映画作家でもある甫木元空(ボーカル/ギター)と、他のアーティストのサポートやジャズのライブで主に活動している菊池剛(キーボード)からなる2人組バンドBialystocks(ビアリストックス)。甫木元が監督を務めた映画「はるねこ」(2016年)の劇中音楽を生演奏するイベントをきっかけに2019年から活動開始。つづら折りの坂道を滑らかに転がっていくような不思議なメロディーと、ハイトーンだがどこか末枯れた甫木元の声には革新と郷愁が同居している。さらに菊池が主導権を握る、ソウルやジャズに繋がるアレンジがなされたことによって、現代性と普遍性を調合していくサウンドが生まれている。
映画作家とジャズピアニスト、高知在住と東京在住。甫木元と菊池は、まるでねじれの位置にいるかのようだ。そんな2人がそれぞれの活動で培った経験は、Bialystocksの音楽の随所に感じられる。しかし、彼らは決して化学反応を起こすこと自体を目的にはしていない。蓄積された素養やその時の思考といった自身の中に沈殿しているものに目を凝らし、それをいい歌として輝かせる場所といえるような、風通しのよさを感じる自然体のバンドプロジェクトである。
そんな彼らが昨年のファーストアルバム『ビアリストックス』(2021年)から約1年ぶりとなる新作EP『Tide Pool』をこの度発表。菊池によって書かれた“Over Now”のメロディーに感じるミュージカルコメディーのような軽快さや、“光のあと”の詞の背後にある甫木元の取材に基づいた過去の出来事を現在に引き受けようとする姿勢には、2人の嗜好や日々の営みがピュアに反映されていることを感じる。そんな本作の背景について甫木元と菊池にZoomで話を訊いた。
甫木元空と菊池剛、2人の表現が混ざり合う場所
――このバンドは甫木元さんの監督映画「はるねこ」の生演奏上映をきっかけにスタートしたと伺いました。今回2作目となりますが、お2人にとって今このバンドはどういうアウトプットの場所なのでしょうか?
甫木元空「自分でもよくわかっていないですね……。良くも悪くもバンドっぽくなくって、それぞれ別の活動もしている作家の集まりという方が実態に合っているかもしれません。ゆくゆくは自分の映像と混ぜた表現をしてみたり、それぞれの領域をこのバンドに持ち込むこともできればと。
でもまだどういう方向を目指しているのかは、明確にしなくてもいい時期なのかなと思っています。今考えていることや作った曲を持ち寄って、お互いにいいと思えるものをやっていく場所、という感じでしょうか」
菊池剛「僕はソロでも音楽を作ろうと思い続けているんですけど、そう思ってから早何年……1曲も作れていないんです。でもここ(Bialystocks)ではメンバーが2人いるし、締め切りも決めるから曲を作ろうとする。だから自分にとっては強制力のある場所なのかもしれません。
活動を始めて2年くらい経ちますが、僕の作る曲は、歌詞や歌の面でやっぱり甫木元がいた方がいいものが多いんですよね。だから自分の音楽を具現化する場所にもちゃんとなっていると思います」
――菊池さんはイハラカンタロウさんや大石晴子さんなどシンガーソングライターのサポートもされていますが、メインはジャズのピアニストですよね。そのこととBialystocksでの活動はご自身の中でどのようにすみ分けられていますか?
菊池「自分の中では対極にある表現の場だと思っていて。ライブでやっているジャズはある種刹那的で、その場限りのもの。もちろんそれはそれで充実しているし楽しいんですけど、終わったあとで自分の演奏に絶望したり、虚しさや寂しさが襲ってくることもある。その時に、一瞬の表現ではなく一から構築して、ずっと残るような音楽もやりたいと思ったんです。だからこのプロジェクトでその欲求を満たしていければと考えています」
――うまく両輪になっているんですね。