空間との対話、伝統との対話

 恩田晃は2000年以降、ニューヨークを拠点に活動しているが、近年では「国際舞台芸術ミーティング in 横浜(TPAM)」の音楽プログラムでディレクターを務めるなど、日本でもさまざまに活動を展開している。特に、鈴木昭男とのパフォーマンスは、ここ数年さまざまな場所で行なわれており、継続的なコラボレーションとなっている。また、2013年のブリュッセルでのパフォーマンスを記録したCD『ma ta ta bi』が、2014年にリリースされている。

鈴木昭男,恩田晃 KE I TE KI ROOM 40(2018)

 ROOM40からリリースされるふたりの新しい作品は、2015年に、ニューヨークのエミリー・ハーヴェイ財団で行なわれたパフォーマンスを収録したものだ。それは、フルクサスの創始者、ジョージ・マチウナスがかつてスタジオとして使用していたロフトであった。また、ナムジュン・パイクや久保田成子もおなじ建物に住んでいたことがあり、さらには、ヨシ・ワダが配管工事を行なったという、ニューヨークの前衛芸術文化における歴史的な場所であり、マチウナスがニューヨークに最後に作ったアーティスト共同体だった。そんな場所がこの録音に影響を与えていないわけがない、と恩田は言う。

 パフォーマンスとそれが行なわれる場所との関係とは、たとえば空間的なある特徴的な音響特性を持った場所がパフォーマンス自体に影響を与えるということもあるが、むしろ、歴史的背景を持った場所として、パフォーマーと精神的なフィードバックを起こす。

 そこでふたりは、演奏家と聴衆の領域が入り混じった、あらゆる方向から音が聞こえてくる無指向性の空間を設定し、空間との対話を開始する。と、同時に、ニューヨークの前衛芸術の伝統との対話が行なわれる。録音は、恩田のカセットテープやエレクトロニクスなどのノイズと鈴木の演奏を有機的にミックスすることに成功している。鈴木の提案によるという、「警笛」という、らしからぬタイトルが自身をより追い込むためのものであるということを考えながら聴いた。