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上澄みを掬い取る

 空間を活かし、シンセやサンプルを配した立体的なプロダクションによって、新たなOvall像を明確に提示したのが、アルバムの1曲目を飾る“Stargazer”。2月に先行で配信された同曲は世界中のリスナーに聴かれ、現在では150万回再生を突破とバンドの新たな代名詞となっている。

 「普段はそれぞれがデモを作って持ち寄るんですけど、“Stargazer”はスタジオに集まってゼロから作った数少ない一曲で。まず骨組みを作って、〈わかりやすいテーマが必要だね〉ってなったときに、mabanuaがシンセを入れて、そこで大枠が決まったんです。これまではオルガンやエレピが多かったんですけど、今回はシンセの分量が増えました」(Suzuki)。

 「今回はインストで表現するのが上手い人たちの曲に影響を受けてて、“Stargazer”とかはデイム・ファンクを意識してたり。いま流行ってる人というよりも、昔から聴いてきた人たちの影響をアルバムの中に盛り込んだ感じです。僕、夏にスタジオを建てたんですけど、“Stargazer”とか“Slow Motion Town”はそこでミックスしてて、低音の出し方、帯域にはすごくこだわっていて。ただ、低音は出しすぎると曲のスピード感が消えてしまうので、逆に“Dark Gold”とか“Rush Current”は、重低音を出さないようにしました」(mabanua)。

 “Dark Gold”は昨年11月に亡くなったロイ・ハーグローヴに捧げられた一曲。トランペットに類家心平を迎え、アシッド・ジャズの熱気を現在に伝えている。

 「ロイ・ハーグローヴも3人共通してずっと好きで、やっぱり音楽家としていままで何を蓄積してきたか、そこを表現するのが今回のアルバムの使命だったんですよね」(mabanua)。

 「村上春樹さんが好きで、エッセイとかも読むんですけど、小説でも影響を受けたものをすぐに出しちゃうと、細いらしいんです。〈一回経験として自分の中に沈めて、上澄みとして上がってきたものを掬い取るんだ〉って書いてて、自分もその姿勢を持ちたいなって。なので、いま僕はトム・ミッシュを参考にしたいですけど、すぐにはやらない(笑)」(関口)。

 「“Dark Gold”はライヴでやってて、熱くなれる曲です。出会ってもう十何年ですけど、当時セッションしてた感覚が蘇る。この曲の中にはディアンジェロとかも入ってて、いまとなっては血となり肉となった部分を、それこそ上澄みとして、良い感じに表せたんじゃないかな」(Suzuki)。