ならではの語り口と演奏で、令和に引き継がれる名曲たち
放送20周年を迎えた長寿ラジオ番組〈弾き語りフォーユー〉でもお馴染みの人気ピアニスト小原孝が、大好評シリーズの第3弾を発表。ピアノのお稽古や発表会を懐かしく思い出しそうな名曲から、邦人作曲家による隠れた佳品まで収録した2枚組の大作である。昨年末に亡くなった《サッちゃん》等で知られる作曲家大中恩への追悼も込められているのだという。
「今年の8月に大中先生と演奏会を計画していたんです。突然だったので本当にショックで……。それで大中先生の曲も録音しようと思ったのですが、1曲だけだとバランスが悪いので、他の日本人の作品でもお薦めしたいものを入れることにしたんです」
それで《踏まれた猫の逆襲》や《エリーゼからの手紙》といった、聴けば誰もがニヤりとせずにはいられない作品も収録されることになった。そもそもこのシリーズ、第1弾の選曲をした際にCD10枚分ほど(!)も候補が上り、惜しくも収録されなかった曲が沢山。今回もそのリストから選ばれているという。特に注目したいのがバイエル。退屈な練習曲として語られがちだが、小原が弾くとイメージは一変する。
「今回選んだ7曲のうち4曲は94年に『ねこふんじゃったスペシャル』というアルバムを出した時にアレンジして、ツアーでは地元の子どもたちと共演した思い出の曲なんです。だから今回は原曲を録音しようと」
他にもピアノの発表会で年上のお兄さんお姉さんや先生が弾いていたような憧れの有名曲が充実。しかも、まるで歌曲のように旋律を存分に歌わせつつ、伴奏も有機的に絡み合っていくという、小原ならではの演奏を聴かせてくれるのも実に魅力的だ。
「歌を編曲したものでも殆どの方はピアノ曲としてバリバリ弾かれますが、歌曲寄りの弾き方をするのが僕のスタイル。そういう弾き方が好きなんです」
勿論、作曲家や過去の大演奏家への尊敬も忘れない。 「ショパンの新しいナショナル版など、10種類ぐらいの楽譜を比較しましたが、私はレオニード・クロイツァー先生の系譜なので、クロイツァー版をメインにすることが多いですね。でも繰り返しでは違う版で弾いたり、装飾音を変えたりと原典を学びつつ自分のアイデアを入れていくんです」
この通り、単なる名曲集・小品集と侮るべからず。来年、還暦を迎える小原が長い年月をかけて追求してきた音楽を十二分に堪能できるアルバムなのだから。
「“本当の音楽活動が出来るのは60から”と亡くなられた恩師に若い時から言われてきたので、そこから何が出来るのか? 恩師から教わった大事なことをちゃんと次世代に伝えていきたいと思っています」
LIVE INFORMATION
小原孝ピアノリサイタル 2019 ~弾き語りフォーユー~
○6/28(金)会場:福岡・あいれふホール
○9/23(月・祝)会場:昌賢学園まえばしホール(前橋市民文化会館)
○9/27(金)会場:京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
○9/28(土)会場:上尾市文化センター 大ホール
○11/3(日)会場:神奈川県川崎市・高津市民館