(左から)KEIJU、RIRI

海外産ポップスにおいてラッパーがヴァースを蹴り、それを受けたシンガーがフックを歌うマイク・リレーは定石となっている。日本のメジャー・シーンでは決して多くはない形式だが、RIRIとKEIJUがタッグを組んだ“Summertime”を聴けば〈もっと国産でこのようなコラボレーションが増えてほしい〉ときっと思うはずだ。

この曲で見事な歌声を披露しているRIRIは、群馬県出身の19歳。幼少時から洋楽に親しんでいた彼女は、デヴィッド・フォスターが主催する世界的なオーディション〈BORN TO SING ASIA〉への応募をきっかけにシンガーとしての活動をスタート。2016年にはAIと同じステージに立ち、その翌年には米テキサスでおこなわれた〈SXSW 2017〉へ出演、そして2018年にはメジャー・デビューと、絵に描いたようなキャリアを突っ走っている。

一方のKEIJUは世田谷をレペゼンするヒップホップ・クルー、KANDYTOWNの中核メンバーだ。2018年、メジャー・レーベルへの移籍時にアーティスト名をYOUNG JUJUからKEIJUに変更し、ファースト・シングル“Let Me Know”をドロップしている。これまでtofubeats、Awich、JJJ、清水翔太など、豪華な面々から客演のオファーを受けており、ラッパーとしての評価は高い。

そんな2人が共演した“Summertime”の音数少なめでツボをおさえたビートは、宇多田ヒカルのプロデュースによるアルバム『分離派の夏』(2018年)やロンドンへの移住というトピックも記憶に新しい小袋成彬によるもの。磐石の布陣で制作されたと言えるこの曲は、どのようにして生み出されたのだろうか? マイクを繋いだRIRIとKEIJUに、同日リリースとなったそれぞれの新作『Summertime EP』『heartbreak e.p. (deluxe edition)』についての話題も交えながら語ってもらった。

KEIJU 『heartbreak e.p. (deluxe edition)』 KANDYTOWN LIFE/ソニー(2019)

 

RIRI、KEIJU、小袋成彬の3人で作り上げた“Summertime”制作秘話

――資生堂〈アネッサ〉のCMソングとなった今回の“Summertime”でのコラボは、どのように決まったのでしょう?

KEIJU「小袋くんから僕たちにオファーがあったんです。CMを意識しているからか、小袋くんのビートがいつもとは違うなと感じて驚きました。歌詞は僕が半分くらい最初に書いて、途中から小袋くんともスタジオに入って作った感じです。

やりとりは楽しかったですね。普段あんまり人と歌詞を書いたりしないので。KANDYTOWNのメンバーとは歌詞について話し合ったりするんですけど、それ以外の人とは初めてで。最初は緊張したんですけど、小袋くんがいい感じに気を遣ってくれて、楽しく制作することができました」

RIRIの『Summertime EP』表題曲

――RIRIさんは?

RIRI「私はCMソングをやらせてもらえるのが初めてだったので、ワクワクでした。曲調は〈アネッサ〉のCMということもあって、さわやかな感じで。自分の曲でこういう曲はないので、歌っていて楽しいですね。違う自分を表現できる、素敵な機会をいただけたなと思っています。

レコーディングには小袋さんもいらっしゃって、一緒に録っていったんです。メインは自分が歌いたいイメージをそのまま表現させてもらってて、フェイクやハモりの部分は相談しながら一緒に進めていきました。

レコーディングが終わった後もいろいろ話したんですけど、小袋さんは私が知らないことをたくさん知っているので、インスピレーションをどこから受けるのかとか、いろいろなことを教えてもらって、とても刺激を受けました」

KEIJU「小袋くんは話してるときも言葉がきれいで、僕の知らない日本語をいきなり使ってくるんです。そういうところが歌詞にも出てると思います。

あとは、彼の〈こうしたい〉という具体的なイメージがわかったので、何かを要求されても全然嫌な感じがしませんでした。〈いいものを作ろう〉という姿勢が伝わってきました。ぜひまたやりたいです」

――RIRIさんとKEIJUさんはもともと親交があったんですよね。

KEIJU「渋谷のSOUND MUSEUM VISIONでやった僕のメジャー・デビューのローンチ・パーティーにRIRIちゃんを呼ばせてもらいました。もともと彼女の音楽がすごく好きで、それをレーベルの人にも話していたんです。好きな音楽も似てると思って」

※2018年1月28日に開催された〈KEIJU as YOUNG JUJU Presents “7 Seconds” Supported by PIGALLE〉

RIRI「イヴェントでご一緒させてもらってから、私もKEIJUさんの曲を聴く機会が増えました。KEIJUさんの他の人とは違う、独自のラップ・スタイルがかっこいいなと思ってて。メロディアスな感じもあって、そこもすごく好きです」

――“Summertime”はライヴでも3度披露されていますが、そのときの感触はいかかでしたか?

KEIJU「僕はいまもやりづらさがあるんですよね(笑)。客層も自分を観に来てくれる人とは毎回違う感じですし。普段は夜中にライヴすることが多いんですけど、手を振ってるお客さんが見えたとき、すっげえ驚きましたよ。僕のステージなんて、いっつも真っ暗なんで(笑)。パフォーマンスも〈発散するだけ〉みたいな感じ。

でも、この“Summertime”は聴かせる曲なので、ノリだけじゃやれない部分がある。基本的にはRIRIちゃんのセットのなかでやらせてもらうので、ただ盛り上がるだけじゃダメじゃないですか。ダンサーさんともしっかり打ちあわせするアーティストさんだし、彼女のムード感があるから。だから〈ああ、出し切れなかったな〉って毎回考えてます(笑)」

RIRI「そうなんですか(笑)? 私は全然そんなことないんですけどね。ラッパーの方と一緒のステージでライヴする機会もいままでなかったですし、〈心強いな〉って感じてるところもあります。音源どおりに歌うという感じじゃなくて、そのときの雰囲気やテンションによってKEIJUさんのラップも変わるので、私もがんばらなきゃっていつも思ってます」