©YOKO SHIMAZAKI

野平一郎プロデュース!
第2弾となる今年も充実の内容で開催決定!

 コンテンポラリー・ミュージックを限られたマニアだけでなく、より多くの音楽ファンに楽しんで欲しいとの想いから、2024年に始まった東京文化会館の〈フェスティヴァル・ランタンポレル〉。2回目となる今年は、11月13日から17日の5日間に計6公演が行われ、フランス、ニームのレ・ヴォルク音楽祭やパリのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)とのパートナーシップにより実現した、多彩なプログラムが展開される。

 今年のキーパーソンは、マルティン・マタロン(1958〜)とジョージ・ベンジャミン(1960〜)、ふたりの作曲家である。マタロンはアルゼンチンのブエノスアイレス出身、ベンジャミンはイギリスのロンドン生まれだが、ともにピエール・ブーレーズがその才能を認めた逸材であり、IRCAMでの活動を通して数多くの作品を生み出してきたという共通点を持つ。

 フェスティヴァルは11月13日の〈トークセッション〉で幕を開け、東京文化会館音楽監督で、この音楽祭の旗振り役を務める作曲家の野平一郎が、マタロンとディープな現代音楽談義を展開する。また11月16日にはマタロンのマスタークラスも予定されており、これらのイヴェントは彼の美学を深掘りする貴重な機会となる。

 11月14日の〈IRCAMシネマ〉では、〈チャップリン・ファクトリー〉と題して、チャーリー・チャップリンのサイレント映画3作品、「放浪者」(1916)、「舞台裏」(1916)、「移民」(1917)をマタロンの音楽とともに上映する。歴史的なサイレント映画に現代の作曲家がフィルム・スコアを書き下ろすプロジェクト〈IRCAMシネマ〉は、コンテンポラリー・ミュージックをまだ体験したことのない、新しい聴衆を呼び込むうえで、野平が特に重視する企画である。昨年の〈フェスティヴァル・ランタンポレル〉でも、平野真由の電子音響音楽と衣笠貞之助の「狂った一頁」(1926)のまさにランタンポレル(時代を超えた)なコラボレーションが大きな反響を巻き起こした。マタロンはサイレント映画のための作曲に大きな関心を寄せている音楽家であり、フリッツ・ラングの傑作「メトロポリス」(1927)のフィルム・スコアでも高く評価されている。今回の上映では、アコーディオンとパーカッションによるアンサンブルTrio K/D/M(トリオ・カデム)にIRCAMの電子音響チームが加わり、マタロン自身が指揮台に立つ。アメリカ社会が大きく分断される今、改めて注目すべき作品である「移民」をはじめ、チャップリンの名作をマタロンの音楽がどのように現代に同期するのか、大いに期待したい。

 11月15日にはTrio K/D/Mの演奏会も開催され、マタロンが彼らのために作曲した“KDMフラグメンツ”や、マタロンのもとで学んだフランス生まれの作曲家、アンヌ・カステックスの“ボード・ゲーム”(世界初演)、日本のみならず、欧米でも作品が高く評価されている酒井健治の“アストラル/クロモプロジェクション”などが演奏される。アコーディオンとパーカッションが織りなす新たな音響を存分に堪能したい。

 ベンジャミンの音楽は、モーツァルトの作品とともに紹介される。これは〈フェスティヴァル・ランタンポレル〉が提携する〈レ・ヴォルク音楽祭〉が、現代の作曲家の作品と、その作曲家が敬愛する作曲家の作品を組み合わせてプログラムを構成することに倣ったものである。ベンジャミンの作品といえば、2019年に〈サントリーホール サマーフェスティバル〉で上演されたオペラ「リトゥン・オン・スキン」が日本の音楽ファンに鮮烈な印象を残したが、今回取り上げられるのは室内楽とピアノ独奏作品である。

 11月16日の室内楽公演では、〈レ・ヴォルク音楽祭〉芸術監督を務めるヴィオラ奏者、キャロル・ロト=ドファンと東京音楽コンクールの歴代入賞者たちが共演。ヴァイオリンの篠原悠那、福田麻子、ヴィオラの田原綾子、チェロの上村文乃、加藤文枝、西田翔、コントラバスの白井菜々子、水野斗希、メゾ・ソプラノの花房英里子といった、日本のクラシック音楽シーンの第一線で活躍する若き名手たちが一堂に会する。指揮者の馬場武蔵は、ドイツで研鑽を積み、コンテンポラリー・ミュージックの領域で目覚ましい成果を挙げる期待の新鋭であり、ヨーロッパの作曲家たちからも厚い信頼を寄せられている。メゾ・ソプラノと7人のアンサンブルによって演奏されるベンジャミンの“沈黙に”は、音楽祭のハイライトのひとつになるだろう。

 音楽祭の最後を飾る11月17日の公演には、人気、実力ともに日本を代表するピアニストのひとりである福間洸太朗が出演し、モーツァルトのソナタ第12番(K. 332)やソナタ第17番(K. 570)、ベンジャミンの“シャドウラインズ”などを披露する。パリでの留学時代にコンテンポラリー・ミュージックの魅力に開眼し、20世紀の古典から存命作曲家の新曲に至るまで、幅広いレパートリーに取り組んできた福間は、ベンジャミンの作品の紹介者としてぴったりのピアニストである。福間のピアノ演奏やモーツァルトの作品に惹かれて会場に足を運んだ人にも、ベンジャミンの音楽の魅力を、その繊細なタッチで丁寧に教えてくれるに違いない。

 


LIVE INFORMATION
 「野平一郎プロデュース フェスティヴァル・ランタンポレル Festival de l'Intemporel ~時代を超える音楽~」 第2弾

2025年11月13日(木)~17日(月)東京文化会館

フェスティヴァル・ランタンポレル トークセッション
2025年11月13日(木)小ホール
開場/開演:18:30/19:00

■出演
マルティン・マタロン、アントニー・ミエ、野平一郎 ほか

IRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」~現代音楽と無声映画のコラボレーション~
2025年11月14日(金)小ホール
開場/開演:18:30/19:00

■上映映画
「放浪者」(1916年)、「舞台裏」(1916年)、「移民」(1917年)
監督:チャーリー・チャップリン 出演:チャーリー・チャップリン 他
作曲:マルティン・マタロン
(2024年IRCAM-Centre Pompidou, the Compagnie Cadéëm, the Centre Henri Pousseur 委嘱作品)

■出演
指揮:マルティン・マタロン
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ、エティエンヌ・デムラン
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー ほか

Trio K/D/M(トリオ・カデム)~アコーディオン&パーカッションアンサンブル~
2025年11月15日(土)小ホール
開場/開演:17:15/18:00

■出演
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー

マルティン・マタロンによるマスタークラス
2025年11月16日(日)大会議室
開始:11:00

キャロル・ロト=ドファン(ヴィオラ)&東京文化会館チェンバーオーケストラ・メンバー ~モーツァルト&ベンジャミン~
2025年11月16日(日)小ホール
開場/開演:14:15/15:00

■出演
ヴァイオリン:篠原悠那*、福田麻子*
ヴィオラ:キャロル・ロト=ドファン、田原綾子*
チェロ:上村文乃*、加藤文枝*、西田翔*
コントラバス:白井菜々子*、水野斗希*
メゾソプラノ:花房英里子*
指揮:馬場武蔵
(*東京音楽コンクール入賞者・入選者)

福間洸太朗ピアノ・リサイタル~モーツァルト&ベンジャミン~
2025年11月17日(月)小ホール
開場/開演:18:15/19:00

■出演
ピアノ:福間洸太朗

https://www.t-bunka.jp/info/26043/