デビュー5年目! サックスの始祖に再び未知の挑戦!!
今年でデビュー5年目。上野耕平がこれまでにサックス界に残してきたあまりに多くの輝かしい足跡を振り返ると、〈早いもので〉というよりは〈まだ〉と言った方がふさわしいだろう。その鮮烈なデビュー盤となったサックス・オリジナル作品だけで固めた『アドルフに告ぐ』の第2弾がリリースされた。5つの収録曲は5つはいずれも上野が精選し、録音を待望した傑作だ。その中央には、サックス・ファンにはおなじみに違いないデュクリュック、トマジ、マルタンの近現代作品が並ぶ。「ニューヨーク・フィルのサックス奏者を夫に持つ女性作曲家デュクリュックのソナタは、ドビュッシーの作風を彷彿とさせる優しさと夢見心地が魅力。道化師の葛藤を描いたトマジのバラードには妻の書いた詩が付けられていて、人間の明と暗がまざまざと描かれています。マルタンのバラードは技術的にはさほど難しくないのですが、人間のどん底を描いたような唯一無二の世界観をどう描くかに細心の注意を払いました」
これらの演奏では、共演のピアニスト・山中惇史の妙技も光る。「僕は共演のピアニストを伴奏者ではなく、室内楽のパートナーだと思っています。その点、山中さんは、音色、技術、音楽性のすべてが魅力的で、常に僕にも楽器にも挑んでくる。今回はその凄さを改めて思い知りました」
この3曲を挟む形で冒頭とラストに置かれているのが、逢坂裕と藤倉大の邦人作品。両曲とも上野の委嘱で書かれ、今回が世界初録音になっている。「東京藝大の同級生でもある逢坂さんに新曲を委嘱するのはこれで3回目。ソプラノサックス用で、演奏会のプログラムに入れやすいように演奏時間10分以内で(笑)とだけオーダーしたのですが、実に美しく透明なハーモニーとエネルギッシュさを備えた傑作を書いてくださいました」
“ブエノ ウエノ”では、和太鼓の林英哲と共演しているのも大きな聴きどころだ。「林さんの演奏を初めて聴いて圧倒されたのは大学1年生の時で、以来ずっと共演したいと思ってきました。その夢を実現するために藤倉さんに委嘱したのが今回の作品。いい意味で僕とはまったく異なる音楽性とぶつかり合うことで生まれる新たな化学反応や空気感を存分にお楽しみください」
2020年も上野の快進撃は続き、1月には読売日本交響楽団の定期演奏会に出演。下野竜也の指揮でジョン・アダムズの協奏曲に挑む。上野いわく、「物凄く難しいですが、物凄くいい曲なので吹きがいがあります」とのことなので、これは聴き逃せない!!
LIVE INFORMATION
読売交響楽団 第594回定期演奏会
○2020/1/15(水)19:00開演
【会場】サントリーホール(東京)
【出演】上野耕平(sax)下野竜也(指揮)読売日本交響楽団
【曲目】ショスタコーヴィチ:エレジー/ジョン・アダムズ:サクソフォン協奏曲/フェルドマン:On Time and the Instrumental Factor(日本初演)/グバイドゥーリナ:ペスト流行時の酒宴(日本初演)
uenokohei.com/concert/