アイナ・ジ・エンドのソロ・デビューは亀田誠治のプロデュースによって自作の名曲を披露! 多方面で歌ってきた天性のヴォーカリストが改めて一人の女性として表現したものとは?

 両A面シングル『夜王子と月の姫/きえないで』のもう1曲は、アイナ・ジ・エンドのソロ曲“きえないで”。これはもともと彼女がBiSH加入前に〈アイナ〉として歌っていた自作のスロウ・ナンバーで、今回は亀田誠治のプロデュースによるセルフ・カヴァーといった趣に仕上がっています。

セントチヒロ・チッチ, アイナ・ジ・エンド 『夜王子と月の姫/きえないで〈AiNA THE END盤〉』 avex trax(2018)

 

トラウマと向き合った歌

――まず、PEDROの同時リリースを知った時はどう思いましたか?

「誰にも言ってないんですけど、何かあるのは気付いてました。〈最近アユニおかしいな、黙ってることあるな〉って半年ぐらいずっと思ってて。練習中も心ここにあらずみたいな時があったし、だから、“Life is beautiful”の振付けでアユニを大事な役にしたんです。〈見てるよ〉って意味で、振付けを通して繋がりたい気持ちだったんで」

――鋭いですね。じゃあ驚かなかった?

「はい。話を聞いた時は〈ああ、だからか〉みたいな。すぐに〈がんばってたね〉ってLINEしていろいろ気持ちも聞けたし、後からちゃんと目を見ても喋ったし、そこでモヤモヤが晴れましたね。今回アユニも同時に出ることに関しては〈もう、全部持ってけ〉って思ってます(笑)。BiSHとして考えたらアユニが勢いつけて目立ったほうがおもしろいし、それで私とチッチが悔しがってるとか思ってもらえたら(笑)」

――(笑)では、そのチッチさんのソロ曲は聴いてみてどうでしたか?

「心に響いてくるような、きれいな歌声で、〈あ、こういう感じなんだ、いいな~〉って。私のお父さんもゴイステとか銀杏がガチで好きなんですけど、そういう世代にとっての青春の曲を、いまの時代に繋げられるのは凄いし、それを自慢のチッチがやってるっていうのがカッコイイなって思いました」

――それに対して、アイナさんが今回“きえないで”を選んだのはなぜでしょう。

「BiSHになってからも何曲か勝手に自分で作ってて、最初は〈その中から出してみない?〉っていう提案だったんです。でもやっぱ、生まれて初めて作詞作曲して、思い入れが強い“きえないで”を出したくって」

――曲は常に作ってるんですね?

「そうですね。別に締め切りとかはないので、例えば自分の喉の手術前とか、人生の節目節目に作ってます。Logicを使うんですけど、よくわかってないんで、鼻歌で歌いながら〈このへんかな?〉みたいにコードを合わせて、実在しないアイナ・コードみたいなので勝手に作って(笑)、そこから趣味で音楽やってるような友達にギター入れてもらったりして遊んでます。それを最近モモカン(モモコグミカンパニー)に投げたら歌詞を付けてくれて、2人で遊びで曲作ったりしてますね」

――そうなんですね。では、“きえないで”を作った節目の心情は覚えていますか?

「めっちゃ覚えてます。18歳の時なんですけど、泣きながら作りました。もともと男性に対するトラウマがあったんですけど、その時に出会った人がいて、その彼のおかげで男の人って怖くないんだって思えるようになったり、いろんな感謝があって。その人とお別れする時に書いた歌ですね、〈生きていてほしいな〉って」。

――そういう背景を知らなくても伝わる、生々しいものがあります。〈夜の肌色〉って何だろう?とか。

「生々しい(笑)。まあ、そうですね。〈こんなこと考えてたんだな〉っていうか、何か可愛いですよね」

――その頃より大人になれていますか?

「なったんじゃないですかね。でも、変わってないんです、気持ちは。恋が終わるのはいいことだと思うし、いまだに。骨って形も一緒じゃないですか? 生きてる間だけ見た目にこだわったり個性がどうとか言うけど、どうせ死んだらみんな同じ形になるのに……そういう気分で書いてるので、〈恋が終わってもどうせ死んだら一緒なんだし、会えるじゃん〉みたいな。そういう死生観みたいなものは変わらないです。2年ぐらい前に私の親友が〈お母さんが亡くなった〉って電話してきて〈“きえないで”歌って〉って言われたことがあって、その時に何も言われへんくて、震えて歌えなかったのが心残りだったんですけど」

――先日のドキュメンタリー『SHAPE OF LOVE』でも触れられていたお友達のMaho Korogi(写真家)さんの話ですね。

「そうです。裏側では自分のトラウマみたいなものと向き合ってる歌なので、そういうのを感じてMahoは〈歌って〉って言ったのかなって。だから、今回はMahoに一番に届けたいなって思いで歌いました。そんだけ強い気持ちで曲に向き合ったら、きっと他の誰かの心にも響くだろうって自信があったので」