノかギターで作る。その後、ボブ・ロス(アメリカの画家。1980年代にテレビ番組『ボブの絵画教室』で人気を集めた)のように、ひとつずつレイヤーを重ねていくんだ。この曲にはドラムが必要かもしれない。この曲にはシンセを、この曲にはコーラスを入れたほうがいいな、という風に、ひとつずつ音を肉付けしていく。頭の中にあるプランに沿って曲を作るというより、レイヤーを重ねながら完成させていくんだ」

――新作ではソウル色が増したように思えるのですが、R&Bやヒップホップはあなたにとって重要なルーツですか?

「R&Bやソウルは自分の音楽のなかで大きな部分を占めている。デビュー前、ロンドンに移り住んだ時に、セッションギタープレイヤーの仕事を得てバーで働き始めたんだ。そこでは毎週、R&Bナイトというのがあって、そこに集まった人たちがエリカ・バドゥやジル・スコット、ローリン・ヒルなんかの曲を歌うんだ。僕は現場で曲を聴き、10秒でコードを憶えてギターを弾いた。そこでかなりギタープレイを鍛えられたんだ。

(新作に収録されている)“Tell Her”という曲はシンガーソングライター的なバラードだけど、そこにR&Bやソウルの要素を混ぜることで自分らしい曲に仕上がっていると思う」

『Columbo』収録曲“Tell Her”