Mikikiがいま、このタイミングで観て欲しい出演陣を揃えたショウケース企画〈Mikiki Pit〉が、去る9月8日に、東京・下北沢BASEMENT BARにて開催されました。出演したやなぎさわまちことまちこの恐竜、石指拓朗、阿佐ヶ谷ロマンティクス、福田喜充(すばらしか)がそれぞれ素晴らしいライヴを披露した当日のレポートを、お届けします!
福田喜充(すばらしか)
天候にも恵まれた〈Mikiki Pit Vol. 5〉、トップバッターはすばらしかのギター/ヴォーカル、福田喜充。予定していたすばらしかとしての出演から、急きょ福田の弾き語りへ変更となった形だ。ほぼ定刻通りにステージに登場した福田。挨拶をした後、〈ほかのメンバーはみんな食中毒になって出られなくなりました〉とはにかみながらオーディエンスへ伝えると、会場から笑いが起こる。
カルチャー誌「SWITCH」で取り上げられたり、直近では〈カクバリズムの夏祭り〉にも出演するなど、最新アルバム『二枚目』リリース以降、いっそう注目を集めるすばらしか。そのフロントマンを務める福田だが、ソロで弾き語りを披露するのは今回が初。ということで、一体何を演奏するのだろう?と期待していると、ライヴはブルースの定番曲“Mojo Workin'”からスタート。年齢不詳なオーラを放ちながらギターをかき鳴らしブルージーに歌いはじめると、会場にいる人々の視線を一気に集める。
大きな拍手が起こるなか、続いては日本が誇るブルース・バンド、憂歌団の76年のシングル“たくわん”をカヴァー。福田のヴォーカルやムードにピッタリ合っていたこの絶妙な選曲に、会場のヴォルテージは早くも最高潮に。名演であった。終盤は、『二枚目』の収録曲“試してみたい”ですばらしかファンを沸かせながら、ウィルコの2002年作『Yankee Hotel Foxtrot』の収録曲“Jesus, Etc.”へと繋げ、会場からは〈ウィルコ!〉と嬉しそうに叫ぶ声も聴こえた。
すばらしか同様、ふてぶてしい佇まいで現代のブルース・ロックを奏で、会場を大いに揺らせた貴重な初ソロ・ライヴ。福田の音楽家としてのポテンシャルの高さを確信させられた素晴らしいパフォーマンスだった(今後もぜひバンドと並行して活動していってほしい)。
阿佐ヶ谷ロマンティクス
すばらしかの福田喜充に次ぐ二番手は、ロックステディやレゲエの要素を採り入れた日本語ポップスを奏でる5人組、阿佐ヶ谷ロマンティクス。弾き語りの福田から一転、サポート・メンバー含む男女6人がステージに並ぶさまは、実に華やかだ。阿佐ヶ谷の〈同志〉的な存在であり、前回の〈Mikiki Pit〉に出演してくれたWanna-Gonnaのメンバーらの姿もフロアに見え、和やかなムードが場内に漂うなか演奏がスタートした。
1曲目は、今年の5月に発表したセカンド・アルバムより表題曲の“灯がともる頃には”を演奏。リリカルな鍵盤のタッチと、有坂朋恵の凛とした歌声が爽やかに弾むジャジー・バラードだ。その一方で、ゆるやかなリズムのなかにも、確かなグルーヴを感じさせるのが、彼らの強み。オーディエンスも気持ち良さように身体を揺らしている。そして、曲間を挿まないでの2曲目は、2017年の初作『街の色』収録曲“道路灯”。この日サポート・ギターとして参加していた、ふかいお兄さん(Healthy Dynamite Club)がファズの効いた強烈なギター・プレイを披露する。全体のアンサンブルとして徐々に熱量を高めていくこの曲は、会場全体を〈阿佐ヶ谷ロマンティクス色〉に染め上げた。
同じく前作収録の人気曲“所縁”を演奏し、最新作より“ほんの一瞬”へ。高音域を色香たっぷりに歌いあげる有坂のヴォーカルに魅了される。彼女の歌い手としての成長が、『灯がともる頃には』におけるポップソングとしての強度アップを導いたのだと再認識させられた。最後は“春は遠く夕焼けに”。MCで「今日は昼からすごく良い雰囲気になりますね」と言っていたが、柔らかなメロディーとバックビートが、休日の昼下がりを心地良く演出してくれたことは間違いない。
石指拓朗
早くも後半。三番手は新世代フォーク・シンガーとしてジワジワ支持を集める石指拓朗だ。Mikikiで掲載した、ファースト『緑町』(2015年)とセカンド『ねむの花咲く その下で』(2017年)のレヴュー記事がアクセス・ランキングの常連となり、その縁もあって実現した今回のライヴ出演。〈石指拓朗です、よろしくお願いします!〉と元気よく挨拶をしながら登場すると、爽やかな“朝”からパフォーマンスはスタートした。
ライヴの定番曲である同曲を、ときに力強く、ときに優しく歌い上げ、初っ端からオーディエンスを石指ワールドへ引き込むと、続けて“武蔵野”“君が住む街へ”と畳みかけていく。そして、〈1から10までバカみたい ついでに100までバカみたい 今日は本当馬鹿をみたみたい あとはもういい夢を見たい〉という印象的なフレーズから始まる、ちょっとダークな曲調の“バカみたい”を披露。一曲の中で表情や動作、歌い方をクルクルと変化させ、目も耳も楽しませていく、流石のエンターテイナーぶりだ。
ここで、〈ちょっと喋ることにしようかな〉とMCに。BASEMENT BARに出るのは久しぶりだと伝え、〈今日は呼んでもらえて嬉しいです、ギターを投げ出して走り出したいくらい(笑)〉〈昼帯のイヴェントなので終わった後もいろいろできていいですね。自分も終わったら1レースしにいこうかな〉などと軽快なトークで会場に笑いを誘い、ここ一番盛り上げた。
その後はハイテンションな“おうまさん”、情熱的に聴かせる“りんごのようなかわいい子”、しっとりとした“秋の風”と続けて演奏。そして〈お昼から飲みすぎないでね(笑)。最後まで楽しんで行ってください! ありがとうございました〉と言い、石指と言えばの人気曲“大人は損得、子どもは気楽”を力いっぱい歌い上げ、貫禄のステージを終了した。
やなぎさわまちことまちこの恐竜
7月にayU tokiOプロデュースによるセカンド・ミニ・アルバム『回転画』をリリースしたやなぎさわまちこは、バンド・セット〈やなぎさわまちことまちこの恐竜〉での出演。やなぎさわ(ヴォーカル/キーボード)とayU tokiOこと猪爪東風(ギター)に加え、SaToAの佐久間朋子(ベース)、杉之下将一(ドラムス)、deathmix(DJ/サンプラー)の5人編成だ。この日の〈まちこの恐竜〉、猪爪によれば〈第3期〉とのこと。
杉之下のパワフルなフィルインから、『回転画』収録曲の“q”でスタート。エレクトリック・ピアノと煌びやかな音色のシンセサイザーのフレーズが入れ替わり立ち替わり現れる、グル―ヴィーなポップ・ソング。続く“右往左往”は昨年作の『わたしの向こう側』より。ジャム・セッション感のある間奏では、なぜかホーン・セクションが聴こえてくる。と思ったら、deathmixのターンテーブルからの音だ(加藤和彦“アンティルの日”をサンプリング……?)。
そして、軽快な“パノラマ島”へ。バンドでの演奏を聴いて、80sニューウェイヴ由来の無国籍感と共に、なんとなしにビートルズっぽさが感じられた(特に、いろいろな実験を経てフィジカルなバンド演奏に回帰したゲット・バック・セッションやルーフトップ・コンサートのあたり)。続けて南国感たっぷりのエキゾ・ポップ“無い物ねだり”を演奏。海中を泳いでいるかのような猪爪のギター・ソロがサイケデリックなでアツい。
“愉快なしらせ”から、ラストではサディスティック・ミカ・バンドのメンバーとしても知られる今井裕が80年代にやっていたニューウェイヴ・バンド、IMITATIONの“わたしのすきな国”のカヴァーを披露(独特の詞は赤城忠治によるもの)。激マニアックな選曲だが、これが実にバンドのカラーにハマっている。終演後、どうしてバンド・メンバー全員がチャイナ服を着ているのかと訊くと、「チャクラへのリスペクトです」との答えが返ってきた。なるほど。