トラックが進むほど、サックスやクラシックの既存イメージが刷新されてしまう傑作
「タモリ倶楽部に出たら楽器を辞めようと思って……、皆には悪いけど(笑)」と話すほど筋金入りの“鉄ちゃん”上野耕平26歳。「情熱大陸」に出演する等、異例の注目を集めるクラシックのサックス奏者で、既にソロで3枚、コンサートマスターを務める「ぱんだウインドオーケストラ」としても、CDをリリースしている。そんな上野が力を注ぐもうひとつの活動こそ、サックス四重奏The Rev Saxophone Quartetだ。
デビュー盤ではクラシカルな演目で高度な技術と音楽性を印象付けたが、2枚目となる『Fun!』で遂に本領を発揮。1曲目こそクラシカルな佇まいだが、徐々に〈楽しい!〉が前面に押し出されていく。2曲目“カルメン幻想曲”では、あの有名な旋律が「ちんどん屋風に」爆発したり、メンバーの宮越が編曲した3曲目“Watermelon Man”(ハービー・ハンコックによるジャズ・ファンクの名曲!)では、特殊奏法を駆使して心地よいグルーヴを聴かせる。4曲目は“ふるさと狂詩曲”というタイトルに似つかわしくないほど、〈うさぎ追いし〉と始まる旋律が予想出来ない姿へ変容していく。そして白眉が5曲目“Mutations: A.B.C.”。作曲者の坂東祐大は、別名義でフィギュアスケートのアニメ「ユーリ!!! on ICE」の音楽を手がけるなど商業/芸術、双方の第一線で活躍中。コーネリアスやディアンジェロを敬愛する坂東がジャンルを超えて聴かれるべき傑作を書き下ろしているので聴き逃がせない!
個性豊かな曲目を、圧倒的な技量で聴かせる4人も、これまた非常に個性的。これまでロックバンドでいえば〈ヴォーカル〉にあたる上野にばかり耳目が集まっていたが、ライヴに足を運べば他のメンバーのファンになる人が続出すること間違いなし。最も真面目で、ネジ締め役だという都築は「混ざり合いと主張のし合いを大事にしていきたい」と語り、寡黙だが少ない言葉で核心を突く宮越は「〈奏者が作編曲する〉というのを突き詰めることで、次のステップに進んだレパートリーを生み出したい」と意気込んだ。マイペースな田中は「自分も聴いていて楽しい時って、奏者が楽しんでいる時だと思うんです。それが伝染して共有できる四重奏というのに磨きをかけていきたい」とあくまで謙虚。最後に、上野が「キャッチーさも必要だけど、それだけでは薄っぺらいし。また聴こうとは思わないですよね。だから本当に良いものを、いかに広くどうやって聴いてもらうかが大事。サックスやクラシックのファン以外にも聴いてもらえれば」とフロントランナーらしい抱負を語ってくれた。今後、サックスやクラシックの歴史を塗り替えていく彼らに、今のうちから要注目だ。
LIVE INFORMATION
The Rev Saxophone Quartet ~LIVING ROOM LABO vol.6「what's THE REV!! Let's Evolution!!」~
○3/26(火)18:30開場/19:30開演
会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING