名うてのプレイヤーが集まった3人編成のオーケストラ、3年ぶりの3作目をついに完成! シンプルで素朴な美しさをアーティスティックに最大化するアンサンブルの前にはまた新たな景色が広がっている……

 「素朴さ(primitive)と音楽アンサンブルの最大形態(orchestra)の単語を同居させたバンド名を掲げた頃から、コートのポケットの隅っこから宇宙の果ての景色まで想像させられるような音楽を作っていきたいと思ってきました。ここまでの歩みのなかで〈景色を想像させる〉というコンセプトは聴き手に伝わってきていると思います」。

 PRIMITIVE ART ORCHESTRA(以下PAO)結成時のコンセプトを、森田晃平(ベース)はそう語る。bohemianvoodooの木村イオリ(キーボード)、TRI4TH/LOST NAME/2DRUMS JAMの伊藤隆郎(ドラムス)、セッション・プレイヤーとして活躍する森田という、ジャズ~インスト界のニューウェイヴを担う俊英が2011年に集まり、「当初はスタンダード・ジャズを練習するバンドだった」(木村)のが、各々の多様な活動を経てここまで有機的な変貌を遂げてきた。

 「ジャズという音楽自体が、ある意味無形で日々流動的に変化していくもので、数ある音楽のなかでもっとも多岐に渡っているジャンルだとも思うので。そこに自分たちの居場所を探すのは難しいのですが、流行や時代に流されずにお互いの声を聞き合って、自分たちらしい音楽を発信し続けていけたらいいなと思います」(森田)。

PRIMITIVE ART ORCHESTRA ARTIFACT Playwright(2018)

 その〈自分たちらしい音楽〉と自賛する、3年ぶり3作目のアルバムが『ARTIFACT』。〈工芸品/芸術品〉を意味する表題通り、スタンダードに根差した端正なプレイ、強力なリズムにエフェクターを駆使したロックやソウルのエッセンス、ミニマルなダンス・ミュージックの手法も取り込んだ、実に精巧な手作りによる逸品だ。

 「今作は3人だけで、ダビングも少なく比較的シンプルなトリオ・サウンドになっていますが、3人の音楽家が集まり素の姿で一枚のアルバムを完成まで導く、というコンセプトはありました」(木村)。

 「『ARTIFACT』には〈art〉〈i〉〈fact〉という3つの単語が含まれていて、〈芸術と自分が向き合った結果生まれる事実〉という感じに言葉を解釈していて。いつかこのバンドで曲名とかタイトルに使いたいと思っていました」(森田)。

 アルバムは、MVも作られた2曲“Autumn Lover”“Gardenia”で華やかに幕を開ける。特に後者は軽やかなリズムの躍動感、切なさをたっぷりと含む美しい旋律が耳を離れない、メンバーもイチ押しの自信曲だ。

 「昨年の夏前ごろ、道を歩いていて目にしたクチナシの花の美しさや香りをテーマに作曲しました。とても幸福な花言葉を持つ花なので、聴いてくれた人が幸せになってほしいという願いも込めた曲です」(木村)。

 「最初にスタジオで合わせた時、これは名曲が来たな……と。お客さんの前で披露する前から手応えを感じていました」(伊藤)。

 シティー・ポップ風のグルーヴが心地良い“Ocean”や、ラテン・ハウスを感じる“Neuron”、レゲエ/ダブっぽい“Anthology Dub”、ドラムンベース的にアレンジされた“Moon River”のカヴァー、とサウンドの幅は以前の2作を遥かに上回る。

 「今作はヴァリエーションに富んだ楽曲が集まっているんですが、バラード的な曲、アッパーで踊れる曲、メロディアスに聴かせる曲、どれを取ってもこの3人が集まって音を出せばPAOの音楽になると思っています」(伊藤)。

  “Autumn Lover”“Waiting for Spring”と、季節を示す表題に和風情緒を盛ったり、森田が幼い娘のために書いたという“Tiny Wave”のように童謡を思わせる簡素なメロディーがあったり。精鋭が集うPlaywrightのなかでも、旋律の美しさ、切なさ、色彩豊かなアンサンブルを楽しむなら、真っ先にPAOをお薦めしよう。

 「活動ペースはゆっくりではありますが、3人の人生の一部として大切に守っていきたいバンドです。時間の経過と共にまた、さまざまな進化をお見せできるはずです。Motion Blue YOKOHAMAでのリリース・ライヴ(11月22日)では、アルバムの世界を余すところなく生演奏で表現しますので、ぜひ足をお運びいただきたいです」(木村)。

関連盤を紹介。