インタビュー

birdと冨田ラボが向かった〈音を目で見る〉時代の歌、リズム

デビュー20周年の新作『波形』を語る

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ソランジュ新作にも通じるシンガー・ソングライター性

――僕は今回の『波形』を聴いて、率直な印象として〈シンガー・ソングライターのアルバムみたいだ〉って思ったんです。ただ、イメージしたのは、70年代の有名な人たちというより、現代のジャズ・シーンから出てきた自分で曲を作って歌う海外の女性シンガー・ソングライターたち。リズムのなまりとかジャズ的な妙味を取り入れつつも、歌いたいことや、言葉と音楽の関係を新しく作ろうとしている人たちが、自分はいま気になっていて、そことの通じ合いを感じました。

冨田「そう聴こえているんだったら、すごく嬉しいですね。すこし前にソランジュが新作『When I Got Home』を出したじゃない? クレジットはまだ見ていないけど、ソランジュの作品はシンガー・ソングライターっぽく聴こえるんですよ。お姉さん(=ビヨンセ)のようないわゆる歌姫的な存在だと、たくさんのミュージシャン、スタッフが参加したプロダクトになるというか、素晴らしい作品なのは間違いないんだけど、ソランジュの作品はそことは違っている。

参加人数の多数に関わらず制作コンセプト次第なんだけど、ソランジュのはパーソナルな表現に感じられるよね。ソランジュみたいな作品のほうが僕は聴いていて楽しいし、シンガーが自分で歌いたいことややりたい表現があって歌っているほうがポップスとして訴求すると思う。いつもそう意識しているわけじゃないけど、いまはなるべくそう聴こえてほしいなと思いながら、自分では作ってる気がします」

bird「私も、そう聴こえたのは嬉しいです」

ソランジュの2019年作『When I Got Home』収録曲“Almeda”
 

冨田「『Lush』のときも最初にやった曲”Wake Up”は詞先だったでしょ? 〈どういうアルバムにしようか〉と話し合うよりも、最初に歌詞をもらうというやり方は気に入っていて。そこにはいろんな情報が詰まってるから、それをメロディーにして、次にbirdさん自身の声で歌ってもらう。アルバムの出発点としてはそれ以上のやり方はないと思います。さっき松永さんがおっしゃったシンガー・ソングライター感みたいなことも、出発点がbirdさんの言葉であることも大きいと思うんですよ。それなしに、僕が〈いまはこういうサウンドなんだから〉って主導していたら、シンガー・ソングライター感はもしかしたら薄れたかもしれないね」

――ちなみに、『Lush』はbirdさんと冨田さんの2人だけで作ることがテーマの作品でもありましたが、今回はKASHIFさん、江﨑文武さん(WONK)、角田隆太さん(ものんくる)という3人、birdさんも加えれば4人、冨田さん以外の作曲者が参加しています。

bird「今回のテーマで曲を書いてくださる方を探していて、KASHIFさんは以前にイヴェントでご一緒して、彼のアルバム『Blue Songs』(2017年)を送っていただいたんですよ。それを聴いてかっこいいと思ったので、 “ミラージュ”を作っていただきました。WONKも以前からアルバムを聴いてたんですが、いま江﨑(文武)さんが冨田さんとバンドをやってらっしゃるので1曲(“GO OUT”)お願いしました。ものんくるの角田(隆太)さんも〈書きます〉と言ってくださって。KASHIFさんと江﨑さんは曲先だったんですが、角田さんからは〈まず言葉をください〉と言われたので、最初に歌詞を書いて渡しました」

冨田「角田さんの“Know Don’t Know”は詞先じゃないとできないよね。今回、他の作家の曲が入るということで、僕もプロデュースしていておもしろかった。他人の曲が入ることで、一段階客観性が高まるかな。プロデューサーとしてより俯瞰では見られた気がする。アルバム全体、birdさんの歌、曲の並び。その理由として作曲者が複数いたことは大きかったんじゃないかな」

――birdさんも自作曲“Sunday Sunset”を提供されています。

bird「この曲は別になにかのために作っていたわけじゃなかったんですけど、今回は他の作曲の方も入るということだったので、冨田さんに〈どうでしょうか!〉と提出しました(笑)」

冨田「僕とも他の3人とも違う曲調だけど、いいなと思いました」

bird「私は冨田さんみたいにたくさん曲は作れないけど、ちょくちょくは書いているんです。“Sunday Sunset”は、いつか形になったらいいなと思っていた曲。こうやって形になって嬉しいです」

冨田「でもさ、いちばん最初にやった“うらら”はbirdさんの詞曲だし、『BREATH』でも何曲か書いていたし、もともとの関係性としては、僕がbirdさんの曲をプロデュース/アレンジするという依頼からはじまっているんです。逆に言うと2人だけでやった『Lush』が特異だったのかもしれない。あの頃、僕の興味や仕事の方向がリアルタイムの音楽に向けて変わったタイミングだったから、あのアルバムのときは〈試したいことが全部できるかもしれない〉って思った。今回も『Lush』の続きだから、僕が多くやってるという考え方なのかも」

――アルバムのなかで、これが出来たことがアルバムを決めたという曲をお2人に挙げていただけたらと思うんですが。

bird「私は、冨田さん作曲のものでは、いちばん最後に出来た“記憶のソリテュード”ですね。この曲をいただいたときに、声のレンジについて冨田さんから話をしてもらったんです。冨田さんは、私の声について〈ここからここまでのレンジがいい〉と言ってくださったんですよ。この曲は、決して高すぎでもないし、低すぎでもない。そこをうまく表現できた曲。それがすごく新鮮に感じました。すごく気持ちよく歌えたし、耳に残る。〈いったい、この曲ってなんだろう?〉って思いながら歌いました」

冨田「実は僕もアルバムで印象深いのは、この曲なんです。birdさんはもっと高いところも低いところも出るけれど、あえてレンジを狭くして、いちばん僕がおいしいと思う音域のなかで、いちばん最初に言っていた〈語るように歌いたい〉という意識をデフォルメしたかのような表現をヴァースのところに持ってきた。なおかつ、後のトラックをどんどん変化させなくても成り立つ表現にしようと。いちばん最後に書く曲だったこともあって、作りはじめたときに、それまでにレコーディングしてて思ったことをこの1曲で集約できるかもと感じたんですよ。〈このリフが印象的なんで、ずっと続けたい〉とか、〈Aメロは、喋ってるようにおなじ音符を羅列しよう〉とか。そういうこともあって、やっぱり印象深いですね」

 

歌とリズムの関係

――『Lush』とはまた違うかたちでのプログレスが“記憶のソリテュード”では示されています。

冨田「この取材の最初のほうでも言った、〈いろんなトピックが普通にあるうえで、それらを咀嚼して、選択して、音楽的にやる〉ということも、“記憶のソリテュード”でいちばん表現できたような気がする。しかも、ちょっと聴くと普通にソフトでいい曲という気もするけど、リズムは全部グリッドからグチャグチャにズレてる(笑)。でも、〈birdさんならうまく歌うだろう〉と思ったし、実際に歌ってくれた。リズムについても、特にトピックということでもなんでもなく、自然に浮かんだもの。それも含めて〈birdさんだから大丈夫〉だと思えたし。ある種のアプローチでの成熟した感じとか、表現としてプログレスした感じとかを、birdさんも僕もあの曲でいちばん表せてる」

――これも、初対面ではできない関係性の深さと強さゆえですよね。

冨田「そうですね。だって僕、別に曲の説明してないもんね」

bird「なんにも! 毎回なにもないんですよ(笑)。『Lush』のときも、そうでした。後でミュージシャンの方々に〈よくあれを歌ってるね〉って言われてから、私が〈どういうことですかね?〉って訊くと、〈こういう構造の曲だから〉とかいろいろ説明してくれるんです。でも、私としては(そういう説明で理解しているわけではなく)自然にすごく気持ちよく歌ってるんですよ」

冨田「もちろんbirdさんの才能やキャリアがあるから、分析しなくても自分の耳で聴いて理解して自然に出すことができる。波形が見えて分析できたとしても、実際に声に出してやってみるというのは肉体的な領分ですから。そこはやっぱりbirdさんの稀有なところだし、魅力的なところだと思うんです」

――birdさんの20年の音楽活動、冨田さんとも仕事を重ねてきたなかに『Lush』というエポックメイキングなアルバムがあるっていうのは、すごく重要なことだと思います。それがあったからこそ、birdさんの20周年の節目にふたたび冨田さんとのコラボで『波形』を作れたわけですし。

bird「まあ、ファースト・アルバムから比べると私の歌声も変わってるだろうなとは思います。ただ、これまでもいろんな歌を歌ってくることができて、今回も『波形』に入ってるようないろんな曲が歌えるのは、この20年があったからだと思ってます。やっぱりリズムが難しい曲もいっぱいあるんですけど、それを〈歌えるぞ〉とか〈いけるかも〉って思えるのは、いろんなアプローチの曲をたくさん歌ってこれたからかな」

――歌のうまさっていろいろタイプがあると思うんですけど、birdさんはリズムやサウンドに対する受け止め方がすごく自然というところだと思うんです。

冨田「僕もそう思います。birdさんはいま〈難しい〉とおっしゃったけど、僕は〈birdさんだから大丈夫だろう〉って思いながらいつも作ってるんで(笑)」

bird「難しいのは難しいんですけど、それを歌いきれたらかっこいいんだろうなと思うし、そこに向かえるためにはある程度やってきてないと、とは思いますね。だからこそ、20年目にこの『波形』を出せるんだと思います」

 


Album Information
タイトル:『波形』
リリース日:2019年3月20日(水)
価格:3,000円+税
品番:MHCL-2800
発売:(株)ソニー・ミュージックダイレクト

【収録楽曲】
1. 波形(Music : 冨田恵一/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
2. ミラージュ(Music : KASHIF(PPP)/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
3. 記憶のソリテュード(Music : 冨田恵一/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
4. Know Don`t Know(Music : 角田隆太(ものんくる)/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
5. GO OUT(Music : 江﨑文武(WONK)/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
6. Sunday Sunset(Music & Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
7. Hakeinterlude(Music : 冨田恵一/Arrangement : 冨田恵一)
8. 雪のささやき(Music : 冨田恵一/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
9. 3.2.1(Music : 冨田恵一/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)
10. スローダンス(Music : 冨田恵一/Words : bird/Arrangement : 冨田恵一)

 

bird

シンガー&ソングライター、75 年、京都出身。ソウルフルな歌声と独創性に満ちた楽曲で、ジャンルを選ばず音楽ファンを魅了するシンガー&ソングライター。
大沢伸一/MONDO GROSSO主宰レーベルよりデビュー、ファースト・アルバム『bird』は70万枚突破、ゴールドディスク大賞新人賞獲得。
新譜『波形』発売から〈bird20周年プロジェクト〉が本格的に始動!
現在、ジャンル関係なく各種野外フェス、イヴェントに出演中。

 

冨田恵一(冨田ラボ)

音楽家、プロデューサー、作曲家、編曲家、Mixエンジニア、マルチプレイヤー(ドラム、ベース、ギター、鍵盤)、62年6月1日生まれ、北海道旭川市出身。
数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供する音楽プロデューサー。セルフ・プロジェクト〈冨田ラボ〉としても今までに6枚のアルバムを発売。
2018年発売の最新アルバム『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer"』は次の時代のPOPSを提示する名盤。自身初の音楽書「ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法-」が、2016年度横浜国立大学の入学試験問題にも著書一部が引用され採用されたり、1つの曲が出来ていく工程をオーディエンスの前で披露する 〈作編曲SHOW〉 の開催や、世界中から著名アーティストが講師として招かれることで話題のRed Bull Music Academyにてレクチャーなども行うなど、音楽業界を中心に耳の肥えた音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。

 

KASHIF(PPP)

横浜を拠点とする湾岸音楽クルー〈Pan Pacific Playa〉所属のギタリスト・作編曲家・ヴォーカリスト。同じくPPP所属のネオ・ドゥーワップ・バンド、JINTANA&EMERALDSのメンバー。数々のゼロ年代以降インディーズにおける重要アーティストを中心に好サポート。ギタリスト活動を主軸としつつも、楽曲提供・サウンドプロデュースも行う。ソロではDJをしながら同時にギターを弾く形でセルフセッションする〈ギターDJ〉スタイルでも活動中。基本的に和菓子と日本茶と散歩を愛する傾向が強い。それと飛行機が少しだけ苦手。

 

江﨑文武(WONK)

92年、福岡市生まれ。WONKキーボーディスト。
中学の頃より自身のジャズ・ピアノ・トリオを結成し全国で演奏活動を展開。〈サマーソニック2017〉、〈東京ジャズ 2017〉、〈フジロック・フェスティヴァル2018〉など数々の大型フェスに出演するほか、パリ、ベルリン、シンガポール、台湾など海外公演も多数。CDショップ大賞2017〈ジャズ賞〉受賞。数々のアニメーション音楽・映画音楽の制作にも携わり、映画「なつやすみの巨匠(出演:博多華丸、国生さゆり、板谷由夏、リリー・フランキー)」では音楽監督を担当。冨田恵一(冨田ラボ)T.O.Cバンドのキーボーディストとしても活動しているほか、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース・ワークも多数。

 

角田隆太(ものんくる)

作詞・作編曲家/ベース/ギター/87年狭山市出身。
ポップス・ユニット〈ものんくる〉の作詞/作編曲を担当し、2017年に発売された『世界はここにしかないって上手に言って』がAmazon、iTunes、AppleMusicなど各配信チャート・ジャズ部門1位を獲得。JAZZ JAPAN AWARD新人賞'14、〈フジロック・フェスティヴァル2015〉出演、BLUE NOTE TOKYO単独公演'18、LIQUID ROOMレコ発ツアー・ファイナル'18など全ジャンル対応でボーダレスに駆け巡っている。

 

Live Information
アルバム発売を記念〈bird“波形”ライブ〉

2019年4月19日(金)Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場17:30/開演18:30
2ndステージ 開場20:30/開演21:30
サービスエリア 7,400円/カジュアルエリア 6,400円
★詳細はこちら

2019年5月2日(木・祝)Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場15:30/開演16:30
2ndステージ 開場18:30/開演19:30
サービスエリア 7,400円/カジュアルエリア 6,400円
★詳細はこちら

 

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