Ovallは〈トルネード型〉で進んで行っている
――でも、いい話です。音楽って互いに影響し合って連綿と続いていくものなので、〈Ovall〉という基点や支点があるのはすばらしいことだと思います。もしかしたら、新作から新しい流れが生まれるかもしれませんし。最近、マイルス・デイヴィスの『Rubberband』という85年録音のお蔵入り音源に手を加えたものがリリースされたんです。あの作品や、80年代前半のマイルス・バンドで活躍したマーカス・ミラーのサウンドを思い出す瞬間も新作にはありましたね。
Suzuki「(関口に)セッションでよくやったよね。10年以上前、マイルス・カフェで〈80年代マイルス縛り〉のセッションしたこともありました。セッキー(関口)も来てくれたよね。懐かしいなあ。〈マーカスになれ!〉みたいな感じでフレーズを全部コピーしたり」
関口「今回は、初期に3人で集まってデモを作っていたころのことを思い出して、〈ああいう感覚もいいよね〉って話をしていたんです。インスト曲が多いのも、それと関係していて」
――mabanuaさんが歌っているのが“Come Together”と“Paranoia”、Up Dharma DownのArmiさんが歌っているのが“Transcend”。それ以外はインストです。
Suzuki「Ovallはだんだん歌モノを増やしてきて、(活動再開後の)“Winter Lights”(『In TRANSIT [Deluxe Edition]』収録曲)も歌モノだったんですけど、自然とインストに立ち戻ったのかな」
――原点回帰?
Suzuki「ただ戻るわけじゃなくて、〈トルネード型〉で進んで行っている、というか。一瞬後ろに戻っているんだけど、渦を巻きながら前に進んでいる。同じモードをやるにしても、10年後の感覚でアップデートされているんです」
好きだったものを素直に出せるようになった
――シンプルな質問なのですが、新作のリファレンスってありますか?
関口「“Dark Gold”には、あきらかにありますね(笑)」
――トランペットが印象的ですよね。
Suzuki「デモのタイトルが〈ロイハー(ロイ・ハーグローヴ)〉だったんです(笑)」
――あはは(笑)! まんまですね。
Suzuki「あと、〈サンダーキャット〉っていうデモもあって(笑)」
――じゃあ、“Come Together”が〈サンダーキャット〉なんですね。
Suzuki「聴いてくれた人が〈あっ!〉って思ってくれればいいかなって。“Dark Gold”はRH・ファクター(ロイ・ハーグローヴのリーダー・バンド)の、重すぎずカラッとした音像や音色を目指しました。
ロイ・ハーグローヴが(2018年に)亡くなって、僕らもすごくショックを受けたんです。彼のトランペットのあの音色は〈Dark Gold〉だった――その意味でこの曲名にしました。この曲では類家(心平)くんが吹いてくれています。あと、“Desert Flower”のサックスは栗原健くんです」
関口「鍵盤は別所(和洋)くんですね」
――別所さんはツアーにも帯同されるんですよね。
Suzuki「僕らにはできないジャズ・ライクなソロが欲しくて、主にソロを弾いてもらっています。いまって、どの時代のリヴァイヴァルもありな気がしているんです。ただ、音色を新しくするのがトレンドだとも感じます。
今回は自分たちが好きだったもの、聴いてきたものを、素直に恥ずかしげもなく出せるようになったんです。昔は〈オリジナルです〉〈真似じゃないです〉って言いたかったんですけど」
――〈ロイハーじゃないです〉と(笑)。
Suzuki「そう。でも、いまは〈○○っぽい〉〈○○が好きなんだね〉って言われるのがうれしいかも」
関口「“Slow Motion Town”にはディアンジェロのオマージュのフレーズも入っているしね」
――オマージュとサンプリング感覚が一緒になったような。ジャズのアドリブで有名なフレーズを入れるのとも同じ感覚ですよね。あと、関口さんのギターの音色は、あまりジャズやソウルっぽくないとも感じました。
関口「Line 6のマルチ・エフェクターを買ったので、それで音を作って〈かけ録り〉しています。フィルター系とかモジュレーション系、ビブラートとか、いろいろ使っていますね。
制作を始めたころは、〈ローズとワウ禁止〉だったんです(笑)。Ovallではワウ(・ペダル)を踏みすぎていて……ワウってずっと踏んでおくものじゃないんです。音がめちゃくちゃ劣化するので、ここっていうときしか使わない。ただ、それがサンプリングされたような音に聴こえるのでずっと使っていたんですけど、あまりに使いすぎて音が似てきちゃったから、最初は禁止。でも、結局使っちゃったんですけどね」
Suzuki「まあ、〈禁止〉っていっても半分冗談なんだけど(笑)。それくらいのつもりで〈新しいものを作ろう!〉って感じだったんです。なんだかんだ2年弱くらい制作していたので、こだわりすぎる必要もないなってだんだん思えてきて」
