写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

ルシアーナ・ソウザとのコラボレイション作品『Raising Our Voice』に込められた想い

 1981年のデビュー以来、コンテンポラリー・ジャズ・シーンをリードし続けるスーパー・バンド、イエロージャケッツ。その長い歴史の中、数回のメンバーチェンジが行なわれ、結成時のメンバーはラッセル・フェランテ(key,p)のみになってしまったが、ジャズ、R&B、ロック、クラシック音楽などを包括した幅広い音楽性と高度な演奏技術を駆使しながら、楽しく親しみやすい音楽を生み出すという姿勢は約40年に亘り首尾一貫。ファンの根強い支持を獲得している。そうしたバンドの実力と同時に、数多くのリスナーを惹き付けるもうひとつの魅力が、常に新たな音楽を開拓しようとする飽くなきチャレンジ精神だ。

YELLOWJACKETS Raising Our Voice  Mack Avenue Records(2018)

 彼らが昨年9月に発表したアルバム『Raising Our Voice』は、ブラジルのトップ・ヴォーカリスト、ルシアーナ・ソウザを迎えた作品。インストゥルメントとヴォイスがオーガニックに溶け合った清新な音楽が収められた最新作についてフェランテが語ってくれた。「ルシアーナには以前から注目していたんだ。彼女のパートナーであるラリー・クライン(b)と僕は長年の演奏仲間でね。ラリーを通じて彼女の音楽を知ったんだ。アルバムのアイディアが浮かんだのは、数年前にテレンス・ブランチャード(tp)のバンドで実際に彼女と共演した時。そこでこの作品がスタートした。彼女の魅力は深い洞察力を備えている点。自分のヴォイスをサウンドさせる術を知り尽くしていて、音楽の中に新たな広がりを生み出すことができるんだ」。

 そのソウザの魅力がとりわけ大きく発揮されているのが《Mutuality》という曲だ。「この曲のもとになっているのはマーティン・ルーサー・キング・Jr牧師の言葉なんだ。“真の意味で、すべての生命は内なる世界でつながっている。すべての人は、相互に逃れることのできないネットワークの中に捉えられており、運命というひとつの布で結ばれている”という彼のメッセージをイエロージャケッツの音楽として具現化したもの。すべてのキーのメジャーとマイナーのコードを盛り込んで、人類が築くべき調和の姿を表現している。その他にも、劇作家オスカー・ワイルドが人間の個性について語った言葉にインスパイアされた《Everyone Else Is Taken》や、カソリックの教えのひとつを音で表した《In Search of》のような、現代社会へのメッセージを表現した曲も数多く収められている。それもこのアルバムの重要なコンセプトのひとつだ。現代はあちこちの国や地方で紛争や問題が発生しているけど、世界はすべて繋がっている。その中で、世界をより良いものにするためにも、僕たちは声を上げていく(Raising Our Voice)べきなんじゃないかな」。