リッカルド・クロッシーラ

2025年3月24日(月)に東京・銀座ヤマハホールで開催される〈珠玉のリサイタル&室内楽 リッカルド・クロッシーラ&アレッサンドロ・ベヴェラリ クラリネットデュオ・リサイタル〉。一流クラリネット奏者2人が故郷イタリアの名曲を中心に奏でる公演だ。コンサートの開催を目前に控えた今、見どころを音楽ジャーナリストの池田卓夫に紹介してもらった。 *Mikiki編集部


 

名門オーケストラに所属する、息の合った師弟デュオ

1967年にパレルモ(シチリア)で生まれたフィレンツェ五月音楽祭(マッジォ)劇場管弦楽団首席奏者リッカルド・クロッシーラと、1988年にヴェローナで生まれた東京フィルハーモニー交響楽団首席奏者アレッサンドロ・ベヴェラリ。年齢差21歳のイタリア人クラリネット奏者2人が春の東京で出会い、日本人ピアニストの小澤佳永と銀座のヤマハホールで共演する。

先ずは2人が所属するオーケストラに注目していただきたい。音楽と演劇が一体になったオペラという芸術を1597年に誕生させた街、トスカーナ地方の中心地フィレンツェの歌劇場はヴィットーリオ・グイが首席指揮者だった時代の1933年に〈フィレンツェ五月音楽祭(マッジォ・ムジカーレ・フィオレンティーノ)〉を立ち上げた。〈歌劇場のオーケストラであってもシンフォニー演奏会を高い水準で行わなければならない〉としたグイの理念は、今日も受け継がれる。特に2017年まで32年間も首席指揮者を務めたズービン・メータの下で演奏能力を飛躍的に高め、劇場の名称もフィレンツェ五月音楽祭劇場と改めた。クロッシーラはメータに採用され、行動をともにしてきた。

一方、東京フィルは名古屋の少年音楽隊時代から数えれば114年の歴史を持つ〈日本最古のオーケストラ〉であり、定期演奏会も都内3か所で開き続けているが、新国立劇場や二期会、藤原歌劇団などのピットへ最も頻繁に入るオペラのスペシャリストでもある。現在の首席指揮者はベヴェラリと同じくヴェローナ出身で1歳年長のアンドレア・バッティストーニ。2016年に就任した翌年、ベヴェラリが首席クラリネットに加わった。オペラのピットでも定期公演でも、彼の表情豊かなソロの魅力は際立っている。

マッジォ管弦楽団、東京フィルとも〈オペラのオーケストラでありながら、シンフォニーコンサートを高い水準で続ける〉という特色を共有する上、クロッシーラとべヴェラリは師弟の関係にある。間違いなく、ものすごく息の合ったデュオを期待できる。

 

アレッサンドロ・べヴェラリ

クラリネットの魅力をとことん極める一夜

プログラムはヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」やプッチーニの「トスカ」などイタリアオペラのテイストを前面に打ち出した編曲作品やフェルッチョ・ブゾーニ、ニーノ・ロータらイタリア人作曲家の器楽作品、クルーセル(スウェーデン系フィンランド人)やメンデルスゾーンによるクラリネット演奏会の定番作品などで構成した。

オペラの主役が人間の声である事実が揺らぐことはないが、クラリネットが負けず劣らず重要な役割を演じる場面もある。最も印象的な楽曲の1つは今回のコンサートでも聴ける「トスカ」第3幕、警視総監スカルピアによって死刑囚として聖アンジェロ城の牢獄に送られ、処刑を待つ画家&革命家のマリオ・カヴァラドッシが看守の許しを乞い、恋人の歌姫フローリア・トスカに宛てた辞世の手紙をしたためる場面で歌うアリア“星は光りぬ”だろう。テノールの独唱が始まるまで、かなり長い前奏のソロを担うのがクラリネットだ。筆者は1996年9月にローマ歌劇場のチームが日本で「トスカ」を舞台上演した時、ピットから聴こえてきたイタリア人のクラリネット首席奏者のソロの色っぽさに度肝を抜かれた記憶がある。同行した日本人スタッフの証言ではこの首席、かなりのベテランなのに美女を見かけると、すかさず声をかけていたという。さすが!

今回、“トスカ幻想曲”はベヴェラリのクラリネットと小澤のピアノの組み合わせだが、クロッシーラも2011年3月のテアトロ・マッジォ日本公演で「トスカ」のピットに入っていた。レパートリーが重なる師弟の共演&饗宴は歌う楽器、クラリネットの魅力をとことん極める一夜となるだろう。

 


LIVE INFORMATION
珠玉のリサイタル&室内楽
リッカルド・クロッシーラ&アレッサンドロ・ベヴェラリ クラリネットデュオ・リサイタル

2025年3月24日(月)東京・銀座 ヤマハホール
開場/開演:18:30/19:00
出演者:リッカルド・クロッシーラ、アレッサンドロ・ベヴェラリ(クラリネット)、小澤佳永(ピアノ)
料金(税込):一般4,000円/学生3,000円(全席指定)
主催:ヤマハ株式会社ヤマハホール

■注意事項
※都合により出演者、曲目が変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください
※未就学児のご入場はご遠慮いただいております
※チケット料金には消費税が含まれております

■プログラム
G. ヴェルディ=L. バッシ/歌劇「イル・トロヴァトーレ」の主題によるディヴェルティメント[クロッシーラ、小澤]
E. カヴァッリーニ/アダージョとタランテラ[ベヴェラリ、小澤]
B. クルーセル/2つのクラリネットとピアノのためのアンダンテとアレグロ・ヴィヴァーチェ[全員]
C. d. ジャコマ/トスカ幻想曲 Op.171[ベヴェラリ、小澤]
F. メンデルスゾーン/演奏会用小品 第2番 ニ短調 Op.114[全員]
F. ブゾーニ/クラリネットとピアノのためのエレジー[クロッシーラ、小澤]
F. ブゾーニ/組曲 BV88[ベヴェラリ、小澤]
N. ロータ/クラリネット・ソナタ ニ長調[クロッシーラ、小澤]
A. ポンキエッリ/イル・コンヴェーニョ[全員]

■チケット情報
チケットぴあでのご予約・お申し込み
WEBからのお申し込み ※座席選択可能
Pコード:291-228
発売日:2025年1月25日(土)
座席種別:指定席

■お問い合わせ
ヤマハ銀座店
TEL:03-3572-3171(ヤマハ銀座店 インフォメーション)
営業時間:11:00~18:30
定休日:毎週火曜日(祝日の場合は営業いたします) ※2025年3月31日(月)は休業いたします。
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座7-9-14
アクセス:https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza.html#access

イベント詳細:https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza/hall/event/detail?id=6436

 


PROFILE: RICCARDO CROCILLA
1967年、パレルモ生まれ。ジェノヴァのパガニーニ音楽院でG. ラルッチャに師事。若くして優秀な成績で卒業後、G. ガルバリーノやT. フリードリーと共に活動。カリアリ、ジェノヴァ、トリエステ、ローザンヌのオーケストラやオペラ劇場で第1クラリネット奏者を務め、1996年以降、指揮者Z. メータの率いるフィレンツェ五月音楽祭管弦楽団で首席クラリネット奏者を務める。また、M. W. チョン、L. マゼール、R. ムーティ、W. サヴァリッシュ、G. シノーポ、小澤征爾ら世界的指揮者やイタリア国営放送(RAI)交響楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団など世界の一流オーケストラと共演。室内楽奏者としても、トリオ・ディ・パルマ、アンドラーシュ・シフ率いるカペラ・アンドレア・バルカなど著名な国際的アーティストと共演し、世界中でツアーを行っている。さらにシエナのギジアーナ音楽院、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭、ザルツブルグ・モーツァルト・ウィーク、ウィーン楽友協会、アレーナ・ディ・ヴェローナ、ヴェネチア・フェニーチェ劇場などの権威ある音楽祭や世界の主要なコンサートホールでの公演に出演してきた。ソリストとしても、フィレンツェのヴェッキオ宮殿でのZ. メータ指揮によるモーツァルトのクラリネット協奏曲やエミリア・ロマーニャ音楽祭、ミッテル・フェスト、リュブリャーナ音楽祭に出演するなど精力的に活動している。傑出した若きイタリア人演奏家としてガリレオ2000賞を受賞。これまでにアーツ・レコード、コロムナ・ムシカ、NBBレコード、イディリウムでレコーディングを行っている。

PROFILE: ALESSANDRO BEVERARI
1988年、ヴェローナ生まれ。9歳よりクラリネットを始める。2009年、ヴェローナE. F. ダル・アバコ音楽院を最高得点で卒業。2008年にヴェローナを代表するオーケストラ、アレーナ・ディ・ヴェローナとモーツァルトのクラリネット協奏曲でデビュー。2009年から2011年、G. ニコリーニ音楽院(イタリア・ピアチェンツァ)でパオロ・ベルトラミーニの薫陶を受ける。2010年から2011年、リッカルド・クロッシーラに師事。2012年から2016年にかけジュネーブの高等音楽学院〈Haute Ecole De Musique〉でロマン・ギュイオに師事、修士号を取得。2016年よりローマ・サンタ・チェチーリア音楽院でアレッサンドロ・カルボナーレに師事。イタリアの主要クラリネットコンクールのほとんどを受賞する。ベヴェラリの得意分野の一つは室内楽で、ピアニスト石井美由紀ほかのアンサンブルでの共演も定期的に行っている。ヴァレリー・ゲルギエフ、準・メルケル、アンドリス・ポーガ指揮による演奏でパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌にも参加した。2017年より東京フィルハーモニー交響楽団首席クラリネット奏者に就任、東京在住。近年はマルコ・フィオリンド国際クラリネット・コンクール(トリノ)、東京音楽コンクール、アウディ・モーツァルト・クラリネット・コンクール(ロヴェレート)で優勝、第4回ジャック・ランスロ国際コンクール(横須賀)で優勝、聴衆賞、浜中賞を受賞した。2019年はチャイコフスキー国際コンクール管楽器 (木管楽器・金管楽器)部門で第3位。レオシュ・ヤナーチェク国際コンクールで第1位。

PROFILE: 小澤佳永
小学生から高校生まで父親の仕事でアメリカ合衆国、イリノイ州にて過ごす。帰国後、名古屋市立菊里高等学校音楽科、東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を経て同大学大学院修士課程ピアノ専攻修了。現在、同大学管打楽科演奏研究員。第25回ヴィオッティ・ヴァルセジア国際ピアノコンクール(イタリア)で第3位を受賞。第55回ヴィオッティ国際音楽コンクール(イタリア)のセミファイナリスト。ジュラ・キシュ国際ピアノコンクール、ペトロフピアノコンクール、町田ピアノコンクール、バッハコンクールで第1位を受賞。ペオリア交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団と協演。中日賞を受賞。第90回日本音楽コンクール特別を賞受賞。サントリーホール室内楽アカデミー第1-3期生。サントリーホールの〈チェンバーミュージック・ガーデン〉に出演。イタリアのキジアーナ音楽院マスタークラスを奨学特待生として受講、選抜コンサートに出演。日本木管コンクール、宗次エンジェルヴァイオリンコンクールにて公式伴奏者を務める。