Laurie Anderson
©Ebru Yildiz

女性パイロット、アメリアにインスパイヤーされた二つの作品――ローリー・アンダーソンとジョニ・ミッチェル

 世の中には、聴いてみなければその美しさや力強さが伝わらない音楽がある。

 女性パイロット、アメリア・イアハート(1897-1937)の最後の飛行を題材にしたローリー・アンダーソンの新しいコンセプト・アルバムは、そんな音楽だと感じた。22の短いセクションに分かれた35分の音楽で構成されている。ローリーの主な楽器はヴァイオリンで、デニス・ラッセル・デイヴィス指揮のチェコの大編成のオーケストラとともに演奏している。アメリアのパイロット日記や夫に宛てた電報の言葉をナレーションし、世界を飛び回る女性が何を考えるかを想像して新しい言葉を書いている。この言葉は音楽の一部だ。聴くと頭の中で映画を想像することができる。弦楽合奏は中世の音楽を思わせることもあれば、現代音楽の室内楽を思わせることもある。効果音や彼女のヴァイオリンに電子エフェクトが使われているが、すべてが繊細だ。

LAURIE ANDERSON 『Amelia』 Nonesuch(2024)

 ローリーのファンでなかったとしても、この作品は好きになれる。 美しい。自由を感じさせてくれる。時には空を飛んでいるような気分にさせられる。

 アメリアについて音楽が作られたのはこれが初めてではない。彼女は一般的にフェミニストの象徴とみなされている。1928年8月、アメリアは女性として初めて単独で北米大陸を横断し、往復飛行した。1932年5月20日には、女性として初めて大西洋を単独無着陸飛行で横断した。名声が高まるにつれて、彼女は多くの高官、とりわけ大統領夫人のエレノア・ルーズベルトと親交を深めた。

 1937年、女性初の地球一周飛行を達成しようとしていたアメリアは、ナビゲーターのフレッド・ヌーナンとともに太平洋で消息を絶った。彼女はハワイに近いハウランド島に着陸するはずだったが、道に迷い、当時日本帝国が領有権を主張していた地域に入ったようだった。1937年は危険な年だった。日本軍はアジアへの侵略を拡大した。南京大虐殺があった年だ。

 アメリアの親族や夫を含む多くの人々は、アメリアが日本海軍に捕らえられ、スパイとして処刑されたに違いないと確信していた。1943年、アメリアの生涯を題材にしたハリウッド映画「自由への飛翔」が製作され、この説が展開された。この映画では、米海軍のグレイブス提督がアメリアを説得し、彼女の記録的な飛行に日本領上空を飛行するスパイ任務を含めるように説得する。それは米海軍がそこに隠された軍事施設を発見したためだった。戦後、彼女の夫はサイパンに行き、彼女が捕まった証拠を探したが、何もなかった。 そのため現在では、彼女は燃料を使い果たして海に消えたと考えられている。

Joni Mitchell
©Henry Diltz

 最近発売されたジョニ・ミッチェルのボックスセットには、“Amelia”の2つのヴァージョンも収録されている。1976年、ジョニは友人たちとアメリカを横断し、その後一人旅で戻ってきた。『Hejira』に収録されているほとんどの曲は、その旅で彼女独特のオープン・チューニング・ギターを使って書かれたものだ。ジョニは42種類のチューニングをギター用に作っている。多くは誰も作ったことがない音だった。そして、その歌詞はとても詩的で喚起的で、聴き手の世界への見方や感じ方を変えるものだった。ジョニはアメリカ横断単独旅行をしながら、アメリアを精神のアドヴァイザーとして感じていた。ジョニの歌はアメリアの旅を描写しているのではない。あまりにも独自の音楽のため、ジョニの音楽やコード進行を理解してくれる音楽家に中々出会えない一人旅をしていた。

JONI MITCHELL 『The Asylum Albums 1976-1980』 Rhino(2024)

 『Shadows And Light』に収録されている“Amelia”ライヴ・ヴァージョンでは、パット・メサニー、ライル・マイズ、ジャコ・パストリアス、マイケル・ブレカー、ドン・アリアスが素晴らしい演奏を披露している。このボックス・セットで歴史的な録音が聴ける。ジョニのユニークなスタイルにより、ここで彼女の演奏はパットやジャコと肩を並べる。

 アメリアの人生の物語は、時代によって異なる目的を果たす。今日、1937年前後の時代と同じように戦争の恐怖がある。平和を祈ろう。