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宮沢賢治の名作のサウンドトラックが、33年ぶりに特別版としてリリース! 貴重な未発表音源も!

細野晴臣 銀河鉄道の夜・特別版 テイチクエンタテインメント(2018)

 アニメーション『銀河鉄道の夜』にふれているなら、そこに描きこまれている宇宙観をより拡大するものとして。細野晴臣の聴き手であれば、音楽家の奥深さをかいまみるものとして。かつてサウンドトラック盤を聴いたときそう感じたし、今回ひさびさに、しかもいくつもの未発表トラックを知って、より確信をつよくした。

 こんな曲があったっけ?とか、アレは収録されていない?とか、おもったりしたこともある。いまは映画とはべつの、音・音楽によってこそ可能な、ことばや映像がふれていなかった、とりこぼしていたかもしれないものが、ある。そうおもう。ティン・パン・アレーやYMOではかならずしもみえていなかった細野晴臣のなかにあるものが、宮澤賢治原作を色のついた猫たちを主人公に、エスペラント語が記されたどこともしれない町を舞台とする映画に、音楽をプラスするなか、あらわれている。リズムの、ビートのグルーヴではなく、ひとつの音がのびてゆくなか、あ、こんな音、あんな音、倍音が、微分音が、と文字どおり〈天の河〉の星々に気づくように、音・音楽の、サウンドのあつみ、テクスチュアを体感する。それは、映画に、また原作にこめられていたものなのはもちろん。他方、リズム前面にでてくる曲では、節まわしの旋法やテンポの変化、またテンポそのものの、遅いがゆえの独自のグルーヴが、現実ならどこにもない、しかし映画のなかならかならず地つづきにある〈どこか〉のフォークミュージック/民俗音楽としてひびく。

 『銀河鉄道の夜』は85年、『Making of NON-STANDARD MUSIC』や『S-F-X』と重なる、細野晴臣、はじめての映画の音楽だった。この時期、坂本龍一はすでに『戦場のメリークリスマス』(83年)を、高橋幸宏は『四月の魚』(84/86年)を手掛けていた。これらを同時代のものとして、映像と音・音楽、電子的な音づくりとしてみてみると、それぞれのつながりとずれもあらためて。