〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。 *Mikiki編集部
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4名のシンガーをメンバーに迎えた新体制の冨田ラボが2025年春より始動。最高に斬新なアップデートのニュースに感じて久々にソワソワした。7歳の頃から知っている現在15歳のDJ heykazmaのコラボレイターとして、渋谷のスタジオで最近紹介されたシンガーソングライターの北村蕗もメンバーの一人。彼女のソングライティングやコンポーズのパワーだけでも計り知れないのに、更にヨウ(Natsudaidai)、Arche、santa(S.A.R.)も加わるという。一体どういう方法でメンバーに出会い、加入の運びとなったのか。
主要メンバーという表現になってしまうのも不思議ではあるけれど、冨田恵一氏が還暦を過ぎて更に現代に向けた音楽を紡いでゆくうえで、やはりラボの態勢を若返らせることは生存戦略として必須だったのかもしれない。しかも単なるボーカリストの固定化ということではなく、今後はメンバー4人と共にチームとして進化と成長を楽しみながら、創作活動を行うとのこと。これは勇気のいる決断だったのではないだろうか? 日本のミュージックシーンに於いての冨田ラボという存在は、古き良き良質のポップミュージックからの系譜に続く名作を、確実にプロデュースしてくれる絶対的な技術を持ったクリエイティヴの権化であり、耳の肥えたリスナーからも深い信用を獲得している。この新展開に勝算がないはずはなく、期待以外の言葉は見つからない。
冨田氏が魅せる創作者としての振る舞いは非常に多面的かつ豪快。その綿密な創作過程をYouTubeの公式チャンネルに長尺でアップしたり、即興で行う作編曲をSHOWとして機材やLogic Proの画面をスクリーンに映し出して解説するなど、職人としてのスキルを包み隠さずに公開してしまう。もしもフィル・スペクターやジョージ・マーティンが生きていたら? 冨田ラボに触発されて真似をしたりする世界線もあったのではないかと想像するだけで、胸騒ぎは止まらない。これぞ豊かな時間。
音楽が導く豊かさで連想してゆくと、冨田ラボの名曲たちを様々な再生環境で聴くことに夢中になったことがある。リリース当時、Crystal Kay「Kiss」や中島美嘉「WILL」をあえてガラケーの着うたフルで聴く悦びに始まり、その後はNazをボーカルに迎えた名曲「OCEAN」や長岡亮介との「パスワード」を7”レコードからマーチンのスピーカーで堪能したり、ドラマ「地球の歩き方」サントラはテレビのサウンドバーで、そして新曲「the birds of four」はiPhone経由のAirPodsがしっくりくるとか、サウンドの強度に寄りかかってあれやこれやと遊べてしまうのは何て楽しいのだろう。読んで字のごとし、音を楽しめてこその音楽。
新しい冨田ラボから聴いたこともないサウンドが飛び出して、どんな形で私たちの聴覚へと届くのだろう。そんなことを考えるだけで、ささやかな幸せを感じてニヤリと笑ってしまえる。
PROFILE: カワムラユキ
バレアリック・スタイルのDJ & プロデューサー、作家。近年は渋谷区役所の館内BGM選曲、オープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」の楽曲プロデュースを担当。作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を連載中。2010年に道玄坂にて築約70年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁」をオープン。連動して国内外でラジオ番組やネットレーベルを運営中。2025年7月23日にファーストアルバム『Love Forever』をリリース。
〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は2025年9月25日から全国のタワーレコードで配布開始された「bounce vol.502」に掲載。